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第四百六十八話 大空洞調査任務(二)

 大空洞調査任務は、味泥みどろ小隊、六甲ろっこう小隊、薬師やくし小隊、皆代みなしろ小隊という四つの小隊による合同任務だ。

 こういう場合、中隊と呼ぶこともある。

 戦団の最小編成単位は、小隊である。

 小隊は、最低四名から最大八名までの編成をいう。

 今回の小隊の中で四名以外の編成なのは、六名編成の皆代小隊だけだ。

 味泥小隊も、六甲小隊も、薬師小隊も、四人小隊である。いずれも煌光級導士が率いる小隊ということもあり、余程のことでもなければ、必要以上に人数を増やす理由がないということのようだ。

 皆代小隊は、いくつかの理由で六人小隊になってしまった。

 統魔とうまは、輝光級に昇格した直後、小隊を持つことになった。そのとき、真っ先に隊員に名乗りを上げたのがあざなであり、次いで香織かおりだった。

 二人とも、星央魔導院せいおうまどういん時代の先輩であり、特に字とは一年生のころに世話になっていた。故に二人が小隊に入ってくれるといってきたときには、感謝したものだったし、素直に嬉しかった。

 しかし、小隊は、最低限、四人必要だ。

 統魔は、あと一人、必ずつるぎを小隊に入れようと思っていた。魔導院時代の同級生であり、真っ先に友人になった彼とは、いずれ一緒の小隊に入ろうと約束していたからだ。

 だが、統魔は、飛び級で魔導院を卒業していた上、たった八ヶ月あまりで輝光級に昇格してしまったため、剣の入団を待つことが出来なかった。

 剣が入団する今年の四月に小隊を結成するという考えが脳裏のうりよぎらないではなかったが、それでは小隊任務を重ねられないということもあったし、そんなことを剣が望むはずもないということから、統魔は、四人目の隊員を探した。

 六甲枝連(しれん)に目を付けたのは、彼が有数の防型魔法ぼうけいまほうの使い手であり、何度か小隊を組んだ事があったからだ。

 枝連も、統魔ならば、と小隊に入ってくれた。

 それから、今年の四月、戦団に入ったばかりの剣が、すぐさま皆代小隊に加入すると、香織が待ってましたとばかりに彼に甘えるようになったのは、わかりきっていたことではあったが。

 そして、先日。

 ルナが、皆代小隊の一員となった。

 こうして六人小隊が完成したのだが、それそのものは、別段、悪いことではない。

 小隊は、最大八人まで編成することが許されているのだ。あと二人くらい、皆代小隊に追加してもなんの問題もなかった。なんなら、幸多こうたを組み込むことだって、不可能ではない。

 その場合、幸多が第九軍団に移籍することになるのだが、大した問題ではない。軍団間の移籍に関して、かなり自由度が高いのが戦団の特徴である。

 軍団ごとに気風が異なるため、気風が合わないと思えば、即座に別の軍団に移るといったことも可能だった。

 別軍団の小隊に誘われたから移籍するということも、不義理でもなんでもない。

 それは、導士に与えられた権利である。

 戦闘部の導士は、戦団内においてかなりの自由と権限を与えられているのだが、それもこれも、最前線に立つ実働部隊だからだった。

 戦闘部は、死と隣り合わせの職場だ。

「カラスは……まあ、問題なさそうやな」

 朝彦あさひこが、機材が出力する幻板げんばんを覗き込みながら、いった。

 擬似霊場発生器ぎじれいばはっせいきイワクラが展開する結界の中は、簡易拠点が構築されており、様々な機材が設置されている。超小型戦場自動撮影機ヤタガラスを遠隔操作するための機材もその一つだ。

 ダンジョン調査の際には、あらゆる事態に備えておく必要があるからだ。

 ダンジョンでは、なにが起こるかわからない。

 大抵、低級幻魔の巣窟となっているだけなのだが、様々な罠や仕掛けが待ち受けていたり、上位妖級幻魔が潜んでいることもあれば、過去、人類が残したなんらかの研究資料を発掘することだってありえた。

