第1話 作戦開始?
「柚衣、一緒に帰ろう」
「帰ろ~」
後ろから声をかけてきた二人組は、親友の沙耶ちゃんと野乃葉ちゃん。
「あれ? 今日はクラスの用事で遅くなるんじゃなかったの?」
「意外と早く終わったのよ」
私は百瀬柚衣。高校2年生。
私たち三人は小学校から現在の高校2年まで同じ学校の大親友。だけど私たちはまだ一度も一緒のクラスになったことがないの。
高校2年になって、やっと沙耶ちゃんと野乃葉ちゃんは同じクラスになったけど・・・・。私だけ仲間はずれ。
「はい、これ」
沙耶ちゃんが私の頭に何かを置いた。
「え? 何これ?」
頭の上に載せられた袋には見覚えがある。
「誰かさんのエプロンとか三角巾とか」
沙耶ちゃんは意地悪っぽく言う。
「あ、私のだ!」
「調理室に~置きっぱなしだったよ~」
ゆっくりとした口調で野乃葉ちゃんが話す。野乃葉ちゃんはゆったりとした性格で決して慌てることはない。一度でいいから火事とか地震に遭ったときの顔を見てみたい。
「ところで愛しの彼とはどうなったの?」
突然、沙耶ちゃんがにやにやしながら私を見て言った。
「どうにもなってないよ!」
「ほう、まだコクってないと?」
「そう簡単にはいかないし。私の状況知ってるくせに」
「愛しの生徒会長様」
「からかわないでよ!」
私は現在片思い中。相手は草壁裕哉君。学年は私と同じ2年生で現在生徒会長。学校一の有名人な上にかっこよくて運動もバツグンのみんなのあこがれ!
もの凄くもてるのになぜか特定の彼女を作らないのが不思議なんだけど。
私の片思い歴は長く、もう1年が過ぎようとしている。その間、告白は一度もしていない。していないというか何もできないというのが事実かな。だって真剣に人を好きになったの初めてだし。私にとってはこれが初恋だから仕方ないよね。
「そろそろ本格的な作戦決行の時が来たのかな?」
沙耶ちゃんはいろいろな作戦を考えてきては私に報告してくる。ほとんどが滅茶苦茶なものだけど。
「あまり変なことすると~嫌われちゃうよ~」
野乃葉ちゃんはいつも冷静な鋭い意見を言うが、 なぜかその意見はスルーされてしまうことが多い。どうしてだろう?
「やっぱり告白はラブレターだよね」
沙耶ちゃんがニヤリと笑って私を見る。
「メールって手もあるよ~」
野乃葉ちゃんまで笑顔になってる。
「野乃葉、大切なことを忘れてない?」
「え~? 何~?」
「生徒会長様のメアド知ってるのかな?」
「そっか~。やっぱり手紙だね~」
野乃葉ちゃんは大きく頷いた。
「ちょっと、何勝手に二人で話を進めてるの?」
私は二人の会話に割って入った。このまま話を進められたら不味い結果にしかならないのは目に見えている。
「というわけでラブレター書きなよ」
沙耶ちゃんは嬉しそうに私を見た。
「嫌よ、恥ずかしいし」
「このまま何も行動しなくていいの?」
「それは良くないけど・・・・」
「じゃあ決まりだね。ラブレター書こ!」
目をきらきら輝かせながら沙耶ちゃんが言う。
本当に私のためを思って言ってくれているのか、おもしろがっているのか分からない。今までの傾向から考えると、おそらく8対2の割合でおもしろがっているのだと思う。
そんな話をしていると、私たちはいつの間にか家の近くまで来ていた。
「あ! 今日は塾があるからダメ」
私は塾があるのを思い出しホッとする。沙耶ちゃんはがっかりしたような素振りを見せていたが、ニヤリと笑みを浮かべると何故か頷いている。沙耶ちゃんが無言で頷いた後は碌なことがない。私は一抹の不安を抱きながら家に帰った。