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第三十話 閃球

 天燎高校てんりょうこうこう対抗戦部が発足して一月余り。

 圭悟けいごが定めた方針によって、三種競技の内、もっとも勝敗に強く影響する幻闘げんとうをこそ重点的に練習することになったものの、当然だが、他二つの競技も放っておくわけには行かなかった。

 入念に、練習を重ねている。

 競星けいせいは、出場する幸多こうた法子ほうこが飛び回るだけでは練習にならないのではないか、という顧問小沢星奈(おざわせいな)の指摘を受け、練習方法を大きく変えた。

 圭悟とらん真弥まや紗江子さえこ怜治れいじ亨梧きょうごの組み合わせでそれぞれが法器ほうきに跨がり、幸多法子組と実戦形式の競争を行うことにしたのだ。

 それによって実戦感覚を養うことは、極めて重要なことだった。

 問題は、対抗戦決勝大会における競星の競走路は、毎回まったく異なるものであり、競技開始直前に公開されるということだ。

 決勝大会の競走路を幻想空間上に再現して練習するということができないのだ。

 結局、過去の決勝大会で使われた競走路を再現して、練習する以外に対策の取りようがなかった。

 対抗戦の競星は、ただ速度を競うものではない。

 複数の競走相手がいて、それら競走相手との激しい戦いがあり、その戦いにも意味がある。

 ただ一位を取るだけでは、総合優勝を狙うことはできないのだ。

 そのため、競星の練習は日増しに厳しく、激しいものとなった。

 幸多法子組への攻撃が日々加熱し、幸多は、そうした猛攻を容易たやすさばいてかわしてみせる法子の魔法技術のすさまじさに驚嘆きょうたんするばかりだった。

 

 そして、閃球せんきゅうである。

 閃球は、団体競技だ。

 魔法競技のうち、魔法球技ともいわれる運動競技の一種であり、球技というだけあって球を用いる。

 閃球に用いる競技用の球は、星球せいきゅうと呼ぶ。

 競技中、星のように輝く様からそう名付けられた。

 閃球は、六人対六人の団体戦である。

 一人の守将しゅしょうと五人の闘手とうしゅからなり、守将は星門せいもんを守ることに専念する。

 闘手は、戦場を駆け回り、星球を巡って敵闘手とぶつかり合う。そして、星球を敵陣地の最奥部にある星門内に叩き込むことが、その主な役割だ。

 星球を星門内に叩き込むことによって得点となり、制限時間一杯までに獲得点数の多い側の勝利となる。

 対抗戦決勝大会における閃球は、出場高校による総当たり戦である。

 今大会は、予選大会を免除された天燎高校を加えた五校による総当たり戦となり、一校四試合ずつ、合計十試合することになる。

 閃球には、勝ち点と特別点があり、特別点は得点と失点から独自の計算式によって算出した数値だ。勝ち点は、勝利で二点、引き分けで一点の計算であり、負ければ当然一点も貰えない。

 蘭によれば、過去の対抗戦においては、閃球は見た目が派手なだけであって、点数差が大きくなることはなく、概ね、勝ち点が重要という話だった。

 圭悟は、それこそが重要だといった。

 引き分けでも勝ち点をもぎ取れるのだ。

 守備を固め、敵の攻撃を一切通さず、守り抜く。それによって負けることなく閃球を終えることにこそ、優勝する唯一の道である、と、彼は考えているのだ。

 ほかに方法がない。

 即席の、それもやる気のない二名と魔法不能者一名を含めた、半分が使い物にならないといっても過言でない集団で優勝するには、それ以上の良策はないのではないか、と。

 また、守備に徹することで攻撃に力を割かず、温存することができるとも、彼はいった。

 最終競技である幻闘に全力を注ぐためだ。

 幻闘で撃破点を稼ぎ、生存点ももぎ取ることによって、優勝を目指すのだ。

 それだけが唯一の優勝の道であり、天燎高校対抗戦部は、そのための練習を行い続けている。


 閃球は、魔法を用いる球技だ。

 魔法の普及に伴って廃れていった様々な運動競技の中には、当然、球技も含まれている。

 魔法競技の誕生は、廃れ行く既存の競技をなんとしても生き残らせようとした末の苦肉の策といっても過言ではなく、閃球もそうした過程で誕生したものだ。

 魔法を積極的に競技に取り入れることによって、ありふれた球技とは違うということを主張し、そしてそれは実際に大きな反響を呼んだという。

 遠い昔の話だ。

 いま現在、央都おうとで親しまれている閃球とは、様々な面で違っていることだろう。

 とはいえ、基本的なルールに変わりはない。

 星球を用い、守将が星門を護り、闘手が戦場を駆け巡る。

 この戦場とは、広大な競技場の場内のほぼ全域であることが多い。魔法を使えば空中も自由自在に飛び回れる上、飛行による見た目の上での派手さも喜ばれるため、闘手が魔法で飛び回ることが規則上許された。それどころか奨励されており、閃球の戦場における基本的な移動方法が移動魔法や飛行魔法を使うものだった。

