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第六百八十六話 絢爛群星大式典(六)

「相変わらずすごい人気だねえ、流星少女隊りゅうせいしょうじょたい。新曲も順調だし、写真集も爆発的に売れてるって話よ」

「そうか……」

「どうしたの。妹が人気で嬉しくないの?」

「嬉しいわけねえだろ!」

「そうなのか?」

 不意に声を荒げた明日良あすらの様子に対し、美由理みゆりは、不可解な顔をした。

 一方、明日良をからかっていた火倶夜かぐやは、といえば、余計なことをしてしまったとバツの悪そうな顔になっている。

 大式典だいしきてんの会場は、幻想空間上に構築された広大な宇宙空間であり、舞台は、その中心座標に配置された宇宙基地である。

 宇宙基地内には舞台裏があり、その控え室に星将せいしょうたちは集っていた。無論、星将の幻想体が、である。

 そして、舞台裏にも、会場全体に響き渡る流星少女隊の歌声が聞こえてきていた。

 天空地てんくうじ明日良の実妹、天空地明日花(あすか)りんとした歌声は、いつ聞いても耳心地のいいものだ――と、美由理は思うのだが。

「なんだって明日花が広報に駆り出されなきゃなんねえんだ?」

「そりゃあ、きみの妹が広報部のお眼鏡にかなったからだよ」

 と、明日良に告げたのは、新野辺九乃一しのべくのいちである。大式典の場ということもあって、いつもの異性装いせいそうなりを潜めているのだが、身につけた正装そのものは彼によく似合っていた。彼の中性的な容貌ようぼうがより際立っているように見えるのは、気のせいではあるまい。

 つまり、可憐かれんだということだ。

「それにさ。なにもきみの妹だけが広報に駆り出されているわけじゃない。ねえ?」

「そ、そうですよ」

 話を振られて困り顔になったのは、城ノ宮日流子(じょうのみやひるこ)である。その容姿から広報に引っ張りだこなのは、日流子も同じだった。

 導士活動とは関係のない写真集すら打診だしんされたほどだ。

 もっとも、日流子の写真集に関しては、明臣あきおみが握り潰したことでお流れになったのだが。

 それに関しては越権行為だの権力の暴走だのといわれているが、彼女自身は父に感謝していた。

「広報活動も導士として大事な仕事だ。それはおまえもわかっているだろう」

「わかっている!」

「わかっていないな」

 明日良の剣幕に肩を竦めて見せたのは、麒麟寺蒼秀きりんじそうしゅうだ。彼は、明日良がどうしてそこまでいきどおっているのか、まるで理解できなかった。

 戦団が広報活動を重要視するようになったのは近年のことではあるが、蒼秀たちが戦団に入ったころには、既に広報部は活発に行動しており、様々な導士の関連グッズが売り出されていたものだ。

 蒼秀たちが導士に憧れるようになったのも、広報部の広報活動の影響を受けているのは間違いなかったし、戦団が人手不足、人材不足の中でどうにかしてやりくりできているのも、広報活動があればこそだろう。

 人は、本来、戦いたくないものだ。

 魔法という万能に近い力を手に入れても、その力でもって命のやり取りをしたい、などとは、誰も思うまい。

 一方的に蹂躙じゅうりんするだけの戦いですら億劫おっくうになるというのに、そういう戦いばかりではないのが現実なのだ。

 特に幻魔との戦いとなれば、一方的に殺される可能性が付きまとう。

 央都市民として安穏あんのんたる日々を送ることができるのであれば、それ以上のことは望まないと考える人々のほうが圧倒的に多く、自発的に戦団に入り、導士として命をけて戦おうとするものなど、どれくらいいるものか。

