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第六百八十二話 絢爛群星大式典(二)

 絢爛群星大式典けんらんぐんせいだいしきてんは、幻想空間上、つまり、レイライン・ネットワーク上で開催される式典である。

 故に、央都四市おうとよんしの内外に分散している導士がこぞって参加することが可能であり、ネットワークを通じて、双界そうかいに住む全ての人々が観覧かんらんすることができた。

 そして、それだけでなく、入場券さえ手に入れることができれば、大式典の舞台となる幻想空間に直接入り込んで観覧することも可能だった。

 最大五十万人もの観客を収容可能なのは、幻想空間だからだ。

 また、五十万人に制限しているのは、それ以上の人数を同一の幻想空間上に混在させるのは、現在の技術でも困難だからにほかならない。

 双界全土には、合計百三十万人の人々が生活しているといわれている。

 そのうちの五十万人が、幻想空間上とはいえ、一箇所に集まるというのだ。お祭り騒ぎも甚だしいこと請け合いだ。

 観覧用の幻想空間に入り込めば、まるで式典に参列しているような気分が味わえるということもあり、式典の開催が発表されると、観覧希望者が入場券を求めて各所に殺到したことはいうまでもない。

 戦団に対する不平不満が膨れ上がりつつある世相ではあったが、しかし、市民の戦団に対する信頼は、決して減っているわけではなかったし、戦団を応援しようという声もまた、根強く存在していた。

「久々の絢爛大式典だな」

 圭悟けいごは、対抗戦部の部室に集まった面々とともに幻想体の確認をしながら、つぶやいた。

 式典を観覧するための幻想空間には、当然、大量の市民が押し寄せてくるだろう。それこそ、何万人、何十万人という双界住民で溢れかえるはずだ。

 そんな場所に赴くに当たって、幻想体の調整を行うのは、普段人目を気にしない圭吾でも当然のことだと考えていた。

 大式典は、戦団の恒例行事とはいえ、頻繁に開催されるものではない。

 煌光級の導士が誕生したときにのみ開催されるのであり、しかも、多くの場合、央都防衛任務中の六名の軍団長が参加することになっている。

 総長そうちょうを始めとする戦団上層部の星将せいしょうたちもだ。

 このような行事でもなければ直接お目にかかることのできない星将たちを直接拝むことのできる機会だ。

 そして、今回の式典には、十二軍団長が勢揃いするといわれている。

 戦団が大式典に関する発表を行った瞬間、双界全土から大量の申し込みがあり、回線が破裂しそうになったともっぱらの噂である。

 盤石極まりないレイライン・ネットワークが、だ。

 それほどまでの大量の情報が一挙に押し寄せるなど、中々ないことであり、戦団内部では、ネットワーク攻撃があったのではないか、と疑う声もあったとかなかったとか。

 そんな与太話が、まことしやかに流れている。

「本当だね。この間は、去年だっけ?」

「うん」

「そのときも皆さんで参加しましたね」

 紗江子さえこがくすりと微笑みながら、幻想体の確認を終えた。どのような場所に出ても恥ずかしくないように、常に幻想体の記録を複数用意しているのが紗江子だったし、真弥まやもそうだ。

 圭悟やらんのように、その場その場で幻想体を調整するのも悪くはないのだろうが、紗江子と真弥は、彼らが苦戦する様を横目に見ては、普段から格好に気をつけていることの重要性を思い知るのだ。

 幻想空間上でなんらかの行事、催しものが行われることは、少なくない。

 この情報社会だ。

 レイライン・ネットワークこそ央都全土、双界全土に張り巡らされているが、各地は断絶に近い状態にある。

 地上のすべての都市は、行き来こそできるものの、間には空白地帯が横たわっていて、大量の幻魔がその地を闊歩かっぽしている。

 都市間の移動も決して安全とは言いきれない。

 地上と地下の移動には、時間がかかる。

 空間転移魔法を使うことができれば一瞬だろうが、それほどの魔法技量の持ち主など、そういるものでもなければ、容易に使えるものでもない。

 となれば、もっとも安全かつ安心してなんらかの催しができる場所として、レイライン・ネットワーク上の幻想空間が活用されるのは当然だった。

 今回は大式典が開催されるということで大騒ぎになっているが、戦団の行事だけでなく、競星けいせい幻闘げんとう閃球せんきゅうといった魔法競技の数多くもまた、幻想空間上で開催されることもあれば、観覧することもできるのだ。

