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第五百八十八話 銀河の守護者(五)

 ベヘモス・マキナの山のように巨躯は、それそのものがヒーローものの創作物に出てくるような大怪獣を体現していた。

 コード666を発動した機械型マキナ・タイプ特有の漆黒の装甲に覆われ、浮き上がった血管のように見えなくもない紅い光の筋が、禍々《まがまが》しく明滅している。

 とにかく、巨大である。

 ただでさえ超巨大質量などと呼ばれる上位獣級幻魔は、機械型に改造され、コード666を発動したことによってその魔晶体を何倍にも膨張させているのだ。

 全長百メートルは優に超えているだろう。

 獅子とも竜ともつかない異形の頭部には、肉眼と機械の目が赤黒い光を放っており、獰猛どうもう極まりない面構えからは、敵対者を滅ぼすことだけしか考えていないように思えた。

 実際、その通りに違いない。

 隆々たる巨躯を支えるのは、やはり分厚く巨大な手足であり、長く太い尾だ。全体が魔法金属製の装甲によって覆われているのだが、そこからは無数の突起物が生えていて、それが砲塔であることが明らかになったのは、たったいま先ほどのことだ。

 ベヘモスの天地を激しく揺らすかのような咆哮とともに、全ての突起が火を噴いた。

 どす黒い魔力の奔流ほんりゅうが噴き出し、超高密度の魔力体が砲弾の雨となって、光の巨人に殺到する。

 真っ直ぐ飛んでくる砲弾もあれば、放物線を描いて飛来するものもあり、頭上から降り注ぐ魔力体も無数にあった。

 ありとあらゆる角度から同時に砲撃を叩き込み、爆殺しようというのだろうし、実際、普通ならばただでは済むまい。

 しかし、だ。

 照彦てるひこは、一切動揺を覚えなかったし、そんなものかと、光の巨人の目線で見ていた。

 化身具象型けしんぐしょうがた星象現界せいしょうげんかいによって発現する星霊せいれいは、真の擬似召喚魔法ぎじしょうかんまほうと呼ばれるように、自動的に判断して行動する。

 照彦の銀河守護神《G・ガーディアン》も、そうだ。

 彼の思考とは無関係に行動し、敵を、幻魔を撃滅するのが、通常の銀河守護神の運用方法だった。

 大抵の場合、それで済むからだ。

 しかし、今回ばかりは相手が相手だ。

 超特大ベヘモスを目にした瞬間、照彦は、無意識のうちに己の意識を銀河守護神と同調させていた。

 あらゆる角度から殺到する砲弾の雨霰あめあられに対し、照彦は、仁王立ちに立っていた。

 光の巨人に襲いかかる攻撃は、なにもベヘモスの砲撃だけではない。

 他の機械型幻魔を始めとする、戦場にいる全ての獣級幻魔が、ベヘモスの咆哮に突き動かされるようにして大攻勢を展開していたのだ。

 全ての幻魔が、全力の攻撃を叩きつけてきたのだ。

 ガルム・マキナが大火球を放てば、フェンリル・マキナが大氷塊を降らせ、アンズー・マキナが特大の雷光線を発射した。

 それらを含む、数百数千の攻撃魔法が光の巨人に叩きつけられ、世界が震撼するのではないかというほどの爆砕の嵐が巻き起こった。

 魔法による爆砕に次ぐ爆砕が、戦場そのものを根底から破壊していく。余波が大地を砕き、割る。広大な戦場が大きく陥没し、幻魔たちが余波から逃れるために飛び退る中、微動だにしないのは、銀河守護神とベヘモス・マキナだけだった。

