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第七百三話 祭は終わり、そして(二)

「なにが起きたんだ?」

 統魔とうまは、半ば呆然ぼうぜんとしながら上体を起こした。

 第七衛星拠点の訓練所の一室に、彼らはいる。

 室内には、皆代みなしろ小隊の面々が勢揃いしていた。

 統魔、ルナ、あざな香織かおり枝連しれんつるぎの六名だ。

 全員がほぼ同時に覚醒したのは、全員が全員、ほとんど同時に撃破されたからにほかならない。

 幻想空間から現実世界への回帰。

 それに伴い、幻想空間で感じた痛みというのはほとんど消え失せていた。わずかばかりの余韻よいんが残っているが、それもたいしたものではない。ほどなく消えて失せるだろう。

 天井照明の淡く穏やかな光の下で、感覚を確かめるように拳を作り、開く。

「わかんないけど、なんか爆発した気がする」

 ルナが自分の寝台から統魔の寝台へと場所を移すと、字が彼女を一瞥いちべつした。そんな字の反応を横目に見ているのが香織であり、剣はなんともいえない顔をする。

 枝連は、厳つい顔をいつも以上に険しくしていた。

「味方から攻撃されたってことか?」

「まさか」

絢爛武闘祭けんらんぶとうさいの記録映像って簡単には見れないんだっけ?」

「ああ。本部の許可がいる」

「見ればなにが起きたのか、一発でわかるのにな」

 剣が、肩を落とすのも無理はなかった。

 統魔たちは、なにが起きたのか、まるで理解できていなかった。

 絢爛武闘祭については事前に理解していたこともあり、開始早々、一丸となって状況に対応することができていた。

 皆代小隊の中で大式典に初めて参加するのは、剣とルナの二人だけだ。それ以外の四人は、昨年の大式典に参加していたし、絢爛武闘祭で大敗を喫した事実が鮮明な記憶として残っていた。

 だから、今年こそ少しくらいは粘って見せて、一矢報いるくらいはやって見せよう、というのが、皆代小隊の決意だった。

 そのための手段は、揃っている。

 それこそが、統魔とルナの星象現界せいしょうげんかいだ。

 特に統魔の星象現界・万神殿パンテオンは、他者に星装せいそう貸与たいよする能力を持つ。星装を貸与された導士たちは、戦力として十全に機能するだろうし、期待もできた。

 だが、いまにして思えば、見ず知らずの導士たちに星装を貸与するよりも、星霊せいれいのまま活動させたほうが余程戦力になったのかもしれない、などと、統魔は考え直したりもする。

「……どう思う?」

「結果を見れば、そちらのほうが良かったかもしれませんね。万神殿パンテオンの能力を把握できているのは、わたしたちだけですし、突然、強大な力を貸し与えられたとして、混乱するほうが大きいかもしれません」

 字は、統魔にべったりくっつくルナから視線をずらして統魔の紅い瞳を見つめると、そのように述べた。

 統魔から貸し与えられる星装の力は、強大無比だ。

 まるで自分自身が神にでもなったかのような気分を味わえるほどに強烈で、圧倒的だった。そして、初めてその感覚を味わったとき、字は、力を制御しきれなかった。

 そのことを思い出すのだ。

「そうだよね。うん、きっと、そうなんだよ」

「うん?」

「だから、統魔から借りた力の大きさに混乱した誰かが自爆しちゃったってこと。それで、わたしたちもみんな巻き込まれたんじゃないかな」

「なるほどにゃー」

「確かに……それなら納得できるな」

「できるのか?」

 統魔は、枝連や香織たちがルナの推論を肯定するのを目の当たりにして、なんともいえない顔になった。

 自分の作戦が最初から間違っていたといわれるようなものだ。

「だって、みんな星象現界なんて使ったことないんだよ? たいちょとは違ってさ」

「そりゃそうだが」

 香織が大きく伸びをする様を見遣りながら、統魔は、静かにうなずいた。

 そう言われれば、納得するしかない。

 確かにその通りかもしれない。

 初めて星象現界を発動したとき、統魔は、その力の膨大さに圧倒され、酔いかけたという事実がある。力に振り回され、我を忘れかけたのだ。辛くも踏み止まったものの、力は、彼の制御など素知らぬ顔で吹き荒れ、暴走した。

