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第六百七十話 特異なる力(三)

 飛電ひでんは、幸多こうたが引き金を引き続けるだけで、銃弾を間断なく発射し続ける。

 飛電の発射形式の一つで、連射形式にしているからだ。

 弾数は気にする必要はない。

 戦場でもそうだが、基本的には、弾が尽きることを考える必要は全くなかった。第四開発室は、あらゆる事態に備え、大量の銃弾を生産しているからだ。

 現在、数十万発分の銃弾が確保されている。

 とはいえ、飛電は一秒間に凄まじい数の銃弾を撃ち放つ。

 数十万発分程度では心許こころもとない、というのが、第四開発室の考えだった。

 これから先、どれだけ戦闘を重ねるのかわからない。それこそ、数え切れないくらいに何度も幻魔と戦うことになるだろうし、銃王じゅうおう撃式げきしき武器を用いる回数も増大していくことになるだろう。

 銃弾は、消耗品だ。

 幻魔の死骸しがいにめり込んだ銃弾を回収しても、再利用は不可能なのだ。

 そして、高級品でもある。

 超周波振動弾ちょうしゅうはしんどう

 本来であれば武器そのものに内蔵される超周波振動発生機構を改良、超小型化することに成功し、銃弾に内蔵することによって誕生したのがそれだ。

 銃器自体も超周波振動を発生させており、超周波振動の二乗により、遠距離の幻魔を攻撃しても、その魔晶体に大打撃を与えられるだけの威力を確保したというわけである。

『まだまだ改良の余地はあるし、常に研究中だが、いまはこれで精一杯なんだよ』

 とは、伊佐那義流いざなぎりゅうの発言だが、幸多にしてみれば十分過ぎる代物だった。

 一撃一撃が重く、破壊的だ。

 まるで魔法のように地形を破壊し、森林を爆砕ばくさいしていく。

 先程までの法子ほうこの一方的な大攻勢とは打って変わって、幸多の逆襲が始まると、法子は防戦一方となっていた。

「さすがは戦団が誇る最新装備だな!」

 法子が喜悦満面きえつまんめんといった様子で叫べば、幸多は、そこへ向かって射線を向ける。火線が集中し、虚空を弾丸が引き裂いていく。

 法子は、空中にあって、悠然と構えていた。いつの間にか召喚した法器ほうきの上に仁王立ちに立っているのだ。そして、その前面に幸多が撃ち込んだ超周波振動弾が無数に浮かんでいた。

 魔法壁を展開し、受け止めて見せたというのだろう。

 超周波振動は、魔力体を打ち砕く。

 魔法壁も同じだ。

 だが、法子の魔法技量は、超周波振動を抑え込むことに成功したのだ。

「しかし、それだけではわたしはたおすことはできんぞ!」

「まあ、そうでしょうけど」

 幸多は、法子の圧倒的な魔法技量にれ直すような気分になりながら、受け止められていた銃弾が四方八方に飛び散っていく様を見届けた。

 並の魔法壁ではない。

 並の、魔法技量ではない。

(そんなこと、わかりきってただろ!)

 幸多は、心の何処どこかで法子を舐めていたのではないかと反省するとともにその場から飛び離れた。法子が、頭上に生み出した巨大な闇の斧を放り投げてきたからだ。

野望の黒斧オーバード・アックスブラック

 真言しんごんが遅れて聞こえたのは、気のせいだ。

 とてつもなく巨大な斧が、大気を引き裂き、猛然と降ってくる。それこそ、幸多の視界を埋め尽くすほどの巨大さは、法子の魔力の凄まじさを知らしめるかのようであり、幸多は、前言を撤回した。

 法子ほどの魔法士は、戦団の導士の中にもそうはいない。

 少なくとも、新人導士、若手導士の中でも頭抜けた一部の導士だけではなかろうか。

 統魔とうま草薙真くさなぎまことのような。

 あるいは、義一ぎいち真白ましろ黒乃くろののような、極一部の若手導士たち。

 幸多は、日夜、そうした若手導士たちと切磋琢磨の訓練を繰り返してきた。魔法そのものの訓練には付き合えないものの、実戦形式の組み手では存分にやり合っている。

 そしてそのたびに、合宿に参加して良かったと思っていた。

 彼らとの出逢であい、彼らとの戦いの日々が、幸多を間違いなく成長させてくれているのだ。

 その実感は、いままさに発揮されていた。

 法子が投げ落としてきた大斧をかわしきると、斧刃ふじんが地面を叩き割り、大地を爆砕した。その爆風の真っ只中で、幸多は引き金を引き続ける。

 雷鳴の如き銃撃音の連鎖が、遥か上空の法子へと殺到していくが、法子は法器を巧みに操り、空を舞って銃撃を回避し続ける。

 超高速戦闘とはまさにこのことだ。

 魔法士の戦闘は、高速度で行われるものだ。魔法士同士が飛行魔法や移動魔法で飛び回るからであり、魔法そのものの速度もまた、とてつもなく早いからだ。

 幸多も、その場に留まってはいられない。

 法子が、次々と上空から大斧を放り投げてくるからだ。

 巨大な斧が大地に突き刺さるたびに巨大な爆砕が起き、爆風が幸多を煽った。重装甲に護られているからこそなんともないが、闘衣とういだけならば、それだけで大打撃を喰らったかもしれない。