 つまり、空中での闘手同士の激突が多く、ただ地上を駆け回るだけにならざるを得ない幸多が暗に戦力外と通告されるのは、致し方のない事実だった。

 もっとも、闘手も常に空中に浮かんでいられるわけではない。

 常時空中に浮かび続けるということは、それだけ魔力を消耗し続けるということであり、精神的負荷が大きいということだ。それも本格的な魔法の訓練などいていない学生である。試合時間目一杯浮かび続けるなど、考えられないことだ。

 試合時間は、前半三十分、後半三十分、前半後半の間に休憩時間が十分存在するため、合計では七十分となる。延長戦も含めれば、もう少し長くなるだろう。

 これは対抗戦決勝大会の試合時間である。対抗戦決勝大会は、一つの会場で全ての競技を行うという性質上、一試合にかかる時間を短くする傾向にあった。

 とはいえ、出場五校の総当たり戦をすべて同一会場で行うのだ。

 どれだけ試合時間を短くしても、丸一日で収めることはできない。

 だから、決勝大会は二日制であり、一日目に競星と閃球の五試合を行い、二日目に閃球の残り五試合と幻闘を行う。

「四十分程度、わたしなら余裕だな」

「わたしもよ」

 などと断言する法子と雷智らいちは、規格外というべきだろう。

 そして、たとえ彼女たちが規格外であったとしても、常に選手として出場しなければならないのだから、疲労も溜まるはずであり、消耗するに違いなかった。

 ともかく、闘手が地上にいる時間も少なくなく、幸多が活躍できる場面が一切ないとは圭悟もいわなかった。

 むしろ、幸多には守備の面で働いてもらわなくてはならない、と圭悟がいった。

 おそらく、他校のだれもが幸多を天燎高校のもっとも大きな穴と見ているはずだった。

 なにせ幸多は魔法不能者だ。魔法競技には不向きにもほどがあり、本来ならば対抗戦になど出るべきではなかったし、学校側も採用するべきではなかった。他校の選手たちも関係者も、天燎高校に同情こそしてくるかもしれない。

 幸多が対抗戦の選手として出場するということは、それほどのことなのだ。

 だからこそ、そこに付け入る隙が生まれるはずだ、と圭悟はいった。

「他校の連中は、おまえのことをなにもしらねえからな。きっと度肝を抜かれるぜ」

 圭悟は、幸多に期待を込めて、いった。

 幸多も、そんな圭悟の期待だけは裏切るまいと気持ちを込めて、練習に励んだ。

 天燎高校の閃球における役割分担は、練習する中で圭悟が決めていった。

 守将には、雷智が自分から立候補し、法子も太鼓判を押したため、圭悟が考えるまでもなかった。

 残る五人は全員闘手となるが、その中でも役割があるのは団体戦となれば当然だろう。

 圭悟は、守備に重点を置くという宣言通り、前衛二人、後衛三人の大盾陣おおたてじんと言われる防御型陣形とした。

 閃球における極めて基本的な陣形のひとつだが、だからこそとっつきやすく、閃球をほとんどしたことのない幸多たちにもわかりやすいのだ。

 特に幸多は、閃球のみならず、魔法競技に触れることのない人生を送ってきた。

 魔法不能者なのだから当然だ。

 子供の頃から魔法を用いる競技には参加できず、ただ見守ることしか出来なかった。だから多少ルールを知っている程度であり、実際にはどうすればいいのかわからないといってもよかった。

 そんな幸多のためにもと行われた練習では、閃球の基本ルールのおさらいから行った。

 閃球は、星球を相手チームの陣地最奥部にある星門内に叩き込むことによって得点し、最終的に得点の多い方が勝つ。同点の場合は延長戦を行い、それでも決着がつかない場合は、闘手と守将の一対一で勝敗を決することになる。

 星球は、どのように扱っても構わない。蹴ってもいいし、投げてもいい。もちろん、魔法を使ってもいい。どうしたほうがより効率的であるかは闘手によって異なるため、一概には言えないだろう。

 星球を保持したまま移動する際も、手に持ったまま移動してもよく、そのため、闘手同士が激しくぶつかり合うことが多々あった。相手闘手が保持した星球を奪い取るには、力尽くで奪うか、魔法で引き剥がす以外に方法がないからだ。

 閃球では、魔法の使用が許可されている。ただし、相手になんらかの攻撃を行う魔法の使用は禁止されているため、攻撃魔法を気にする必要はなかった。

 魔法は、主に移動や防御、星球の確保のために使われる。

 広大な戦場を駆け回って星球を奪い合い、星門を目指す。

 それが閃球の基本的なルールだ。

 天燎高校対抗戦部は、その日の部活動を閃球に費やした。

 基本ルールを何度もおさらいして、基本的な動きを勉強したのだ。

 圭悟の提案する戦術通りの動きができるようになるまでには、まだしばらく時間がかかるだろうが、決勝大会には間に合うはずだ、とは、圭悟自身の弁。

 幻想空間上に再現された戦場を駆け回りながら、閃球が複雑なルールではなく助かった、と、幸多は思った。

 もし複雑怪奇なルールならば、それを覚えるだけで日が暮れそうだった。

 決勝大会まで、一ヶ月を切っている。


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