表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シロクロ

作者: shia
掲載日:2023/11/19

白い部屋。

そこに私は居た。

私の髪も白くて、この部屋には本当に白しか無い。

ベッドしかないこの部屋で、私はベッドの上から動くことが出来ない。

私は自分の意思でこの部屋から出ることは出来なかった。


黒い少女がこの部屋に来た。

初めて見る、白以外の色。

初めて見る、私以外の存在。

黒い少女が私に問う。

「貴方はここにずっと1人でいるの?」

私は答えた。

「そう、ここから出たことがないの。体が動いてくれないから。私以外の存在を初めて見たわ。」

黒い少女は動揺したような顔をした後、困った顔で言った。

「そっか。」

黒い少女は無言でこの白い部屋から出て行った。

何処と無く、私と声が似ている気がした。

もっと話してみたかったな。そう思う。

あの子はどうしてここに来たのだろうか。

もし、次に来た時は聞いてみよう。

『次』なんてあるのかな。


黒い少女が来た。

もう来ないと思っていたから、すごく驚いた。

それと同時に、とても嬉しかった。

驚くのも、嬉しいと思うのも、初めてだった。

黒い少女は私に言った。

「私は外の世界を知っているの。あなたが望むのなら、教えてあげる。」

外の世界。

私の知らない世界。

知りたいと思った。だから私は望んだ。

それから、黒い少女は頻繁にこの部屋に来るようになった。

外の世界の話をいっぱいしてくれる黒い少女。

大好きになった。

大好きというのも、初めて知った。


黒い少女は、私が見たことの無い物を持ってきた。

「それは何?」

私が問う。

「これは、お花。外の世界にはいっぱいあるの。」

黒い少女が答える。

「お花。」

「そう、お花。この花は赤色の花なの。花弁は赤で、茎や葉は緑色。」

「赤。緑。」

私は黒い少女の言う色を繰り返した。

初めて見る物。

綺麗なお花。

だけど、お花はゆっくりと消えていった。

私は驚いた。黒い少女も驚いていた。

それから黒い少女は、お話と一緒にお花や果物など、私の見たことの無い物を持ってくるようになった。

消えてしまうとわかっていても、私に多くを見せてくれた。

いつしか、私たちは互いを『クロ』、『シロ』と呼ぶようになっていた。

彼女は黒いから『クロ』。

私は白いから『シロ』。

安直だけど、嬉しかった。

仲良くなれた気がした。

この部屋では、私以外の存在は消えちゃうのに、どうしてクロは消えないんだろう。

不思議だった。

でも、クロは大丈夫なんだと信じていた。


またクロは私に外の世界を教えてくれていた。

なんとなく、ただ本当になんとなくだった。

私は、クロの手に、触れてみた。

「痛っ。」

私の手に激痛が走った。

私の体が蝕まれるような、痛み。

「どうして私に触ったの!」

クロが怒鳴る。

どうして。どうして。

お花は触れたのに、果物は食べられたのに、クロにはどうして触れたら痛いの。

クロは私に語りかける。

「怒鳴ってごめんなさい。だけど、私にはもう触れないで。シロに痛い思いをして欲しくないから。」

悲しかった。

温もりを知ることが出来ないことが。

クロに触れ合えないことが。

悲しいということを、初めて、知った。


どんなに仲良くなれても、触れ合うことは出来ない。

悲しくて泣きたい時に抱き締めてもらえない。

クロが泣いていても抱き締められない。

近くに居るのに、いないような。

そんな距離感だった。

それでも、クロはやって来た。

初めて見る物を必ず持って来た。

それでもいいと思った。

触れなくても、クロとずっと一緒に居たいと思ったの。

永遠を望んだ。


クロが来た。

何も持っていない。

何も語らない。

「どうしたの?」

私が問う。

何も、言わない。

暫くするとクロが口を開いた。

「私は知っていた。シロのこと。最初から。」

そして、クロは語り出す。

私たちのことを。


「この世界は、『人間』の人格を作り上げるための空間。」

「『人間』って何?」

「私たちが混ざり合った末に生まれる存在。」

何を言っているのか、私に理解出来なかった。

それでも、クロは続ける。

「私たちが混ざり合った時の色が、生まれる『人間』の根元にある人格になるの。白は優しさや素直さ。黒は醜さや卑しさ。

本当はね、絶対にこの部屋には入らないって思ってた。もし、入らないといけなくなったら白い少女を殺してやる、苦しめてやるって思ってたの。だけど、出来なかった。シロを初めて見た時、寂しそうで、つまらなそうで、儚くて、助けたいと思ったの。消したくないって、そう思ったの。私には醜さや卑しさが足りなかったみたい。」

そう言うクロは、とても優しい顔をしてた。

クロと一緒に居ることが出来たのは、クロの優しさがあったから。

それはとても嬉しいことなのに、喜べない。

嫌な予感がしている。

胸の奥が、ざわざわしている。

「シロはとても素直で可愛かった。シロを苦しめるなんて考えられなくなってた。守らなきゃって思ったの。私からシロを。

黒は白を飲み込むから、私たちが触れ合うとシロの方が痛みを感じるの。触れる度にシロを蝕んでしまうから。だから、触れることが出来なかった。触られることが出来なかった。」

クロは私を守ろうとしていた。

この世界にいる時点で、私たちは争うはずだったんだ。

私は、クロに守られて生き残っていた。

「この部屋では、シロ以外は消えちゃったよね。それは私も例外じゃないの。ちょっとずつ、ゆっくりと時間をかけて消えていたんだよ。でも、私はそれでいいの。シロを守れた証拠だから。」

そう言うクロの体は、ゆっくりと透けていた。

消えていく、ゆっくりと。

クロが、私の目の前から、消えていく。

嫌だ、と思った。私の目から水が流れる。

直感的に思った。

これは涙だ。これが、涙だ。

「ごめんね、シロ。シロが泣いているのに私は抱き締めてあげられない。

でもね、私たちは今から一つになるの。これからずっとずっと一緒。『人間』として産まれたら、この世界の出来事は、思い出は消えてしまうけど、心の奥底ではきっと忘れない。大好きだよ、シロ。」

笑った。クロは最後まで涙を流すことなく、笑った。

音も無く静かに、クロは消え去った。


一つになれて、とても嬉しい。

これからはずっと一緒だから。

クロが消えて、悲しい。

もう、クロとは話せないから。

忘れてしまうのは、苦しい。

大事な、とても大事な思い出だから。

消えていく。この世界も、クロも、思い出も。

そして、白と黒はゆっくりと混ざり合った。


20XX年2月1日。

とある総合病院で新しい命が生まれた。

その子の名前は『ゆう』と名付けられた。

とても、優しい子になって欲しい。

そんな願いを込めて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