 結果として上手くいっただけのことであり、魔法とは完璧に制御してこそのものである以上、あれを成功体験などと考えてはならなかった。

 だからこそ、統魔は、日夜、星象現界の訓練に勤しんでいるのだ。

 今回の絢爛武闘祭で星霊を八体も出すことができたのは、日々の訓練の成果である。

 それでもかなり無理をした結果であることは、いうまでもない。

 星装を貸与した誰かが暴走したのは、その無理がたたったからなのではないか、とも想う。

 そして、大式典は終わった。

 絢爛武闘祭も惨憺さんたんたる結果に終わったが、そもそも、大敗を喫するのが通過儀礼つうかぎれいなのだ。

 元より勝てる見込みはなかった。

「まあ、いいんじゃないか?」

「うん?」

「統魔の一矢、確かに届いたはずだ」

 枝連の真っ直ぐな眼差しを受けて、統魔は、微苦笑をもらした。

「そうかな。そうだと……いいな」

 


「中々、悪くはなかった」

 そんな風に言い出したのが美由理みゆりだったのには、さすがの火倶夜かぐやも吹き出しかけた。

「さすがは弟子に激甘げきあまな美由理ちゃんね」

「……どういうことですか」

「どうもこうも」

 火倶夜は、美由理の冷ややかな視線を避けるように目を逸らしながら、室内を見回した。

 大会議室には、絢爛群星大式典けんらんぐんせいだいしきてんおよび絢爛武闘祭を終え、十二軍団長が勢揃いしていた。

 ただし、全員が全員、この場に揃っているわけではない。

 半数の六名が衛星拠点から参加していたし、央都防衛任務中の六名の星将のうち半数も、幻板を通して参加している。

 火倶夜も衛星拠点から、幻板を通して戦団本部の会議室を覗き込んでいるという有り様だった。

 致し方のないことだ。

 央都防衛構想を無視し、全軍団長が一堂に会することなどあってはならない。

 そんなことをすれば、途端に央都の、人類生存圏の安寧あんねいは失われ、秩序も平穏もなにかもが崩壊してしまいかねない。

 今回、大式典に十二軍団長が参加するというだけでも、大変なことだったのだ。そのためにどれだけの調整を必要としたのか、想像するだけでもうんざりとする。

「きみの弟子は確かに良くなったね」

 とは、会議室内の九乃一くのいちの発言である。正装姿だった幻想体とは異なり、可憐な衣服を身に纏った現実の彼の姿は、アイドル小隊にも引けを取らない魅力があった。

 彼がその姿で大式典に参加したのであれば、彼に対する歓声は何十倍にも膨れ上がったのではないか。

「ぼくたちがしごき上げただけのことはあるよ」

自画自賛じがじさんですわね」

 苦笑を交えたのは、万里彩まりあだ。彼女は、幻想体とほとんど変わらない礼装を身に纏っているのだが、普段着と大差ないような格好でもある。非常に落ち着いた色合いの、気品に満ちた格好だ。

「しかし、銃の扱い方に関しては及第点以下といわざるを得ませんね」

「そう……でしょうか?」

「はい。わたくしに一発も当てられないというのは、つまり、そういうことでしょう?」

「ええと……」

 美由理は、幻板の向こう側で微笑を湛える神流かみるの結論にはなんともいえない顔になった。

銃の扱いで神流の右に出るものはいない。

 少なくとも、戦団の導士の中では、だが。

 神流の攻型魔法こうけいまほうは、銃火器に纏わるものが多いが、それは彼女が銃の扱いに長けているからこそ編み出された魔法の数々だった。

 時代遅れの銃の扱いがなぜ上手いのかという疑問には、神流の一言で終わってしまう。

『かっこいいから』

 そして、神流は、美由理に申し出たのである。

「なんでしたら、わたくしが幸多くんに教えて差し上げましょうか? 銃の扱い方を」

「神流様がよければ、是非」

「はい、約束しました」

 神流の満面の笑顔には、邪気が一切なかった。およそ悪意とは無縁の存在なのが、神流だ。それ故の人徳の高さであり、人望の厚さなのだ。

 美由理は、心底敬服しているし、そんな彼女からの申し出には歓喜さえした。

 神流ならば、今の幸多に足りない部分を間違いなく補ってくれるだろうし、鍛え上げてくれるだろう。


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