 幻魔側の全戦力による同時攻撃を受けてもなお、光の巨人には、傷ひとつついていない。眩くも神秘的な光を放つ肉体を覆う装甲にすら、だ。

 あの程度の攻撃で傷つくほど、星霊は、柔ではない。

 少なくとも、星将の星霊は、だが。

「次は、こちらから行かせて頂きます」

 照彦は、誰とはなしに宣言すると、思うがままに銀河守護神を動かした。一歩踏み出せば、それだけで前方の幻魔たちとの距離が詰まる。

 当然だが、幻魔の猛攻は、終わったわけではない。

 攻撃魔法の雨嵐が今もなお光の巨人を攻め続けているのだが、その動きがわずかでも揺らぐことはなかった。

 ベヘモス・マキナが無数の目を見開き、禍々しい輝きを増大させれば、全身の砲塔が光の巨人に向けられる。多角的な攻撃から、一点集中攻撃へと切り替えようというのだろう。

 だが、そんなものを待っている照彦ではなかった。

 銀河守護神がさらに踏み込めば、大地が割れた。力強い一歩。その一歩で大地震が起き、周囲に光が散乱すれば、それだけで下位獣級幻魔は、その存在を許されなくなる。

 次々と幻魔が消滅していく中で、光の巨人の拳が唸った。大気を突き破る猛烈な拳撃が、巨大獣の横っ面に叩きつけられ、光が爆ぜた。

 星神力せいしんりょくの爆発。

 ベヘモス・マキナの巨体が、空高く打ち上がったのは、それだけの威力が込められていたからだったし、その程度の威力に抑えられていたからでもあった。

 照彦は、高々と打ち上げた巨大獣を振り仰ぐと、自らも飛んだ。光の巨人が跳躍するというだけで周囲に甚大な被害が生じ、光の渦がさらに多数の獣級幻魔を飲み込んでいく。

 無数の断末魔が響き渡る中、光の巨人が空をく。

 ベヘモス・マキナも、ただやられているだけではなかった。

 高空に至ると、背中から翼を生やして見せたのだ。鉄の翼は、禍々しく赤黒い光を放ち、巨大獣の態勢を整えさせる。地上を睥睨へいげいし、光の巨人を迎え撃とうというのだ。

 無数の砲塔が変形し、砲口を大きく開くと、莫大な魔力がそこから発射された。

 無数の魔法弾が、様々な軌跡を描きながら、照彦へと向かってくる。

 彼は、黙殺した。

 彼が銀河守護神そのものとなれば、そんなものはなんの問題にもならない。

 事実、光の巨人に殺到した砲弾は全て、見事に直撃し、次々と凄まじい爆発を起こしたものの、やはり手傷一つ与えられなかったのだ。

 そして、爆発の光が消えたときには、銀河守護神は、ベヘモス・マキナの巨体を貫いている。

 それこそ、光の速さで空を飛び、光そのものとなって超特大質量を突き破って見せたのだ。

 そして、大怪獣の遥か上空、成層圏ぎりぎりのところで停止した光の巨人は、地上に向き直った。遥か眼下、ベヘモス・マキナの巨躯が復元を始めている。それも物凄まじい速度で、だ。

 さすがは機械型幻魔というべきだろう。

 機械型幻魔は、二つの心臓を持つ。

 一方の心臓を潰すだけでは、その力を削り取ることにしかならない。

 二つの心臓を完全に破壊し尽くさなければならないのだ。

 無論、そんなことは承知の上で、照彦は、上空にいるのだ。

 ベヘモス・マキナが天を仰ぎ、太陽のように輝く巨人を睨み据えれば、銀河守護神が胸の前で両腕を奇妙な形に交差させた。交差部分に星神力が凝縮し、全身の光が一点に収束する。

 復元を終えた大怪獣が、吼えた。今度こそ巨人を滅ぼすべく、全魔力を解き放ったのだ。全砲塔だけでなく、巨大な口の中からも魔力の奔流を撃ち出したベヘモス・マキナに対し、照彦は、必殺の決め台詞を発するのだ。

「終極光滅破《Z・エンド》」

 瞬間、両腕の交差部に収束した光が、超極大の光芒こうぼうとなって放出された。超高濃度、超高密度の星神力の奔流である。一瞬にして虚空を突き抜け、ベヘモス・マキナの全ての攻撃を飲み込み、吹き飛ばしながら、大怪獣の顔面に突き刺さった。

 そして、大怪獣の巨躯を貫いた極大光線は、地上にまで降り注ぎ、ベヘモス・マキナの全身が粉々に爆散する中で、生き残っていた多数の獣級幻魔も殲滅せんめつし尽くしていった。

 照彦は、銀河守護神の目を通して、この戦いの一部始終を見ていたのだが、完璧な勝利をもたらしたことによるものとは異なる充実感に満たされて、笑みをもらさずにはいられなかった。

 そんな彼と光の巨人の一方的としか言いようのない戦いぶりを見守っていた導士たちは、といえば、唖然と、間の抜けたような表情をすることしかできなかったのである。

 そして、光の巨人が衛星拠点の付近に降り立ったことで、ようやく、歓声を上げるに至った。


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