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第三百九十八話 吼える

 激しさを増す猛特訓の日々は、充実しているとしかいいようのないものだったし、幸多こうたは、毎夜、とてつもない疲労感とともに満足感を覚えていた。

 日々、研ぎ澄まされていくような感覚があった。

 全身の細胞が沸き立ち、血肉が猛っているような、そんな感覚。

 実際、幸多の身体能力は、この半月余りで以前とは比べものにならないほどに向上していたし、筋肉量も増大していた。

 元々、星将せいしょうに匹敵するかそれ以上といわれていたほどの身体能力が、この想像を絶するような猛特訓の日々によってさらに鍛え抜かれ、磨き上げられた結果だ。

 幸多が充実感を覚えるのも当然だっただろう。

 無論、充実しているのは、幸多だけではない。

 九十九つくも兄弟も、日夜の特訓によって自分たちの特性というものを大いに理解し、新たな魔法を開発し始めていた。

 九十九つくも兄弟には、得意属性を持っていないという特性があった。

 魔法には、八大属性と呼ばれるものがある。火や水、雷や氷といった魔法の性質を類別したものであり、それらの属性には明確な相性がある。そして、魔法士は、生まれつきいずれかの属性を得意とし、それは一生涯変わらないとされている。

 火と水、風と地、雷と氷、光と闇のそれぞれが相反する属性であり、双極そうきょく属性と呼ばれる。

 双極属性のどちらか一方を得意属性とした場合、相反する属性の魔法を使うことはできない、というのが双極性理論である。

 そして、その双極性理論は、つい最近まで絶対的なものであるとされていた。

 しかし、昨今、九月機関くがつきかん出身の導士が、双極属性理論を克服して見せた事実は、戦団のみならず、魔法社会そのものにとてつもない衝撃を与えている。

 第八軍団に所属する矢井田風土やいだかざと南雲火水なぐもひすいである。この二名の導士は、二人ともが九月機関出身であり、つまりは、九十九兄弟の先輩に当たる人物だ。

 九十九兄弟にいわせれば、あまり面識がないとのことであり、第八軍団内でも顔を見かけることがなく、言葉を交わす機会にすら恵まれていないということだったが。

 矢井田風土は、風属性と地属性の魔法を使いこなし、南雲火水は火属性と水属性の魔法を完璧に行使した。二人は、それによって双極性理論を根底から覆した上、圧倒的な魔法技量をも持っていた。

 それ故、瞬く間に階級を駆け上がり、いまや杖長じょうちょうである。

 一方、同じ九月機関出身者である九十九兄弟は、その二人とは全く異なる例外の持ち主だった。それこそ、得意属性を持たない、という例外である。

 得意属性を持たないということは、どういうことなのか。

「つまりさ、全属性を平均的に扱えるということじゃないかな」

 そんな風に助言したのは、彼らの特性を見抜いた真眼しんがんの持ち主だ。

 義一ぎいちは、この夏合宿期間中、九十九兄弟と多少なりとも仲が良くなっていた。軽口を叩き合えるような関係であり、二人に助言してもいた。

 幸多も、九十九兄弟が自分に親しくしてくれているということもあれば、合宿仲間ということもあって、なにか手助けできることはないかと考えたものだったが、しかしながら、魔法のこととなればどうしようもない。

 幸多は魔法不能者だ。

 幸多が魔法士に出来る助言などたかが知れている。

 真白ましろたちの悩みは、愛理あいりの苦悩とは全く異なる類のものであり、極めて技術的かつ専門的なことだ。

 幸多が口を挟めるような余地はなかった。

 だから、幸多は、二人が義一や金田かねだ姉妹、菖蒲坂隆司あやめざかりゅうじとのやり取りの中でなにかを掴み取ってくれることを願うことしか出来ない。

 そしてそういうやり取りを見聞きしながら、自分自身に出来ることを考え、鍛え続けるだけだった。

 魔法士たちにはできない、幸多にしか出来ないこと。

 たとえば、窮極幻想計画きゅうきょくげんそうけいかくに関連する訓練だが、それも伊佐那いざな家本邸の道場で行えるように、技術局第四開発室が手配してくれていた。

 その際には、副室長・伊佐那義流いざなぎりゅうが自ら設定しに来くれている。

 伊佐那家の一員であり、美由理みゆりの兄なのだから当然だ、と彼は胸を張っていったものだが、そんな義流の振る舞いには、美由理が頭を抱えたそうな顔をしていたことを幸多は見逃さなかった。

