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第二百六十九話 戦団最高会議

『サタンは、七悪しちあくに相応しい鬼級幻魔おにきゅうげんまを生み出すために市民を襲い、幻魔を生み出していた、と考えていいんじゃないかな』

 ヴェルザンディが、膨大な情報から分析した結果を参加者全員の手元にある幻板げんばんに表示させながら、いった。

 サタンは、任意に幻魔災害を起こす能力を持っている。

 それは、サタンの存在そのものが確認されるようになり、その行動を追う内に判明した恐るべき事実だ。

 央都おうと各地に無数に配備された監視カメラが捕らえた様々な記録映像が、それを証明する。

 人間を殺し、その死をもっ苗床なえどことし、新たな幻魔を生み出す能力を持っているのだ。

 幻魔は、元より、人間の死によって生じる莫大な魔力を苗床として誕生する生命体である。だが、人為的、作為的に生み出すことは出来ないとされていて、人間が幻魔を生み出すことは無論のこと、幻魔が幻魔を生み出すことなど、考えられないことだった。

 だが、サタンの現出によって、そうした常識は過去のものと成り果てた。

 サタンが、意図的に幻魔を生み出す能力を持っていたからだ。

 しかし、なぜ、サタンがそのような真似をしているのかについては、わからなかった。幻魔を増やすことだけが目的ならば、幻魔災害を引き起こすだけ引き起こした挙げ句、戦団にたおされるのを捨て置くのは意味がわからない。本末転倒だろう。

 しかし、七悪という集団、勢力が明らかになったことにより、サタンが今日に至るまで数多の幻魔を生み出しては、戦団にされるのを見過ごしてきた理由もまた、明白となったのだ。

「おそらくは、そうなのでしょうね。サタンの目的は、長らく不明だった。ただ央都の各地で幻魔災害を引き起こすだけ引き起こしているだけで、それ以上なにかをしようともしてこなかったから、そこにどのような意図があるのか、知りようがなかったわ」

『幻魔を増やすことが目的なのだとしても、杜撰ずさんすぎたな』

 天空地明日良てんくうじあすらが、イリアの意見に賛同するようにいった。

「サタンが市民を襲い、幻魔を生み出していたのは、選別だったのよ。七悪に相応しい鬼級幻魔が生まれればそれでよし。そうでなければ、放っておけば良い。自分の目的に不要な幻魔は、戦団が掃除してくれるのだから。そうして、サタンはこの十数年、央都中に被害をばら撒いてきたんだわ」

『選別……』

『七悪のためのか』

「ただ、皆代閃士みなしろせんしが身につけていた闘衣とういから検出された固有波形と、これまで央都市内各所で検出された固有波形を照合した結果、七悪を構成する鬼級がサタンによって生み出された幻魔の中にはいなかった」

 イリアは、手元の小型端末を操作して、幻板に三枚の画像を映し出す。それは、鬼級幻魔バアル・ゼブルの姿を捉えた画像であり、三枚の画像全て、少しずつ違っている。

 一つ目は、幸多の初任務時の画像だ。

「バアル・ゼブルは元々、バビロンの崩壊前後に紛れ込み、央都の影に潜んでいた鬼級幻魔だったわ。当時の名は、バアル。バアルは、成井なるい小隊を壊滅させたものの、伊佐那星将いざなせいしょう神木こうぎ星将、麒麟寺きりんじせいしょう星将と交戦、姿を消した。つぎに確認されたとき、バアル・ゼブルと名乗り、復活したのだ、と、いっていた。そうよね、皆代閃士?」

「は、はい」

 幸多は、イリアの問いに頷くと、大社たいしゃ山頂野外音楽堂の戦闘から切り取られたのだろうバアル・ゼブルの画像を見つめた。アルカナプリズムの復活祭を己自身の復活祭であるといわんばかりに振る舞ったバアル・ゼブル。そのときの記憶は、色褪せることなく、幸多の脳裏に焼き付いている。

「バアル・ゼブルのいった復活とはなにを差す言葉なのか。結局、そのときにはわからなかった。いま、虚空事変、天輪てんりんスキャンダルを経て、多少なりとも想像出来るようになったわ」

 イリアがさらに展開した幻板には、天輪スキャンダルにおける鬼級幻魔現出時の画像が表示されていた。天輪技研の工場、その地下から噴き出した光の柱。その膨大な魔力と人型魔動戦術機ひとがたまどうせんじゅつきイクサの残骸が融合することにより、機械を取り込んだ鬼級幻魔が誕生した瞬間は、幸多も目の当たりにしていた。

『わたしが斃しかけた奴ね』

「名も知らない鬼級は、朱雀院すざくいん星将によって斃されかけた。そこへサタンが現れ、連れ去っていったのだけれど」

『そのとき、幸多ちゃんが飛びかかって、一緒に消えちゃったのよねー』

『度肝を抜かれたわよ』

 朱雀院火倶夜(かぐや)が、そのときの心情を述べつつ、幸多になんともいえない眼差しを向けた。あのとき、あの瞬間、火倶夜は、呆気に取られるよりほかなかったのだ。制することも、引き留めることも出来なかった。幸多は、一瞬にしてサタンの元へ到達し、そして、サタンとともに姿を消してしまったからだ。

