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第三百四十七話 新兵器(五)

「どうなってやがんだ!?」

 真白ましろ憤然ふんぜんと声を上げるのも無理からぬことだと、黒乃くろのはその叫び声を聞きながら想った。

 黒乃たちは、二十体もの機械型ケットシーと交戦し、見事撃破したはずだったのだ。いずれのケットシーも魔晶核ましょうかくを破壊され、生命活動を停止したはずだ。それどころか、体をバラバラにされたものもいたし、もはやどう足掻いても再起不能だったのだ。

 それなのに突如として再び動き出したものだから、真白だけでなく、誰もが愕然がくぜんとするしかなかったのだ。

 機械型と呼称されることになった新種の幻魔たち。

 それらが魔晶核ましょうかくだけでなく、もう一つの心臓であるDEMコアを内蔵しているということが明らかとなり、戦闘中の導士たちに通達されたのは、この直後のことだ。

 魔晶核を破壊されたことによる機能不全、そして、DEMシステム・コード666の発動による再起動は、機械型幻魔を生物ではなく機械であることを改めて明示するかのようでも有った。

 コード666によって再起動した機械型幻魔は、全身に紅い光を帯びたかと思うと、体中に浸透させ、魔晶体そのものを変化させた。

 幸多こうたの眼前で、ガルムがその体積を二倍近く増大させたように。

 真白たちの周囲では、ケットシーたちが後ろ足に魔法金属製の装甲を纏っていた。

 全てのケットシーが再起動したのだ。

 魔法によって粉々に打ち砕かれたケットシーも、友美ともみの剛力によって粉砕されたケットシーも、全て、何事もなかったかのように、だ。

「まるで長靴みたいね」

 とは、友美の意見だったが、確かにそのように見えなくもなかった。

 漆黒の魔法金属オリハルコン製の装甲を後ろ足に身につけ、魔法金属製の傘を尻尾から生やしたケットシーは、大地を蹴って空高く跳躍すると、頭上に傘を広げて見せた。傘そのものも、再起動以前に比べて大きくなっている。

 そして、その傘がケットシーたちに長い滞空時間を与えているようだった。

「なにをするつもりだ?」

 真白は、すかさず防型ぼうけい魔法を展開しながら、ケットシーたちの動向を警戒した。

 空を舞う二十体のケットシーは、空中で傘を回しながらも律像りつぞうを展開しており、いまにも魔法による一斉攻撃に転じようしているのがわかる。

「さて」

 義一ぎいちは、ケットシーの体内にうごめくDEMコアの禍々《まがまが》しい輝きを見つめ、苦い顔になった。第三因子サードファクター真眼しんがんが、機械型幻魔の体内を巡る魔力の流れを正確に捉えている。

 当初、ケットシーたちを動かしていたのは、魔晶核から流れている魔力だったのは間違いなかった。魔晶核こそ幻魔の心臓なのだから当然だったし、義一もそこに疑問を抱かなかった。たとえ機械型幻魔が、人型魔導戦術機ひとがたまどうせんじゅつきイクサの後継機の如き存在なのだとしても、DEMコアやDEMユニット、DEMシステムまでもが内蔵されているとは、想像しようもない。

 ましてや、DEMコアが作動してすらしていなかったのだから、真眼でも見抜きようがなかったのだ。

 魔晶核の破壊後、DEMコアが起動したことによって、その存在が視認できるようになっている。

「なんてことないわよ」

 友美が、足下から拾い上げた機械の傘を投擲とうてきした。その際に込められた力がとてつもないものだということは、傘の飛翔速度でわかるだろう。

 傘は、一瞬にしてケットシーに到達すると、その胴体を貫いて見せた。ケットシーが怒号とともに魔法を完成させる。

「DEMコアは、腹の奥だ!」

「それ、早くいってくださいよ!」

「すまない!」

 義一は、友美に謝りながら法機ほうきを旋回させた。友美との合性魔法ごうせいまほう――だろう。おそらくは――によって意識を失ったままの朝子ともこを抱えながら、飛行速度を上げる。

 ケットシーの群れが完成させた魔法は、上空から膨大な水量を滝のように降り注がせるものであり、河川敷を瞬く間に水浸しにし、屋台やらなにやら、花火大会のために用意された様々なものが飲み込まれ、押し流されていった。