 基本的に表情を変えない氷の女帝も、家族の前ではついつい感情を露わにしてしまうものであるらしい。

 そんなことを思いつつも、幸多は、義流率いる第四開発室の技術者たちによって設定された幻想空間での訓練に勤しむのだ。

 幸多には、幸多にしかできないことがある。

 闘衣とういを身につけ、白式武器はくしきぶきを手にし、幻魔と戦う訓練など、その最たるものだろう。

 白式武器は、超周波振動ちょうしゅうはしんどうによって魔晶体ましょうたいの構造崩壊を起こす兵器だ。それ故、魔法士には扱えるものではなかったし、普通の魔法不能者でも扱いづらい武器だという話だった。

 幸多は、完全無能者だ。

 故にこそ、白式武器も撃式武器げきしきぶきも闘衣も鎧套がいとうも、全て完璧に使いこなすことができるはずなのだ。

 もっとも、まだまだ完璧といえるほどではなかったし、これからさらに訓練を積まなければならないことは幸多自身が一番よく理解していることなのだが。

 道場の幻創機げんそうが調整されたことによって出来るようになったのは、鎧套を用いた訓練である。

 戦術拡張外装・鎧套は、敵や作戦、状況に応じて使い分けるために複数用意されている。

 近接戦闘用の武神ぶしん、遠距離戦闘用の銃王じゅうおう、防衛戦闘用の護将ごしょうの三種が現状、利用可能な鎧套である。

 幸多は、個人訓練の際には、それら鎧套の使用感を確認しつつ、撃式武器の習熟にも熱心だった。

 撃式武器の大半は、闘衣だけでは扱えない。

 鎧套・銃王が必須といっても過言ではなく、故に、その使用感を体に馴染ませるためには、時間をかけて訓練に勤しむほかなかった。

 訓練は、自分を裏切らない。

 それだけは間違いない真実である、と、幸多は信じていたし、だからこそ、熱を入れて訓練に撃ち込むのだ。

 全身全霊の力を込めて、徹底的に体を鍛え上げ、技を磨く。

 そうでもしなければ、幻魔災害に対応できない。

 機械事変の光景が、いまも幸多の脳裏を過る。

 花火大会の夜、誰もが歓声を上げ、はしゃいでいた時間。その全てをぶち壊し、恐怖と絶望に染め上げた機械仕掛けの怪物たち。

 市内各所でとてつもない被害が出て、多数の死傷者が確認されている。

 多くの命が奪われた。

 危うく、幸多の親友までも失いかけた。

 二度とあのようなことがあってはならない。

 惨劇は、防がなければならない。

 だが、幸多一人がそう息巻いたところでどうなることでもないという現実もまた、彼は理解していたし、認識してもいた。

 幻魔災害は、いつ何時、どのような規模で起こるのかわかるものではない。

 統合情報管理機構ノルン・システムは、未来予測すらも可能とする演算機であるというが、その全力を以てしても、幻魔災害の発生を予測することは不可能だ。

 幻魔災害に対しては、後手に回らざるを得ないのが現状なのだ。

 せめて戦団が出来ることといえば、央都四市の防備を強め、幻魔災害が発生した直後、瞬時に討伐することによって被害の拡散を防ぐことくらいだった。

 幻魔災害の発生が、即ち、被害の発生である。

 そればかりは、どうしようもない。

 幸多は、引き金を引く指先に力が籠もるのを認めた。

 同心円が描かれた円盤状の幻想体が一瞬にして穴だらけになったのは、飛電ひでんの超連射の結果である。

 幸多は、歯噛みする。

 どうしようもない、などと、思いたくはなかった。

 それを認めれば、あのとき、父を助けられなかったことも、仕方がないことになってしまう。

 それだけは、認められない。

 幸多は、えた。

 しかし、彼の叫び声は、雷鳴のような銃声に掻き消されていった。


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― 新着の感想 ―
相変わらず同じような文言、件、表現のオンパレード。 だから目が滑るし、滑らせても何も問題ないんですよ、事実。 作品全体の総文字数1/3くらいに圧縮しても問題ないでしょう。
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