第11話 告白作戦?
「どうしよう」
途方に暮れる私は落ち着きを失っていた。それはそうだ。大好きな片思いの彼を突き飛ばして病院送りにしてしまったのだから精神状態は尋常であるはずがない。
「とにかく先生に聞いてみようよ」
紗椰ちゃんの提案に小さく頷いた私は二人で職員室へと向かった。そして担任の森先生を見つけると慌てて駆け寄った。
「先生。草壁君にぶつかったの私です。草壁君はどうなったんですか?」
「あなたがぶつかったの? てっきり柔道部か相撲部の男子がぶつかったのかと思ってたわ」
どういう意味よ!
「草壁君なら大丈夫よ。軽い脳震盪を起こしただけらしいわ」
「本当ですか? 良かった〜。私、謝りにいかなくちゃ。先生、草壁君はどこの病院にいるんですか?」
「市民病院だけど、入院するわけじゃないからあなたが行く頃にはもう家にいると思うわ」
「じゃあ、家に行った方がいいのかな?」
「明日は学校に来るそうだから、学校で謝ったら?」
「それでいいのかな?」
「まあ、わざとぶつかったわけじゃなし。いいんじゃないかしら」
ははは・・・・わざとなんですけど・・・・。
「それと廊下を走ったらだめよ」
「ごめんなさい」
仕方ない。明日謝ろう。でも、なんて謝ったらいいのかな? きっと悪いイメージを持たれてたよね。どうしよう。ああ、嫌われちゃうよ~! どうすればいいの?
「きっと私嫌われたよね。どう謝ったらいいのかなぁ?」
「これはチャンスだね」
突然、沙耶ちゃんがわけのわからぬことを言い出す。
「チャンスって?」
「せっかく話をするんだから告白しちゃおうよ」
ええ〜!!! 沙耶ちゃん、発想がぶっ飛びすぎてるよ!
「そんなの無理だよ!」
お願いだからハードル上げないで!
「何もかも正直に話して、気持ちを伝えるんだよ」
「ダメ! そんなことしたらもっと嫌われちゃうよ!」
「当たって砕けろ!」
「砕けたくないよ~」
「よし、今日は草壁君に話す内容を考えよう」
私たちは野乃葉ちゃんを誘って作戦会議を始めた。やはり予想通り沙耶ちゃんにうまく丸め込まれる私だった。
「じゃあ、137回目の練習をやるよ」
「は、はい」
沙耶ちゃんの顔つきがだんだんきつくなってくる。136回練習して一度もきちんと言えたことがないのだ。
「いい? 野乃葉を草壁君だと思って感情込めてやるの」
「わ、わかってる」
「はい、じゃあスタート」
「あのう、百瀬柚衣です」
「何か〜用ですか〜?」
「実は昨日、廊下でぶつかったの私なんです」
「何だって〜」
「ごめんなさい。わざとぶつかってしまいました」
「どういうことだい〜」
「私、草壁君のことが好きなんです。いえ、好きと言うよりあ、あ、あい、あい、あいうえお・・・」
「カット!」
沙耶ちゃんが大きな声で言う。
「どうして『愛してます』のところになると言えなくなるの?」
「恥ずかしいからだよ。どうしても言葉が出てこないの」
私は指をもじもじさせながら答えた。
ああ、外は暗くなり始めてるよ。今夜はここに泊まらせられたりして。紗椰ちゃんの鬼の形相を見るとそう思えてくる。
「一番伝えなければいけない言葉が出てこないのは困ったものね」
「だって、いきなり『愛してます』は言い過ぎじゃない?」
「いや、第一印象は大切なの。よりインパクトを付けて言わなきゃいけないよ」
「そんなものかな?」
その後、沙耶ちゃんの恋愛論が語られる中、練習は更に続けられるのであった。
「じゃあ、138回目いくよ!」
「ごめんなさい。わざとぶつかってしまいました」
「どういうことだい〜」
「私、草壁君のことが好きなんです。いえ、好きと言うより藍してます」
「カーット! 今度は漢字がちが~う!!」
「漢字が違うのは別にいいんじゃない? 見えないんだし」
「ダメ! 伝わり方が違ってくるでしょ!」
「じゃあ、139回目いくよ!」
「ごめんなさい。わざとぶつかってしまいました」
「どういうことだい〜」
「私、草壁君のことが好きなんです。いえ、好きと言うより愛してます」
言えた!!!
「君には~遥香ちゃんという~恋人がいるだろう~」
「うおおおお~!」
「野乃葉! 余計なアドリブを入れない!」
そして先生に注意され、練習が終了した頃には外はすっかり暗くなっていた。