 義一も九十九つくも兄弟も、そして友美も、魔法の大瀑布の直撃からは免れたものの、周囲の被害は甚大極まりないものとなった。

 友美は、といえば、空中高く飛び上がると、九十九兄弟の法機に掴まっている。

「とんでもないわね」

「まったくだぜ」

「そうだね。でも、獣級じゅうきゅう幻魔は獣級幻魔だよ」

 黒乃は、確信を以て告げると、魔法の完成を真言の詠唱によって世界に伝える。

天破裂ブラストヘブン!」

 瞬間、地上から噴き上がった黒い魔力の奔流ほんりゅうが、破壊そのものとなってケットシーの群れへと襲いかかる。強力無比な破壊の渦が、五体のケットシーを飲み込み、ずたずたに引き裂き、粉微塵にしていった。

 ひゅうと口笛を吹いたのは、友美だ。

「やるぅ!」

「まだまだ、こんなもんじゃないぜ、黒乃はよ」

「そんなことないけど」

「そんなこと大ありだろうが!」

 真白は、黒乃の謙遜けんそんぶりが嫌味の域にまで到達しているのではないかと思いつつも、魔法防壁の維持に注力した。

 ケットシーたちは、未だに高空に浮かび続けていて、次々と水球を放ってきていた。それら数多の水球が真白の構築する魔法の防壁に激突し、炸裂する。そのたびに防壁が削られていくのがわかった。

 水球の破壊力も、再起動以前よりも遥かに強力なものになっているのだ。破裂の瞬間、凄まじい爆発が起きている。

 真白は、防壁の強化に意識を割かなければならなかった。

 友美は、腕の力だけで、義一の法機に飛び映ってみせると、彼の肩に手を乗せた。義一がびくりとする。

「どうします? 義一様。いまのわたし、近接特化なんですよね」

「そういう合性魔法なんだ?」

「はい。だから、ああいう手合いとは戦いにくくて」

 友美は、遥か上空を悠然と浮かび続けるケットシーの群れを睨み、いった。

 魔魂共鳴法・武身ソウルハーモニクス・デュエリスト

 金田かねだ姉妹が特訓の末に編み出した二人だけの合性魔法だ。二人の意識と魔法を共鳴させることにより、友美の身体能力を極限まで引き出すという、ある状況においては極めて強力な魔法だった。

 しかし、ああまで距離を取られ続けると、どうしようもない。

 遠距離攻撃用の魔法を使えばいいのだが、友美の状態では難しかった。律像りつぞうは不安定となり、魔法は不発するか、暴発しかねない。

 ある意味では、魔法不能者といっても過言ではないのだ。

「では、きみが戦いやすいようにしようか」

「はい?」

 義一は、友美の反応など全く気にすることなく、空を突っ切るようにして飛翔した。ケットシーの魔法が吹き荒れる真っ只中へと突っ込み、同時に魔法を発動している。

伍百弐式改ごひゃくにしきかい閃飛電せんひでん!」

 義一の手の先から放たれた電撃の帯が眼前のケットシーに直撃すると、周囲に飛び散って伝播でんぱした。電撃が電撃を生み、十数体のケットシーたちの動きを一瞬だけ止める。致命傷にはならない。だが、それだけで十分だろう。

「真白!」

「そういうことだと思ったぜ!」

 真白が即座に反応できたのは、義一と友美の会話の内容を聞いていたからだ。

 真白は、ケットシーの群れの真下に魔法を放った。

 それは防型魔法を利用した力場であり、足場である。そして、その力場が展開した瞬間、友美が待ってましたとばかりに義一の法機から飛び立った。その直後には、その魔法の影を帯びた拳が、ケットシーの顔面を貫いている。強固な魔晶体をものともしない打撃は、強大な魔力を帯びているからこそだ。

 さらに打撃は続く。蹴りは斬撃のような鋭さで首を切り飛ばし、手刀が腹を貫く。腹の奥で、硬質ななにかを粉砕した感触があった。DEMコアとかいう奴だろう。事実、ケットシーが活動を停止した。

 頭を潰されても動き回ろうとしていた怪物が、だ。

 義一の言うとおりだった。

 腹の奥にあるDEMコアを破壊さえすれば、機械型幻魔であろうとも二度と動かないのだ。

 そのとき、黒乃の放った魔法がさらに三体のケットシーを丸呑みし、粉々に打ち砕いたものだから、友美は、ケットシーの飛び蹴りを右手で受け止めながら口笛を吹いた。

 黒乃の魔法の威力、精度、いずれもが同世代の導士の中でも桁違いだ。

 さらにいえば、真白の防型魔法も素晴らしい。

 九十九兄弟がなぜ合宿に選ばれたのか、一目でわかるというものだろう。

 それは、自分たち金田姉妹も、なのだが。

 友美は、ケットシーの足から長靴を引きちぎりながら、確信した。


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