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第三百八十一話 戦術拡張外装(九)

すごい……」

 幸多こうたは、もはや物言わぬ亡骸なきがらと成り果てたガルム・マキナの巨躯を見ながら、つぶやいた。

 幻魔の死骸には、無数の穴が空いている。DEMシステムによって肥大化した魔晶体ましょうたい、その堅牢な外骨格に刻みつけられているのは、超周波振動弾の弾痕だんこんであり、その強力無比な破壊力の証明である。

 そして、目標を正確に撃ち抜くことができたという証でもあり、幸多は、感動すら覚えていた。

 二十二式突撃銃にじゅうにしきとつげきじゅう飛電ひでんは、巨大な銃器だ。本来であれば両手を使わなければまともに扱うこともできないのは、その大きさもあるが、反動の強力さも関係している。

 飛電の引き金を引いた瞬間、凄まじい衝撃が生じる。

 超周波振動は、その特性上、ただでさえ強力だ。

 白式武器でさえ、衝突の瞬間に強烈な反動が生じるものだが、撃式武器は白式武器の比較にならないほどだった。

 理由は、幸多にすら想像が付く。

 遠距離武器だからだ。

 遠方の対象を撃ち抜くのが、撃式武器であり、弾丸にこそ超周波振動を起こさせるため、より強大な力が必要なのだろう。その結果、銃撃と同時に強力な反動が生じる。

 だから、闘衣とういを身につけただけの幸多には扱い切れず、鎧套がいとう銃王じゅうおうの補助が必要不可欠なのだ。

 そして、銃王は、十二分にその役割を果たしてくれていた。

 飛電を支えるだけでなく、幸多の意識と同調することによって自動的に狙いを定め、照準を合わせてくれるのだ。

 そのため、幸多は、ガルム・マキナを圧倒し、封殺することができた。

 ガルム・マキナは、狂暴極まりない幻魔だ。機械化によって増大した能力を思う存分に振るい、幸多に襲いかかってきた。それこそ、六本の触手と火属性魔法、そしてその巨躯を活かした体当たりによる多重攻撃である。

 幸多は、それらの猛攻を飛び回って躱しながら、視界に捉えた対象を撃ちまくった。万能照準器の照準が対象を捉えた瞬間、引き金を引く――ただそれだけのことで、面白いように目標を撃ち抜くことが出来たのだ。

 それもこれもこの銃王という鎧套があればこそだ。

 たとえ生身で飛電を扱えたのだとしても、これほど完璧な結果にはなりようがなかった。

「凄すぎる」

『感動するのは、少し早いかもね。これも銃王の機能の一部に過ぎないもの』

『それに鎧套は銃王だけではないのだよ』

『そうね……一先ず、別の鎧套も使ってみてもらいたいのだけれど、いいかしら?』

「もちろんです!」

 幸多は、イリアの提案に全力で頷くと、飛電を構え、照準が合った瞬間に引き金を引いた。ガルム・マキナの死骸が消える寸前、閃光と轟音が生じ、幻想体にさらなる穴が空いた。

 そして、音もなく幻魔の死骸が消えて失せると、幸多の全身を包み込んでいた鎧套もまた、光に包まれて消滅した。

 幸多は、多少名残なごり惜しくもあったが、ほかの鎧套にも興味津々だったこともあり、興奮のほうが勝った。

 銃王の性能は、幸多の想像以上のものだった。

 銃王の存在そのものは、機械事変の最中に知り、それが幸多の今後の戦いに大きく影響することは想像できていた。

 しかし、あのとき身につけたのは、銃王の極一部に過ぎず、それが全身を覆うようなものだということには思い至らなかったものだ。

 その上、これほどまでに幸多の戦闘を補助してくれるというのは、想像以上としか言い様がない。

 飛電を連射しながらガルム・マキナを圧倒する感覚は、これまでの幻魔との戦いにはなかったものだ。

 まるで強力無比な魔法で獣級幻魔を圧殺する導士になれたような気分だ。

 幸多は、自分がそんな感覚を抱く日が来るなど、夢にも思わなかったこともあり、なんだか夢の中にいるような気さえしてしまった。

 個々は幻想空間であって、現実世界ではないのだが。

『つぎは、これを試して貰えるかしら』

『転送!』

『一々、言わなきゃおけないことなのかしら』

『そのほうがなにかと気分が乗るでしょう』

『そういうもの?』

『はい』

 イリアと義流の会話を聞いていると、幸多の身に変化が起きた。全身を幻想の光が包み込んだかと思えば、異なる形状の鎧套が具現したのだ。

 銃王が鋭角的な印象を受けた鎧套ならば、今度の鎧套は流線型とでもいうべきかもしれない。全体として丸みを帯びているが、鋭さも感じさせる造形であり、銃王よりも分厚いようだ。

