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ノーマジック・ノーライフ~魔法世界の最強無能者~【改題】  作者: 雷星
戦団の無能少年

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第五百七十九話 紅蓮の魔女(二)

 さて、戦力である。

 戦闘部の各軍団が動員できる戦力というのは、最大一千人だ。

 しかし、常に一千人を動かせるわけではない。

 央都おうと防衛任務であれば、様々な通常任務に当たっている導士もいるし、非番ひばん導士どうしも数多くいる。

 通常任務は、央都四市のあらゆる場所で起きる可能性のある幻魔災害や魔法犯罪に対応しなければならない、三交代制の激務である。

 巡回に待機、監視と様々な任務があって、常に任務に走り回っているといっても過言ではない。

 一方の衛星任務も、多忙だ。巡回任務にダンジョン調査、発見した幻魔の巣窟を掃討するために大規模な作戦を決行することもある。

 そして、衛星拠点の動員できる戦力の一番の問題と言えば、一千人の軍団員が二つの拠点に分散しているということだ。

 一つの軍団で二つの拠点を担わなければならないのだから、当然の結果だろう。

 拠点を防衛するための戦力を確保しつつ、巡回や調査のための戦力を捻出する。

 非番の導士も常に休んでいるわけではない。

 導士は、研鑽けんさん鍛錬たんれんに忙しいのだ。休養日ですら一日中訓練しているものもいるほどだ。

 また、空白地帯真っ只中の衛星拠点とはいえ、娯楽が全くないわけではない。

 全ての衛星拠点は、央都四市とレイライン・ネットワークで繋がっているのだ。

 ネットワークさえ繋がっていれば、娯楽にえることはない。アニメもドラマも映画もゲームも大量にあるし、幻想空間を用いれば、遠方にいる人間と直接会ったような感覚を味わうことだって不可能ではない。

 ただし、衛星任務中に戦団の部外者と接触することは堅く禁じられているため、幻想空間で会うにしたって戦団の人間に限られるが。

 それでも、なにもないよりは増しだったし、息抜きにはなった。

 無論、息抜きできるくらいの時間があるというだけの話だ。

 つまるところ、各拠点が、常に五百人の導士を戦力として動員できるわけではない。

 現在だって、そうだ。

 二千体の幻魔の大軍勢に対して、第三拠点防衛に駆り出されているのは二百名余りに過ぎない。

 第三拠点に配備された第十軍団五百名のうちの三百名である。二百名は、半分が任務に出向いており、半分が非番である。

 余程のことがなければ、非番の導士まで駆り出すようなことを戦団はしない。

 また、作戦部から派遣されている情報官や技術局の技師は、当然ながら数には含まれていない。

 彼らは、戦闘要員ではないのだ。

 もちろん、ほとんどが生粋きっすいの魔法士であり、様々な魔法を学んでいるし、ある程度戦うこともできるだろうが、戦力に数えるわけにはいかない。

 作戦部の情報官も、技術局の技師も、医務局の医師や、基地の厨房を預かる料理人、基地で雑務を行っている戦団職員らは、戦団の実働部隊たる戦闘部を支えてくれている存在であり、護るべき人々なのだ。

 そんな彼らのためにもなんとしても二千体の幻魔を滅ぼさなければならないのだが、そうなると考えてしまうのが、やはり彼我の戦力差だろうが。

「やっぱり、ここはわたしたちが出るしかないわよね」

「はい?」

 まことが思わず聞き返したのは、火倶夜かぐやが、いうが早いか歩廊ほろうから飛び降りていたからだ。つぎの瞬間には火の粉が舞い、炎の翼を広げた火倶夜が、上空へと飛翔していく。

 まさに朱雀すざくのように。

 真は、茫然と、火倶夜の発した言葉を反芻はんすうする。

「たち?」

『軍団長直々のご指名みたいね、真くん。気をつけて、いってらっしゃい。死んだら、骨は拾ってあげるから、安心して』

 通信機越しに真の脳裏のうりよぎった考えを肯定してきた上に背中を叩いてきたのは、杖長筆頭じょうちょうひっとう平塚蒼子ひらつかあおこである。おっとりとした口振りからわかるとおり、常に穏和な微笑びしょうたたえているような人物だ。