 幻想空間は、地上と地下に分かたれた人々が一堂に会することのできる場所であり、故にこそ人混みが懸念けねんされていたし、準備を怠らないというのも当然の考えだった。

 八月最後の日。

 夏休みが終わろうという日に天燎てんりょう高校対抗戦部の部室に集まったのは、対抗戦部の部員のうち、圭悟、蘭、真弥、紗江子、そして魚住亨梧うおずみきょうご北浜怜治きたはまれいじの六名である。

 今回の大式典を観覧するため、部室の幻創機げんそうきを使わせて欲しいという圭悟たちの申し出に対し、学校側は二つ返事で許可を出した。

 元より対抗戦部は、夏休み期間中もたびたび学校に出てきては、部室に備え付けの幻創機を活用していたということもあり、問題ないと判断されたようだ。

 天燎高校は、対抗戦部が学校の評判を飛躍的に高めてくれたことへの感謝を忘れていないようだったし、多少の我が儘を許してくれるところがあった。

 対抗戦部の部室に最新型の幻創機が備え付けられたのも、対抗戦で優勝したからこそ、だ。

 そして、最新型の幻創機ならばこそ、大式典を思う存分に味わうことができるに違いない、と、圭悟は考え、蘭たちを誘ったのである。

 その話を聞きつけたのが怜治と亨梧だ。二人もまだ対抗戦部に所属していたし、これから先、対抗戦部を引っ張っていく気概きがいがあった。

「仲、良いんだな、あいつら」

うらやましいのか?」

「んなわけねえっ」

「うわ、図星ずぼしか」

 怜治が亨梧をからかう隣で、圭悟は携帯端末を操作しながら、どのような格好が式典の場にそぐわないのかを考えていた。

「式典で悪目立ちしない格好ってどんなだ?」

「そうだね。まずは、髪を染め直そうか」

「はあ? 冗談だろ」

「それから、逆立てるのを止めて……」

「待てよ、それ、おれにとって一番大事なところだろーが」

「そんなのが一番大事なところなの?」

 真弥が呆れ果てると、圭悟が彼女に噛みつく。

「ああん!? てめっ、なにいってんだ!?」

「そんなんだから恋人の一人もできない、っていってんのよ」

「誰が恋に恋い焦がれてんだっての!」

「あんた」

「はあっ!?」

 素っ頓狂とんきょうな声を上げて物凄まじい形相をする圭悟に対し、真弥が屈託くったくのない顔で大笑いをすれば、紗江子も腹を抱えて笑う。

 そんな当たり前の光景の中で、蘭もまた、幻想体の調整を終えた。

 幻想体の調整は、携帯端末から行うことができる。

 多目的携帯端末の名の通り、携帯端末には、様々な機能がある。通話、通信は当然として、幻想体の調整も標準的な機能として、大抵の携帯端末に搭載されているのだ。

 幻想空間は、現代社会において必要不可欠なものだ。

 幻想空間上では様々な行事を行うだけでなく、ごくごく普通の一般市民が、様々なやり取りをする場所としても幻想空間は利用される。

 レイライン・ネットワーク上の様々な場所に幻想空間が存在しているだけでなく、個人的に幻想空間を作ることも可能なのだ。

 幻想空間を生成するために幻創機が必要だが、既に構築された幻想空間に入り込むには、神経接続用の機器があれば、携帯端末からでも行けなくはない。

 それでは安定性にかけるため、圭悟たちは部室の幻創機を利用することにしたのだが。

 そして、幻想体はいくらでも形を変えることが可能であるため、状況に応じて調整するのは、当然のことだった。

 対抗戦用の幻想体のままでもいいのではないか、とは、誰も思わなかった。

 いくら観覧席とはいえ、式典の場に相応しくないだろう。

 故に圭悟たちは、どのような出で立ちが式典の空気感にあっているのかを考えながら、服装や髪型を調整しているのである。

 普段、そういったことを気にしていないからこその調整だが、真弥と紗江子は、常日頃から身だしなみを整えるだけでなく、幻想体の調整にも気を使っているため、あっという間に済んでいた。

 蘭も、ようやく終えた。

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