 銃王同様、闘衣を身につけた幸多の体にぴったりと吸い付くようだ。

「これは?」

 幸多が問うと、義流が力強く宣言した。

『その鎧套の名は、武神ぶしん!』

『武神。武の神ね。その名前から想像できるでしょうけれど、近接戦闘用の鎧套よ。幸多くんの本領といえば近接戦闘でしょうし、幸多くんのこれまでの戦い方を随所に反映させているわ』

「武神……」

 幸多は、イリアの説明を聞きながら、軽く体を動かした。装甲こそ銃王より厚めだが、近接戦闘用の鎧套だということがわかれば、頷けるというものだ。

 遠距離戦闘が主体となる銃王は、敵の射程外から一方的に攻撃することもできるだろうし、敵の攻撃対象となる可能性も低い。

 一方、近接戦闘が主体となれば、敵の苛烈な攻撃を掻い潜りながら、あるいは、直撃を受けながら攻撃を行うことになる。

 生存力を少しでも高めるために防御性能を向上させるのは、道理だ。

 そして、その分厚い装甲が幸多の身体能力の足を引っ張っていないことは、軽く動き回れば理解できる。

 武神に鎧われたままでも、思い通りに動くことが出来るのだ。

 地を蹴って飛び跳ね、空中で身を捩って回し蹴りを放ち、着地と同時に後ろに跳躍して回転する。

 幸多の身体能力は、むしろ、武神を装着する前よりも高くなっているのではないか、と思うくらいに研ぎ澄まされている。

『着心地はどうかしら?』

「なんの問題もなさそうです」

『そう、それは良かったわ。銃王は、射撃に重点を置いた鎧套。きみが不慣れな射撃を完璧に補助するために様々な機能が搭載されているし、ノルン・システムとの連携によって、未来予測すらも可能としているわ。その結果、きみ本来の持ち味である身体能力を多少なりとも殺すことになってしまった』

『おれたちとしては残念極まるところだが、こればかりは致し方のないことだ。あらゆる機能を搭載した結果、良さを殺し合っては意味がない。本末転倒だろう』

『その点、きみが最も得意とする近接戦闘用に開発された武神は、その持ち味を存分に活かすことができるはずよ』

「なるほど」

 イリアと義流の説明には納得するしかないのだが、そもそも、幸多には銃王にもなんの不満も文句もなかった。

 頭抜けた身体能力こそが、幸多本来の持ち味といわれれば、確かにそうなのだろうが。

 それが第四世代相当の魔導強化法まどうきょうかほう施術せじゅつされた結果なのだとしても、ここまで鍛え上げたのは、幸多自身の意志だ。幸多自身が磨き上げてきたものこそが、この誰もが驚きを禁じ得ない身体能力なのだ。

 その点に関してだけは、幸多は自信を持っていたし、自負もあった。

 そして、その身体能力を最も活かすことが出来るのが幻魔との近接戦闘だということも、理解していた。今までも近接戦闘でこそ、幸多の実力は発揮されてきたし、多数の幻魔を斃してこられたのだ。

 武神と名付けられたこの鎧套が、妙にしっくりくるのもそれが理由なのかもしれない――などと思っていると、幸多の周囲に複数の幻想体が出現した。いずれも機械型幻魔である。

 下位獣級幻魔ケットシー。

 ケットシー・マキナ。

『銃と違って、体を動かすことにはなれているものね。最初から全力で行くわよ』

「はい!」

 幸多は力強く返答したときには、前方に大きく踏み込んでいた。

 ケットシー・マキナたちもまた、幻想体の完成とともに動き出していて、幸多を包囲覆滅ほういふくめつするべく、機械仕掛けの尻尾を傘へと変形させている。傘が広がり、幻魔の魔力が多量の水滴となって噴き出したときには、幸多は、一体のケットシー・マキナの頭部に拳を埋め込んでいる。

 真武の歩法・空脚による一足飛びの接近から、超高速の拳撃は、しかし、当然のように獣級幻魔の頑強な顔面には傷ひとつつけることができない。

 幸多は即座に唱えた。

双閃そうせん

 二十二式双機刀にじゅうにしきそうきとう・双閃を呼び出し、両手に握り締めると共に拳を引き、瞬時にケットシーの顔面を切り刻むと、さすがの幻魔も怒り狂ったように吠え立てた。

 機械的に再現された幻魔の反応は、だが、極めて現実感を伴うものであり、幻想空間にいることを忘れそうになるほどだった。


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