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第五百十話 第一歩(三)

「つぎや、つぎ」

「つぎ……」

皆代みなしろくんの星象現界せいしょうげんかいは、三種統合型さんしゅとうごうがたの特別製、特盛り大盛り大盤振る舞いの宝石箱やったやろ」

「そこまで大袈裟に言わなくても」

「いいや、いうで」

 朝彦あさひこは、統魔とうまの困惑ぶりに対し、強い口調でいった。

「誰もが一つの星象現界を体得するのに血反吐ちへどを吐くような想いをしとるんは、きみかて理解しとるやろ。きみ自身がそうやったはずや。日々のきみの鍛錬、おれはしっかり見とったで」

 朝彦は、黄金色に輝く統魔の姿が、いつにも増して神々しく、そして鋭気溌剌として見えるのが眩しくてかなわなかったが、その眩しさの根源が、結局の所、彼の本質にあるのだということを理解していた。

 真っ直ぐに見つめられるのも、そのことを知っているからだ。

「は、はあ……」

「きみは、自分に向けられる周囲の期待や羨望せんぼう嫉妬しっとなんちゅう多大な重圧を真っ正面から受け止めとったな」

 誰よりも強く、誰よりもはやく、誰よりも高く、誰よりも深く――麒麟寺蒼秀きりんじそうしゅうの教えに従い、魔法技量を鍛え上げようとする統魔の姿は、なによりも美しく見えたし、輝かしいもののように朝彦には感じられた。

 彼とともに訓練や任務に勤しむ皆代小隊の面々も、同様にだ。

 だからこそ、朝彦は、彼らに目をかけているといっても過言ではない。

 統魔が、星央魔導院せいおうまどういん時代の成績や周囲の期待、戦団の歴史を塗り替える速度での昇進を鼻にかけるような、その上に胡座をかいているような人間ならば、ここまで面倒を見ようとはしなかった。

 そんな人間は、そんな導士は、どうせ長続きはしないのだ。

「せやから、魔法の神さんがきみに微笑んだんやな」

「魔法の神様……」

「そんなんおらんし、おれ、神さんなんて信用してへんけどな」

「なんなんですか」

「うん、やっぱりツッコミが甘いな、きみは」

「おれにみなみさんの役割を期待しないでくださいよ」

「やっぱ、南か。南しか、おらんかあ」

 朝彦は、そんな風にいいながらも、満更ではない表情だった。

 この幻想空間にも、躑躅野つつじの南の姿はあったが、彼女は朝彦と統魔の訓練の邪魔にならないよう、茶々を入れてくることがなかった。

 彼女が星象現界を使えたのであれば、会話に割り込んでくることもあったかもしれないが、いまは自重している。そういう部分には、奥ゆかしさがあるのだ。

「まあ、ええ。話を戻すで。きみが星象現界に目覚めたんは、もちろん、神さんのおかげやない。きみ自身の努力の賜物たまものや。その結果、〈星〉をた。〈星〉とは、なんや?」

「魔法士誰もが持つ魔法の元型……ですよね」

「そう、定義されとるな」

 朝彦は、統魔の回答に頷いた。

「〈星〉は、魔法士ならば誰もが内に秘めとるもんやとされとる。そして、〈星〉とは、その魔法士の魔法の根源であり、元型なんやと。全ての魔法は、〈星〉から発現するっちゅうこっちゃな」

 〈星〉が、魔法の根源であり、元型だからこそ、魔法士によって得意不得意の属性があり、得手不得手の魔法があるのではないか――と、考えられるようになったのは、〈星〉が発見されてからのことだ。

 つまり、近年である。

 〈星〉の存在が明らかになり、星象現界と呼ばれる魔法の奥義が発明されるまでは、そのような考え方は一切なかった。

 魔法士の性質は、人間の個性と同程度のものでしかない、と、考えられていたのだ。

「そして、〈星〉そのものを呼び現す方法が、星象現界や」

 朝彦の説明は、統魔にとっても何度となく聞き知ったことばかりだった。

 だが、しかし、以前とは違って、はっきりと理解できることがあり、新鮮な驚きというか、感覚があった。

 それもこれも、星象現界を体感し、発動したという実体験があるからだろうし、今現在、星装せいそうを身に纏っているからに違いない。

 〈星〉を視て、〈星〉を感じて、〈星〉を現した。

 その一連の経験が、これまで学んできた様々なことを一つに結びつけていく。

 星象現界とは、星のぞうを世界に現す、と書く。

 星とは、〈星〉であり、星の象とは、〈星〉を具体的な形にしたもののことをいうのだ。そして、それは、三つの形式に分けられる。武装顕現型ぶそうけんげんがた空間展開型くうかんてんかいがた化身具象型けしんぐしょうがたの三形式だ。星装、星域せいいき星霊せいれいという呼び方もある。