 蒼子と、彼女の夫にして副長・平塚光作(こうさく)の二人が、第十軍団を支えているといっても過言ではない。

 軍団長・朱雀院すざくいん火倶夜は、見ての通り果断かだんの人だ。

 即断即決即刻即行が火倶夜を現す言葉として、第十軍団杖長の間で囁かれている。

 それだけでなく、あらゆる言動が過激だということでも有名なのが、火倶夜だ。

 自身が司る火属性の性質を体現するかのような言動の数々には、日夜、副長が頭を抱え、右往左往しているのだ。

 そんな副長の、夫の有り様を見てころころと笑っているのが、杖長筆頭の蒼子である。

 火倶夜に翻弄される光作と、そんな光作を見守りながら的確な補佐を行う蒼子。

 平塚夫妻が居ればこそ、第十軍団は崩壊せずに済んでいるのだ、とは、他の杖長の冗談だが、真は笑えなかった。

 火倶夜の直弟子である真にしてみれば、師匠の過激な言動に翻弄されるのが自分と光作くらいで済んでいるからこそ、第十軍団が纏まっているのではないか、と思えるからだ。

 そして、そんな実感とともに、真は、法機ほうきを取り出し、飛行魔法を唱えた。法機に跨がって、空を舞う。

 急がなければ、幻魔を殲滅せんめつした火倶夜に大目玉を喰らいかねない。

 既に戦端は開かれていて、何体もの獣級幻魔が断末魔だんまつまを上げていた。

(相変わらず……)

 早すぎる、と、真は口に出さずにいった。

 魔界とも言うべき空白地帯の大気は重く、央都の空気よりも制御が難しいが、度重なる任務で慣れてきていた。

 幻想訓練でも幻想空間内の魔素密度設定を変更することで、この魔界の疑似体験が可能だが、やはり幻想空間と現実世界では微妙に異なる。

 実際に異界で魔法を使わなければわからないことが山ほどあったし、衛星任務が始まってからしばらくの間、違和感に悩まされたものだった。

『それ、あなたに魔法士としての才能があるからよ。誇りなさい』

 火倶夜は、魔法の制御に苦労する真に向かって、そういったものである。

 それが弟子を思い遣る心遣いなどではなく、師の本心だろうということは、まだ付き合いの浅い真にもわかっている。

 嘘がつけない人であり、裏表のない人だった。

 だから、好き嫌いが分かれる人でもあるのかもしれない。

 もっとも、軍団長の中で火倶夜のことを嫌っているものはいないし、むしろ好かれている側の人間だということは、蒼子に聞かされた。

 真も、そんな真っ直ぐな火倶夜が好きだった。

 そういえば、幸多こうたも真っ直ぐだったな、と、真は、ようやく戦場に到達して思い出した。

 あまりにも真っ直ぐ過ぎて、直視できないくらいに眩しいのが、真にとっての皆代みなしろ幸多という人間である。

 そんな彼がいち早く閃光級に昇格したことは、自分のことのように嬉しかったが、素直に喜べないことだということは、後で知った。

 幸多がどのような目に遭ったのか、火倶夜から聞かされたからだ。

 それもあって、真は、幻魔への怒りをたぎらせていたし、爆炎とともに吹き飛ばされていく獣級幻魔の群れの真っ只中に降りるなり、火倶夜の背後に立って、真言しんごんを唱えた。

 律像りつぞうは、とっくに形成し終えている。

七支霊刀しちしれいとう

 真が魔法を発動した瞬間、その全身から放たれた魔力が炎となって吹き荒れたかと思えば、その右手の内に収斂しゅうれんしていった。魔法の炎は、枝分かれした刀身を持つ七支刀しちしとうの形を成す。

 それは魔力体であって、武装顕現型ぶそうけんげんがた星象現界せいしょうげんかいとは全く異なるものだ。

 星装せいそうとも呼ばれる武装顕現型星象現界は、魔力をさらに高密度に凝縮し、昇華させた状態である星神力せいしんりょくを束ねて、武器や防具を創造する。そうして作られた武器は、ただの魔力体である七支霊刀とは比べものにならない質量を誇るものなのだ。

 ただし、真の七支霊刀も、並の魔法ではない。

 擬似召喚魔法ぎじしょうかんまほうとも呼ばれる極めて高度な魔法技術であり、真は、前方で体制と立て直し始めたフェンリルやアンズーの群れに対し、七支霊刀を振りかざした。

 七つの切っ先が火を噴き、無数の熱光線ねつこうせんが幻魔の群れへと殺到する。


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