 だから、戦団は教育や広報活動に力を入れているのだ。

 市民の中から一人でも優れた魔法士を導士として迎え入れたい。

 ただし、自主的に、だ。

 でなければ、意味がない。

 自ら率先して死地におもむく勇気を持たないものは、いざというとき、なんの役にも立たないからだ。

 さらにいえば、戦団総長を始めとする護法院ごほういんの長老たちが、強制的に戦わせることを嫌悪けんおしているからだが。

「いいと思うけどなあ、流星少女隊の歌。わたしは好きだけど」

「わたくしも大好きですよ。作業中に流すのにぴったりかと」

「結構ノリノリな歌ばかりだと思うんだけど」

 八幡瑞葉やはたみずはが困惑気味にいえば、神木神流こうぎかみるはにこやかに告げた。

「はい。ノリノリで作業しています」

「そうなんだ……」

 神流の意外な一面を見たような気がして、瑞葉は、なんとも不思議な感じがした。

 神流が流星少女隊を気に入っているのもそうだが、ノリノリになって作業している光景など、想像もつかないのだ。

 そんな瑞葉の反応こそ、神流にはわからないのだが。

「……皆、うわついているな」

 相馬流人そうまりゅうじんが渋い顔をした。彼は、正装を纏った軍団長たちが、緊張とは無縁の様子で話し込んでいる様を見て、なんともいえない気持ちになっているのだ。

 大式典がいまにも始まろうというのに、この混沌とした様子はどうなのか。

 こんな光景、部下たちに見せられるものではない。

「仕方がありませんよ。こうして一堂に会するのは、本当に久々なんですから」

「会議では度々顔を合わせるんだが……」

「会議の場は会議の場。議題に集中するのが当たり前ではありませんか」

 そういってくすりと笑ったのは、獅子王万里彩ししおうまりあである。彼女の流麗な立ち居振る舞いは、どこであっても変わらなかったし、まったく浮ついている様子はなかった。 

 彼女の言うことも、もっともかもしれない、と、流人は考え直す。

 こうして十二軍団長が一堂に会することは、幻想空間とは言え、そうあることではない。ましてや会議とは無縁の式典の場で、だ。

 大式典だって、普段ならば央都防衛任務を担当する六軍団長が参加するだけであって、十二軍団長が勢揃いすることはほとんどなかった。

 今回は、それだけ特別な式典だということだ。

「今回の主役は、皆代統魔みなしろくん……でしたね」

 などと、話題を振ったのは、竜ヶ丘照彦りゅうがおかてるひこだった。

「彼、本当、あっという間に煌士こうしになってしまって、なんといっていいやら」

「来年の今頃には星将になってたりして」

 播磨陽真はりまはるまが苦笑交じりにつぶやくと、蒼秀が肯定的な反応を示す。

「その可能性は否定できないな」

「おい、軍団長がそれでいいのか」

「おれより強くなったのなら、おれは素直に引き下がるだけのことだ」

「おいおい、師匠。頼むぜ」

 明日良は、蒼秀の反応にこそ苦い顔をした。皆代統魔は第九軍団に所属しているだけでなく、蒼秀と師弟関係を結んでいる。だからこそ、と、明日良は想うのだが。

「なにをだ」

「少しは意地を見せろ、っていってんだよ」

「それは当然のことだ。だが、それでも実力、実績ともに統魔がおれを上回ったのであれば、なにもいうことはない」

「それは……そうだが」

 明日良は、口をつぐまざるをえなくなった。

 蒼秀の理路整然とした考えは、正論そのものだ。反論のしようがない。

 確かに、実力と実績が上回ったものが上に立つことこそ、戦団の理なのだ。

 力だけでは駄目だ。

 実績が伴わなくてはならない。

 つまり、両方を兼ね備えたものが現れたのであれば、彼の言うように、素直に座を明け渡すべきなのだ。

 過去の軍団長たちがそうしてきたように。

 それは、明日良も理解している。

 だが、彼は、まだまだ自分よりも若い導士たちに負けるつもりはなかったし、軍団長として、星将として最前線を走り続けるつもりでいた。

 それは無論、蒼秀とて同じなのだろうが。

 彼は、蒼秀は、皆代統魔の才能と実力を目の当たりにしている。

 その一点において、明日良とは少し違う考え方をしてしまうのも無理のない話なのかもしれない。

 舞台裏に用意された幻板げんばんには、会場の模様が映し出されており、小型の宇宙船に乗った流星少女隊が宇宙空間に飛び立ち、宇宙に散らばる無数の観客船の間を飛び回っていた。

 宇宙に響き渡る楽曲に重なる歌声と、舞台上に出現したアイドルたちの巨大な立体映像、それらが織り成す幻想的な光景が、一般市民たちを大いに盛り上げている。

 そして、アイドル小隊によって大式典の始まりが告げられると、宇宙空間に浮かぶ大舞台が絢爛けんらんたる光に満たされた。

 


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