 それからしばらく、生きた心地がしなかったのは、火倶夜だけではあるまいが。

 当の本人がけろっとした様子でこの場にいるというのは、なんというか、ある種の図々しさ、ふてぶてしさを感じずには居られない。

 もっとも、幸多はといえば、火具夜に対してのみならず、この場に居合わせている全員に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだったりするのだが、そんなことを発言できる状況などではなかった。

「でも、その暴挙のおかげで、わたしは一つの仮説を立てる事が出来たわ」

「仮説?」

「サタンが、鬼級幻魔をなんらかの方法で七悪に相応しい存在に作り替えたのではないか、という仮説よ」

 イリアは、画像を二枚、幻板上に並べた。片方は、名を発することもなく、火倶夜の攻撃で瀕死の重傷を負い、サタンとともに姿を消した半機械の鬼級幻魔だ。もう片方は、闇の世界に現れた半機械の鬼級幻魔で、名をマモンという。マモンは、あどけない少年のような容貌の幻魔だが、髪色や外見的特徴、そしてなにより固有波形から、天輪スキャンダル時に現出した鬼級幻魔と同一の個体であることが判明している。

 鬼級幻魔が姿を変えることそのものは、決して珍しいことではない。

 だから、現出時の青年のような姿から、闇の世界の少年染みた姿に変わることそのものに疑問は生まれないのだが、問題は、マモンの経緯だ。

「七悪の一柱、強欲のマモンは、サタンによって七悪に列せられたのではないか。そしてそれは、バアル・ゼブルも同じなのではないか。だから、サタンには、鬼級幻魔を七悪に加えるなにかしらの能力を持っていると仮定するに至った」

 元よりサタンには、人間から幻魔を生み出す能力を持っているのだ。

 鬼級幻魔にさらなる変化を加え、配下たる七悪に作り替えるなりなんなりする能力を持っていたのだとしても、なにも不思議ではない、というのがイリアの見立てだった。

『マモンは、アスモデウスが生んだ、などといっていたな』

「ある意味では、その通りなのでしょう。アスモデウスは、東雲貞子あずもていこと名乗る人間に擬態ぎたいし、活動していた。何年も前から、この央都とネノクニで、ね。おそらくは、七悪に相応しい鬼級幻魔を生み出すために」

 アスモデウスの目論見は、虚空事変では失敗に終わった。

 虚空事変は、アスモデウスが昂霊丹こうれいたんを用いることによって意図的に幻魔を生み出そうとした結果起きた惨事であり、アルカナプリズムのボーカル・天野光あまのひかるは、アスモデウスの実験のために命を落としたと考えていい。そして、誕生したのが妖級幻魔サイレンであり、サイレンは七悪に相応しくないという理由から、見捨てられたのだろう。

 天輪スキャンダルでは、アスモデウスが天輪技研を最大限利用して、人型魔動戦術機イクサを開発させた。イクサには、幻魔の細胞や魔晶核ましょうかくが利用されていたが、それもこれも、鬼級幻魔を生み出すために必要だと考えたからに違いない。そして、イクサの操者となった人間二十名の命と、二十機のイクサを取り込み、マモンの素体たる鬼級幻魔が誕生することとなったのだ。

「サタンの目的は、七悪を揃えること。そして、その後、人類を滅ぼすつもり……なのかしらね?」

 それは、アザゼルがいったことではあるのだが、納得の行く話ではなかった。

 それは、この場に集まった誰もが思っていることではあるだろう。

「おそらくは、だが、そうなのだろうな。しかし疑問も残る。人類を滅ぼすだけならば、七悪を揃えるまでもない、ということだ」

 神威かむいが、会議に参加した皆が思っているだろうことを述べた。

 鬼級幻魔は、たった一体で、星将複数名に相当する能力を持っている、とされる。

 戦団は、過去、数体の鬼級幻魔を撃破しているが、そのたびに多大な犠牲を払うことになるのを避けようとした。実際、手練手管の限りを尽くし、戦術によって打倒している。とはいえ、多数の戦死者が出ていることも忘れてはならない。

 鬼級と正面からぶつかり合うということは、膨大な犠牲を払うということである。

 そんなことは、鬼級たちもわかりきっているはずであり、七悪が勢揃いするまでもなく、人類に壊滅的被害をもたらすことなど容易に違いなかった。

 人類は、もはや残り僅かだ。

 ようやく百万人を越えた央都の人口とネノクニの人口を合わせても、百三十万人ほどしかいない。この地球の何処かに、あるいは宇宙の彼方にでも生き残っている人々がいるのだとしても、それら生存者全てを含めて全滅させることも不可能ではあるまい。

『嘆かわしいが、その通りだな』

『あの数の鬼級幻魔が一斉に暴れ出したら、戦団が全力を挙げても、どうにもなるものでもあるまいよ』

『七悪……』

『さて、どうしたものか』

 現状には、央都誕生以来、様々な難問にぶつかり、乗り越えてきた護法院ごほういんの老人たちすらも頭を抱えるほかなかったし、それは、この場にいるほとんど全員の気持ちを代弁してもいた。

 戦団は今、最大の危機に直面したといっても過言ではなかった。


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