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第六百八十三話 絢爛群星大式典(三)

「今回の大式典、統魔とうま様の昇格祝いなのよね。さすが統魔様だと思わない?」

 真弥まやがうっとりしたのは、らん幻創機げんそうきの設定を始めた頃合いだった。

 ようやく男どもが幻想体の調整を終え、準備が整ったのだ。後は、幻想空間に飛び込むだけでよかった。

 ただし、大式典の開始まで、まだ多少の時間がある。

美由理みゆり様に並ぶほどの大天才といわれるだけのことはあるわ」

「美由理様以上だろ」

「それはそうなんだけどさ」

「美由理様も美由理様で素晴らしい御方ですわ」

「うんうん」

「まったくだ」

 対抗戦部の面々は、それぞれがしに推している導士どうしは違っていたが、それはそれとして、同世代の皆代みなしろ統魔が大活躍していることには、なんだかんだ共通の感情があったりした。

 彼の大活躍は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。そして、まさにあっという間に煌光こうこう級三位にまで上り詰めたのである。

 その事実には、誰もが驚嘆を禁じ得ないだろう。

 特に皆代統魔と直接会い、言葉を交わしたことのある圭悟けいごたちにしてみれば、感動もひとしおだった。

 幸多こうたと言い合う統魔の姿は、どこにでもいそうな同世代の少年だった。

 もちろん、統魔がとんでもない戦果を上げ、実績を積み上げたという事実を否定するつもりもなければ、それらの戦績には畏怖いふの念すら抱くのだが、それはそれとして、幸多と同次元の口喧嘩をする統魔の姿が忘れられないのも事実だった。

 幸多と兄の座を取り合う統魔の低次元な言い合いほど、微笑ましいものもなかった。

「そして、それだけじゃない」

「うんうん」

「皆代くんのお披露目もありますね」

 紗江子さえこの言うとおりなのだ。

 大式典は、新たに誕生した煌光級導士をお披露目すると同時に、同時期に昇格した導士を紹介する場でもあった。

 導士の昇格とはつまり、それだけ戦功を挙げたということだ。

 央都おうと四市の平穏と安寧あんねいを護るため、命を賭して戦う導士たちの姿を目に焼き付けて欲しい、覚えていって欲しいというのが、戦団が大式典を行う理由だといわれている。