 やはり、鎧套がいとうは必要不可欠だ。

 しかし、このままではらちが開かないのもまた、事実。

武神ぶしん

 幸多は、召喚言語を唱えながら大きく飛び退くと、全身が転身機ぜんしんの光に包まれ、鎧套が置き換わるのを実感として理解した。鋭角的な甲冑から、流線型の装甲へ。

 手にしていた飛電を転送すると、武器を召喚する。

双閃そうせん

 二十二式双機刀にじゅうにしきそうきとう・双閃を呼び出すと、両手に短刀を握り締め、さらに後方へと跳躍する。

 上空からの爆撃に次ぐ爆撃が、幸多が飛電の乱射で破壊し尽くした地形をさらに壊滅的なものへと変えていく。

 そのただ中で、幸多は、爆風に煽られながら飛び上がった。

 法子が巨大な闇の斧を形成している最中のことだ。

防塞ぼうさい

 幸多は、空中に展開型大盾を呼び出すと、ただ落下するだけのそれを一瞬の足場として踏みつけ、さらに跳躍した。

 幸多に飛行能力はない。

 そもそも、空中かつ遠距離の敵には、接近するよりも、遠距離から銃撃を行うのほうが理論的かつ理性的な判断というものだろうし、正しい戦術だ。

 しかし、それではどうにもならない相手というものもいる。

 たとえば、法子のように。

 銃撃では捉えられず、捉えられたとしても防がれてしまうのであれば、意味がない。

 現状、撃式武器に追尾誘導性能はなく、故に遠距離戦では魔法士に大きく劣るのは間違いなかった。そして、銃王を纏い銃撃戦を展開するということは、完全無能者の利点を捨てるということを意味する。

 魔素を内包しないが故に追尾誘導魔法を逃れられるという利点は、鎧套によって完全に失われるのだ。

 故に、幸多は、遠距離攻撃に徹するのを止めた。

 法子は今、地形的優位にいる。

 幸多が地上にいて、法子が上空にいるのだ。さらにいえば、飛行魔法で飛び回ることで、地上からの攻撃を回避しつつ、一方的に攻撃を仕掛けることもできる。

 そんな法子との優位性を逆転するには、発想そのものを切り替えるしかない。

 正攻法では、駄目だ。 

 ならば、どうするか。

 奇策を用いるのだ。

 それこそ、防塞を足場にして空中に飛び上がり、法子に肉迫しようとするこの戦術が、それだ。まさに奇策中の奇策であり、法子も、一瞬、幸多がなにをしでかそうとしているのか、気になったほどだった。

「それでは的になるだけだぞ?」

「どうでしょう?」

 幸多は、法子の忠告に対し、不遜ふそんに返した。法子がにやりとする。大斧を、さらに空中で跳躍した幸多に向かって振り下ろすと、斧刃が粉砕して見せたのは、幸多の遥か頭上に召喚された防塞である。

 防塞の破片が雨のように降り注ぐ中、幸多は、別方向へと跳躍しつつ、さらに視線上に防塞を呼び出し、足場とした。

 次の跳躍で、法子の法器に飛び移ると、さすがの法子も仁王立ちのままではいられなかった。幸多に向き直り、彼が振り抜いてきた右手と左手を両手で受け止める。

 膂力りょりょくは、幸多のほうが遥かに強い。

 鼻息がかかるほどの距離に、幸多と法子の顔があった。

「本当に、強くなったな」

 法子は、素直に幸多を賞賛すると、彼の力に抗わなかった。むしろ、その力を活用して、彼もろとも地上へと身を投げ出す。

 力勝負では幸多には敵わない。

 それは、対抗戦部の頃から全く変わっていない。

 素の身体能力において、幸多を凌駕する学生など一人としていなかったはずだ。導士の中にもどれだけいたものか。

 今や、幸多の身体能力は、戦団の中でも最高峰なのではないかと、法子は勝手に考えるのだが、それも間違いではあるまい。

 地上への長い落下中、法子と幸多はしばし見つめ合った。

 幸多は、法子の紅い瞳の中に自分の顔を見ていたし、法子は、幸多の褐色の瞳の中に自分の笑顔を見ていた。

 法子にとって、幸多の成長ほど嬉しいことはない。

 彼には、死んで欲しくないからだ。

 とはいえ。

我が名は混沌(ジ・オーバーケイオス)

 法子は、囁くように真言を唱えた。


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