 だからこそ、ダンジョンの調査は必要不可欠であり、この大空洞の場合は、さらに放っておけない事情があった。 

 第一回の調査で確認された三十体以上のトロールである。

 それらが地上に放たれるようなことがあれば、それだけで大災害になりうる。

 トロールは愚鈍だが、それ故にただただ被害を撒き散らしていくのだ。

 やがて、ヤタガラスが四機、大空洞内に飛び立つと、それらを操る四人の導士たちによって広大なダンジョン内の調査が進められていく。

「いまのところ、資料通りだね」

「まだまだ浅瀬やからな」

「三十体のトロール程度、あんたの星象現界せいしょうげんかいでどうとでもなったでしょうに」

「それだけやったらな」

 朝彦は、ヤタガラスから送信される映像を見つめながら、杖長じょうちょうたちの意見を否定しなかった。

 確かにその通りではある。

 しかし、朝彦は、あのとき撤退を選択したのは間違いではないと、確信していた。

 この施設は、あまりにも広大だ。複雑怪奇な迷宮であり、そこに三十体以上のトロールが徘徊しているというのは、あまりにも異様だった。

 なにものかが、トロールを解き放ったとしか思えなかったのだ。

「まあ、あなたの危惧もわからないではないけれどね」

 六甲(みどり)は、朝彦の慎重さが嫌いではなかった。普段の軽妙な口調からは考えられないほど徹底的に慎重で、徹頭徹尾冷静だからこそ、彼は今の地位にいる。

 軍団長・麒麟寺蒼秀きりんじそうしゅう、副長・八咫鏡子やたきょうこがもっとも信頼する杖長こそ、味泥朝彦なのだ。だから彼は、杖長筆頭とも呼ばれるし、他の杖長たちからも一目置かれている。

「あなたが力尽きたら、それで最後だものね」

「でっしゃろ」

「それもそうね」

 薬師英理子(えりこ)は、肩を竦めて、皆代小隊を一瞥した。第一回の調査でもし万が一、朝彦が星象現界を発動した結果、力尽きるようなことがあれば、あの場に取り残されるのは皆代小隊の一部と、躑躅野南つつじのみなみだけだったのだ。

 朝彦が力尽きるような事態を、その五人で打破出来るとは、到底考えられない。

 彼が撤退を決断し、戦力を結集しての調査を行おうというのは、わからない話ではなかった。

 だとしても、だ。

(だったら、この子たちはどういうつもりなのかしらね?)

 英理子は、皆代小隊が巷で大人気の小隊だということは知っているし、彼らの実力も理解しているつもりだ。特に皆代統魔は、子供のころからその才能を買われ、あらゆる星将が自分の軍団に迎えたい、と、引く手数多だったということも聞いている。

 実際、その才能に相応しい戦果を上げ、戦団史を塗り替える速度で昇進してきていた。

 彼が期待の超新星と呼ばれるのも無理からぬことだったし、世間の皆代統魔人気が爆発するのも、当然の結果と言えるだろう。

 しかし、だ。

 彼は、輝光級二位である。

 英理子の隊員たちと良い勝負であり、統魔の部下はさらに低い階級である。

 この場合、任務の足手纏あしでまといになるのではないか。

 さらにいえば、本荘ほんじょうルナだ。

 無意識に周囲を支配する能力を持った人外の怪物。利用価値があるからと受け入れ、戦力として運用しようとしている戦団上層部はどうかしているとしか思えなかったし、英理子は、ルナを一切信用していなかった。

 当然、彼女を擁護する全員をだ。

 皆代統魔を筆頭に、麒麟寺蒼秀すらにも、疑いの眼差しを向けざるを得ない。

 本荘ルナの精神支配を受けていないとは、誰にも断言できないのだ。

 だからといって戦団の決定に反対するつもりなどはないし、ルナを抹殺しようなどと考えもしないのだが。

 ただ、要注意対象だと認識しているだけのことである。

「以前よりも破壊箇所が増えてますね」

 南が、幻板げんばんを見つめながら、いった。ヤタガラスが捉えるダンジョン内の映像は、まさに荒れ放題といった様子だった。壁や床、天井までもがでたらめに破壊されていて、原型を留めていない。

 通路そのものが、凸凹でこぼこになっている。

「そらこんだけ時間たったらなあ」

「トロールも暴れ放題だったんですね」

「いったいだれやねん、トロールを野放しにしたんは」

「隊長」

「おれかい」

「違うんです?」

「……せや、この大空洞の黒幕は、おれや!」

「ここ、拡大してみてください」

「無視かい」

「トロールによる破壊跡とは違いませんか?」

「……ん?」

 朝彦は、南が指し示した場所を凝視した。トロールたちによって破壊し尽くされた室内の一角、なにやら焼け焦げたようなあとがあったのだ。

「なんや、これ」

「魔法による攻撃……か?」

「だとしたら、トロールじゃないわね」

「トロール以外にも潜んでたっちゅう証明やな」

「いま、安心しましたね?」

「誰が前回の調査で殲滅しておくべきやったんやないかって内心どきどきするあまり心臓が飛び出しそうになってたっちゅうねん!」

「全部いうんだ」

「本当、面白いよね、杖長」

「好きだよ、味泥さん」

 皆代小隊の中では、味泥朝彦の評判は上々である。


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