 実際、その通りなのだろう。

 大活躍によって昇格した導士が、つぎの戦いで命を落としたというようなことは、ざらにある。

 さすがに星将せいしょうまで上り詰めた導士が、すぐさま戦死することはほとんどないが、それだって絶対に約束されたことではない。

 誰であれ、明日死ぬかもしれない。

 誰であれ。

 幸多であっても。

「幸多の野郎、マジであっという間に輝光きこう級になりやがるんだもんなあ」

 圭悟は、蘭が幻創機の設定を終えたのを見ながら、大きく息を吐いた。

 幸多の活躍もまた、著しいものだ。

 それこそ、圭吾たちの家族までもが幸多のファンになっているほどだった。

 それくらい、幸多は注目を集めている。

「おれはわかってたけどよお」

「なにがよ」

「幸多がただもんじゃねえってことだよ」

「なにそれ、自慢? 自分だけは皆代くんの真の理解者ですって?」

「だれもんなこといってねえだろ」

「でも、そういう感じ、あったよ」

「おう、あったな」

「あったあった」

「てめえらなあ」

 対抗戦部の面々が億面もなく圭吾を弄り倒してくるから、彼は渋面を作った。

「いいじゃありませんか。米田くんは、皆代くんの活躍が嬉しくて堪らないのでしょう?」

「……ああ、そうだよ」

 圭悟は、紗江子の柔らかな言葉を否定しなかった。

「嬉しくて嬉しくて、涙がでらあ」

 そういって、彼は、幻創機が展開する幻板げんばんを見た。

 幻板には、大式典の会場が大写しに映し出されており、既にたくさんの市民が押し寄せている様が見て取れた。

「すっごい人の数だね」

「そりゃあまあ、そうだろ。なんたって統魔様のお披露目式典だからな」

「ぼくたちの目当ては違うけどね」

 蘭がくすりと笑いながら、圭悟を横目に見た。彼は渋い顔をしたまま、幻板を見ている。

 圭悟が、今回の大式典に部員で参加しようと言い出したのだ。そして、部員に呼びかけ、集まったのがこの六人である。

 退部済みの法子ほうこ雷智らいちにも一応声をかけたが、二人きりで楽しみたいということで断られてしまった。

 新入部員たちも、圭悟の気迫に気圧されてしまったのか、遠慮されてしまっている。

 それは、別に良かった。

 大事なのは、対抗戦決勝大会を一緒に戦い抜いた六人が揃ったことだ。

 法子と雷智は退部したということもあって遠慮したのかもしれないし、二人きりのほうが周囲に気を遣うことなく観覧できると考えたのかも知れない。

 後者の方が、法子らしいといえばらしいのだが。

 圭悟は、幸多を戦団戦闘部に送り届けるために、対抗戦部の立ち上げに奔走ほんそうした。

 魔法不能者の彼が戦闘部に入りたいと言い出した。そのことが少し面白かったからだったし、彼があの曽根伸也そねしんやをぶっ倒したという事実も、大きかった。

 彼ならば、幸多ならば、なにかしでかしてくれるのではないか。

 この閉塞感へいそくかんに満ちた世界に、大きな風穴を開けてくれるのではないか。

 淡い期待は、しかし、圭悟の想定以上の結果となって返ってきた。

 けれども、と、彼は想うのだ。

(無事でいてくれりゃあ、それでいいよ)

 幸多は、そんな風に言われることを嫌うだろうが、しかし、圭悟にはそう想わざるを得ないのだ。

 幸多は、それこそ、身を削り、命を削って戦っている。

 そうしなければ、魔法士たちの活躍に追いつけないからだったし、彼は魔法とは無縁の完全無能者だからだ。

 魔法不能者専用の武器、兵器を用いて、ようやく魔法士に並ぶことができるようになった。

 とはいえ、それにしたって活躍しすぎではないか、と、想わないではない。

 そして、傷つきすぎだ。

 見守る圭悟たちのことも少しは考えて欲しい、と、想ってしまうのだ。

 そんな彼の輝光級への昇格が噂されているのが、今回の大式典だ。

「たった二ヶ月前までただの学生だったのによ、いまや輝光級だぜ。信じられるか?」

「歴代の昇格記録を大幅に更新だもんね」

草薙真くさなぎまことと一緒に、だけどな」

「皆代くん、彼と仲が良いみたいだけどね」

「そうなんだよなあ……それが、どうにもせねえ」

 圭悟は、蘭の一言に苦い顔になった。

 圭悟たちは、幸多が草薙真と仲良くなったことについては、幸多から様々な話を聞く中で知ったのだが、それを聞かされたときには大層驚いたものだ。

 草薙真といえば、対抗戦決勝大会で最後の最後に立ちはだかった最大の障壁にして、最強の敵だ。しかも、幸多に対し、恨みがましいことをいっていた記憶がある。

 そんな人物と、いまや定期的に連絡したり、通話するほどの間柄になっているとは、世の中、なにがあるかわからないものだ。

 そして、草薙真は、対抗戦決勝大会の最優秀選手に選ばれ、故に戦闘部から勧誘を受けた。幸多と全くの同期入団であり、同時に灯光とうこう級三位から始まった導士なのだ。

 閃光級に駆け上がるのは幸多のほうが早かったのだが、輝光級三位には、同時に昇格することが決まったらしい。

 尋常じんじょうではない昇格速度であるそれは、昨年の統魔を遥かに超えるものだった。

 そういう意味において、草薙真も、注目の的である。

「さて、準備も整ったし、そろそろ行こうか」

「おうよ」

「うん」

「はい」

「おお」

「いつでも行けるぜ」

 天燎高校対抗戦部の面々は、蘭の言葉に従い、それぞれ神経接続のための頭用装具を装着した。そして、寝台に横になる。

 蘭は、幻創機を自身の携帯端末で制御できるように設定すると、自分もまた、頭用装具を身につけた。寝台に横になりながら、全員の意識を幻想体と同期させる。

 一瞬の暗転があり、つぎの瞬間には、広大な空間に足を踏み入れている。

 今回、絢爛群星大式典が開催されるのは、戦団が用意した幻想空間であり、とてつもなく広く豪華な催事場というおもむきがあった。

 圭悟たちの周囲には、彼らと同様に意識が同期したばかりの幻想体が無数に存在しており、ここがどこなのかときょろきょろと周囲を確認していた。

「ここは入場場所で……ぼくたちの席はこっちだってさ」

 蘭が手にした幻板に表示された案内に従って、部員たちを先導する。

 六人が六人、式典の空気感をぶち壊すことのないような格好をしている。大半が成人年齢に達している上、近い将来、社会進出することが約束されてもいる。

 天燎高校の生徒なのだ。

 将来的には、天燎財団関連の企業に就職するに違いないと誰もが想っているし、納得してもいる。そのために天燎高校に進学したのだし、勉強もしてきたのだ。

 正装を着こなすことにだって、慣れなければならない。

 幻想空間とは言え、だ。


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