第12話 いざ勝負!
校舎の外に出るとすっかり夜になっていた。これは帰ったらお母さんに怒られるかも?
「こんなに暗くって、もし変質者が現れたらどうしよう」
「大丈夫だって。あたしたち狙う変質者なんかいないから」
「でも〜。柚衣ちゃんは可愛いよ〜」
「そうね。柚衣はそこそこ可愛いか」
「何、その中途半端な褒め方は?」
と言いつつ思わず顔がほころんでしまう。こんなこと滅多に言われたことないし。これが草壁君だったらもう死んでもいいよ。
「何てったって柚衣は明日からは学校一人気者の草壁君の彼女だもんね」
「ええ〜! 紗椰ちゃん何言い出すの?」
「そうだよ〜」
「野乃葉ちゃんまで」
「今夜は『私は草壁君の彼女だ』と自己催眠をかけて寝るのだぞ」
結局その夜、私は自己催眠が強烈すぎて徹夜する羽目になってしまった。
そして遂に運命の朝がやってきた。嫌われるのか気持ちが通じるのか。沙耶ちゃんはいい方向にしか考えない性格なので紗椰ちゃんの言葉は当てにならない。昨日は自分の気持ちを伝えるのに一生懸命になって練習したけど、よくよく考えてみると草壁君は怒っているかもしれないんだよね。もし謝っても許してもらえなかったら、それこそ私の一生はうら若き十七歳で終わってしまう。ましてや『わざとぶつかりました』なんて、言うんだよ。やっぱり無理だわ。
私は今朝テレビの占いで言っていたラッキーアイテムの黒いしっぽアクセサリーを鞄に付けて家を出た。因みに占いの順位は最下位だ。
いつもより早く学校に着いた私は緊張をほぐすため大きく深呼吸をしていると沙耶ちゃんと野乃葉ちゃんがやってきた。
「柚衣、昨日はよく眠れた?」
「全く眠れなかった・・・・」
「どうして? こんな楽しみな日はないのに」
「もし嫌われたらどうしようとか思っちゃうと眠れなくて」
「マイナス思考はダメだよ。本当にそうなってしまうから」
そ、それは困る! てかこれって今一番聞きたくない言葉だよね。
「ははは、今日は楽しみだなぁ・・・・」
「そう、それでいいの」
絶対に違うよね? めっちゃ棒読み台詞だし。
謝りに行くのは昼休み。朝は野球部の朝練があるため草壁君は忙しいからと言うのが理由。だったら早く来る必要はなかったよね。と言うわけで午前中の授業はほとんど上の空だった。真面目だけが取り柄の私なのに。
さあ、いよいよ昼休みだ!
「運命の時だね」
沙耶ちゃんの目は輝いている。いつものパターンだ。これだけでも結果が見えてる気がするけど。
私たちは草壁君のいる8組を覗いた。
「ああ〜、いるよ〜」
草壁君は教室の中程の席で一人何かをしている。草壁君を取り囲むように数人の女子がいるのが気になる。いつもこんな感じなのかな?
「ライバルが~多いねぇ~」
野乃葉ちゃん、これも一番聞きたくない言葉だよ!
彼女たちは草壁君をちらちら見るが話しかけようとはしない。よほど重要な仕事でもしているのだろうか?
「行こう!」
沙耶ちゃんが私の手をぐいっと引っ張った。私は胸を押さえながら紗椰ちゃんのなすがままに歩き出す。脈拍は優に200を超えていそうだ