 それらが星の象である。

 そして、星の象を魔法として発動する技術を指して、星象現界と呼ぶのだ。

「で、本来やったら、魔法士一人につき〈星〉は一つ、星象現界も一つ、とされているわけやが……きみは、どうやら特別らしい」

「〈星〉は一つですよ、たぶん」

「うん。そうなんやろな。なんとなく、そんな感じしとったわ」

「どんな感じなんですか」

「適当なツッコミはいらんねん」

「難しいな」

 統魔は、朝彦と丁々発止のやり取りを続ける南になんだか尊敬すらしそうな気分になった。

「きみは、その〈星〉で三形式の象を使い分ける……いや、ちゃうな。同時に併用することができとったもんな」

「はい」

「やっぱ、おかしいで、きみ」

「いまさらですか」

「いまさらや。なんもかんもいまさらやけどな、きみ、異常やわ」

「そういう言い方、なんだか良くないと想うな」

「せやな、すまんすまん。べらぼーに凄いわ、きみ」

 などと、朝彦が言い直したのは、ルナからの物申しを受けてのことだった。そんな朝彦の言い方が面白かったのか、香織かおりが腹を抱えて笑う。

「っちゅーこっちゃ。皆代くん、星域と星霊を使いなさい」

「ええと……」

 統魔は、困った。

 さて、どうするべきか。

 工場での戦いのことを思い出しても、どうやって星霊を使い、星域を展開したのか、全くわからないのだ。星象現界の発動そのものが無意識的なものだったし、発動後の戦闘において星霊が具象したのも、精霊たちが星域を展開したのも、統魔の意識とは関係のないことだった。

 統魔がやったことではないのだ。

 だから、どうすればいいのかがわからない。

 おそらく、光輪から伸びた十二本の光条が星霊に変化するのだろうが、統魔は、光輪と睨み合ったまま、動けなかった。

「どないしたんや? 遠慮せんでええで。なんたってここは幻想空間やからな。おれを惨殺ざんさつしたって、なんてことはないんやし」

「なんでたおされる前提なんですか」

「あのなあ、三種特盛り大盤振る舞いの星象現界に勝てる方法があるんやったら、土下座してでも教えてもらいたいくらいやわ」

「それは……」

 まあ、そうなのかもしれない。

「インチキチート野郎が!」

「なんなんですか、急に」

「いや、いきなり罵声を浴びせたら、星霊が飛び出してこんかなって、な」

「なるほど」

「納得するんかい」

「ええ?」

 統魔は、朝彦との会話についていけなくなりながら、一方で、星象現界について考え込んでいた。

 三種統合型の星象現界。

 統魔が初めて発現し、以来、戦団本部や魔法局を大いに騒がせているそれは、どのようにして制御し、操作することができるのか。

 統魔は、そのためにこそ、目覚めてすぐに幻想空間に飛び込んだのであって、最初から完璧に使いこなせるなどとは想ってもいなかった。

 だからこそ、じっくりと考える。

 星装の光輪から十二体の星霊が出現し、星霊たちが星域を展開したことから、そういう順序があるということは、想像がつく。

「魔法は、想像。想像力の具現こそが、魔法の基本やで。そのことを忘れたらあかん」

「想像……」

 統魔は、朝彦の的確な指摘を受けて、想像を巡らせた。あの戦場の光景。阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだったあの戦場にあって、統魔の光輪から出現した十二体の星霊たち。

 そのとき、統魔の光輪が反応した。 

 光輪の中心から伸びた十二本の光条のうちの一本が飛び出したかと思うと、統魔の全身もまた光を帯び、光条が雄々しい大男の姿に変化していくのと同時に、統魔の星装が解けていった。

 光輪もまた消滅し、巨大な金槌を持った星霊だけが、統魔を見下ろしたのだった。


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