第13話 琉生、覚悟しなさい!
紗椰ちゃんに隠れるようにして草壁君の元へと向かう私。そしてついに草壁君の前に立った。さあいよいよだ!
「あれ? 百瀬さんどうしたの?」
「わ、わ、私が昨日ぶつかった者でして」
「ああ、そうだね」
「信じられないかも知れませんが、ぶつかったのは相撲部の生徒ではなくて私で・・・・。え? 今なんて言いました?」
「君がぶつかってきたのは知ってるよって言ったのさ」
「えええーーー! 何で知ってるんですかー!!!」
私の緊張は一瞬のうちに吹き飛んでいった。
「中園君から聞いたんだよ。最近仲良しなんだ」
「琉生と?」
「だから、君のことはよく聞いているよ」
「え?」
嫌な予感しかしない。
「小さいとき仮面ライダーになると言って家の塀から飛び降りて足を骨折したこととか」
「い!」
私の顔は一瞬のうちに真っ赤になる。それくらい鏡を見なくたって顔の温度でわかる。もう、琉生ったら何をばらしてるのよ! 絶対に許さないんだからね!
「昨日、ぶつかってきたのもわざとなんだってね」
「え! どうしてそれを?」
「中園君が『俺にもぶつかってきたからわざとだぜ』って言ってた」
琉生〜! 後で殺す!!
「ごめんなさい。悪気はなかったの」
「わかってるよ。僕のことが好きだからでしょ?」
私の顔はさらに赤くなる。正確に言うと赤を通り越して茶色になっている。
「いや、その、ええと・・・」
「ラブレターくれてたよね」
草壁君は鞄から私のラブレターを取り出して言った。
あっ! ラブレターの封が切ってある。読んでくれたんだ!
「あのたくさんの量のラブレターを全部読んでるんですか?」
もしかして私のだけ読んだの? という期待を込めて言ってみた。
「ああ、全部読んでるよ。一生懸命書いてくれたものだからね」
違った。そして私は自分の書いたメモのようなラブレターが急に恥ずかしくなってきた。他の人と比較されているよね?
「ごめんなさい。変なラブレター書いちゃって」
「いいや、これはこれでいいと思うよ。ここへ至るまでの過程が想像できて」
ははは・・・・その過程も碌なものじゃないんだけど・・・・。織田信長が三角フラスコを持っている姿が頭に浮かぶ。
「一つ質問していいですか?」
「どうぞ」
「こんなにもてるのに、どうして誰とも付き合わないんですか?」
「中学の頃は彼女がいたんだ」
何ですと~! 私は思わず身を乗り出して聞いた。
「ところが、その子がみんなにいじめられるようになって・・・・。最後は不登校になってしまった」
草壁君の目が私を見る。
「僕のせいだよね・・・・」
「そんなことないと思います!」
私は自然と言葉を発していた。
「ありがとう。でも、二度と同じ過ちを犯さないように誰とも付き合わないようにしてるんだ」
「いじめる方が悪い! 草壁君は悪くない!」
「一人でもそう言ってくれる人がいると嬉しいよ」
「私、草壁君と付き合えるのならいじめられたっていい!」
自分が告白していることに気付くのに数秒かかった。私は両手で顔を覆って逃げ出そうとすると、沙耶ちゃんが私を止めた。
「ありがとう、僕も君みたいな一途な子は大好きだよ」
ん? 今何て言った?
私は手を顔から放して草壁君をそっと見る。
「でも、今は自分に自信がないんだ。だから付き合えないけど」
ええ〜! これって振られたの? いじめられたっていいのに〜。あれ? 『今は』って言った? もしかして少しは期待していいのかな?
「それに君には彼氏がいるじゃないか」
微かな希望の日差しが見え始めた矢先に予想だにしない言葉が聞こえてきた。
「い、いないよ!」
私は全力で否定する。
「中園君だよ。とても親しいんでしょ?」
「琉生?」
「ああ、中園君は君のことを話すとき、とても嬉しそうに話すんだ」
「琉生は隣に住む幼なじみってだけで恋愛対象じゃないです」
「そうかなあ」
「そうです!」
語気を強めて言ってみた。ここで変な誤解をされては大変だ!
「じゃあ、僕のことを『草壁君』じゃなくて『裕哉』って呼べる? 中園君のことは琉生って読んでるでしょ」
「もちろん呼べます!」
「じゃあ、言ってみて」
「ゆ、ゆう、ゆう・・・」
ボン! 私は顔から大量の炎を発した。このままだと鼻や耳から血を吹いて倒れてしまいそう。草壁君は笑みを浮かべて私を見ている。私ってどうしてここ一番に弱いんだろ? もう一歩の所なのに~!
「どう、なかなか言えないだろう?」
「だって、まともに話したの今日が初めてだから」
「そう、付き合いの歴史が違うんだよ」
「そんなのすぐに慣れます!」
「中園君は君のことが好きなんじゃないかな?」
ええーーー!
「そんな話は聞いたことがないよ!」
「これから聞くよ。きっと」
琉生ったら普段どんな話をしているのよ! もう、せっかく告白したのに〜! 結局、振られた形になってしまったじゃない!! やはり琉生を亡き者にしないと私の夢は叶わないようね。そして私は常軌を逸した結論に辿り着くのであった。