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第二百六十八話 七悪(二)

「それは、奴らも同じはずだ」

 神威かむいは、幸多こうたに視線を戻し、告げた。

 奴ら――七悪しちあくと名乗った鬼級幻魔おにきゅうげんまたちも、条件は同じなのだ、と。

 幸多の記憶を操るには、やはり、ノルンシステムのような超技術が必要に違いなく、七悪がそんなものを使っている様子はなかった。まるで携帯端末で撮っているような、そんなお粗末な映像だったのだ。

 とはいえ、だ。

 ならばこそ、納得が行かない上、理不尽極まりないのも事実だ。

「それは、奴らがただの幻魔ならば、の話です」

「どういうことだ?」

「奴らは、自らを悪魔と定義した。幻魔ではなく、悪魔である、と。そこになにか意味があると考えるべきでしょう」

「言葉の綾ではないのか? 奴らの名は、悪魔の名だ。その名に相応しく振る舞っているだけという可能性は?」

「それも考えられます」

「……あー、そこはどうでもよくないんじゃないかね?」

 神威とイリアが言い合う様に水を差したのは、めぐみである。彼女は、白金色の髪を掻くような仕草をしながら、二人にいった。

「奴らがどんな手を使っていようが、大切なのは、奴らがもたらした情報のほうじゃないか?」

「愛の言うとおりだな。幸多の記憶に干渉した方法が魔法であれなんであれ、そんなことはどうでもいい。幸多に後遺症や副作用がないのであれば……だが」

「いまのところは、なんともなさそうですが」

『見た感じ、なんの影響もないようだけど』

『固有波形も検出されませんでしたし』

『魔法じゃないのは確かだと想う……』

「ということのようですが、総長」

「ふむ……」

 神威は、愛や美由理みゆり、女神たちの意見を受けて、考え込んだ。そして、結論づける。

「そうだな。その通りだ。奴らがどのようにして皆代閃士みなしろせんしの記憶に干渉にしたのかについて、いまここで言い合いをしてもどうにもなるまい」

 神威の結論に、異論を挟むものはいなかった。

 確かに、彼の言うとおりだった。

 こんなところで言い合いをしたところで答えが得られるものでもなかったし、それだけの情報もなかった。いま、幸多がなんらかの魔法の影響下になかったことは、間違いない。固有波形が観測されなかったということは、つまり、そういうことだ。

 魔法には、魔力を伴う。魔力は魔素の集合体であり、魔素は固有波形を発する。どう足掻いたところで、それを隠すことは出来ないし、欺瞞ぎまんすることも出来ない。東雲貞子あずもていこことアスモデウスがそうであったように、だ。

 では、どうやって幸多の記憶に干渉したのか、という疑問は、ここで考え続けたところで意味があることとは思えなかった。

 神威は、いった。

「わかったことは、だ。奴らは、サタンを首領とする勢力であり、七悪と総称し、悪魔を名乗っている。そして、後一体の悪魔を誕生させようと画策しているということだ。それが七悪の当面の目的であり、達成次第、人類に牙を剥くつもりのようだ」

「奴らの言葉を信じるならば、ですが」

「そうだな。まったく、その通りだ」

 神威は、美由理の指摘を嘆息たんそくとともに肯定した。

「なにが本当で、なにが嘘なのか。こればかりはわかりようもない」

 全てが戦団を混乱させるためのでたらめで、そのためだけに幸多の記憶に先程の映像を潜り込ませていたのだとしても、なんら不思議ではなかった。

 幻魔は人類の天敵であり、特に鬼級幻魔は、人類をごみのように見下している。

 悪魔と名乗る鬼級幻魔たちが、人類を嘲笑い、あざむき、うそぶいているということだって、可能性としては十二分に考えられた。 

 しかし、可能性などいくらでもある。

 別の可能性ばかり考えていては、身動きが取れなくなるのもまた、事実だ。

 戦団は、これらの情報を踏まえた上で、行動方針を決めるべきだった。

 一つの指針が出来た、というわけだ。

「皆代閃士。手数をかけたが、きみの協力により、様々なことが判明した。これは戦団にとっても重大事といえるだろう。さて、我々はその情報を元に会議を行うことになるが、きみも参加したまえ」

「え? いいんですか?」

「もちろんだ。きみには、証言してもらう必要もあるかもしれないからな」

 神威の提案に幸多は困惑し、美由理に意見を求めるように目線を向けたが、師は静かに頷いただけだった。

 そうするうちに、会議のための準備が進められた。

 静寂が訪れた深層区画内の光が落ちると、闇の中、護法院の仮面がくっきりと浮かび上がった。

 さらに数十枚の幻板が空中に出力されていく。

 護法院は、神威を含めた七名である。空間内に浮かんでいる仮面は六つ。伊佐那麒麟いざなきりん上庄諱かみしょういみな朱雀院火流羅すざくいんかるら白鷺白亜しらさぎはくあ相馬流陰そうまりゅういん鶴林つるばやしテラの六名が、一連の出来事を見守っていたということだ。

 そして、数十枚の幻板。

 これらは、戦団上層部を構成する導士たちの所在地と繋がっており、戦闘部十二軍団長を始めとする星将せいしょうたちである。

 軍団長だけでも、伊佐那美由理を含めた十二名と多い。

 第一軍団長・相馬流人(りゅうじん)

 第二軍団長・神木神流こうぎかみる

 第三軍団長・播磨陽真はりまはるま

 第四軍団長・八幡瑞葉やはたみずは

 第五軍団長・城ノ宮日流子(じょうのみやひるこ)

 第六軍団長・新野辺九乃一しのべくのいち

 第八軍団長・天空地明日良てんくうじあすら

 第九軍団長・麒麟寺蒼秀きりんじそうしゅう

 第十軍団長・朱雀院火倶夜(かぐや)

 第十一軍団長・獅子王万里彩ししおうまりあ

 第十二群団長・竜ヶ丘照彦りゅうがおかてるひこ

 全十二軍団の長が勢揃いだ。

 多忙を極める軍団長が勢揃いするということは、通常ありえないことだ。それだけの緊急事態に直面したからこその招集であり、それに匹敵するだけの事情がなければ参加を拒むことは許されなかった。

 このうち六名は、央都防衛任務についており、もう半数に当たる六名は、衛星任務についている。つまり、衛星拠点からこの会議に参加しているということだ。

 また、戦務局戦闘部長・朱雀院火留多すざくいんかるたも軍団長とともに顔を並べているのは、彼女もまた星将だからであり、戦闘部を取りまとめる立場にあるからだ。

 星将とは、星光せいこう級導士の別名といっても過言ではないのだが、いまではむしろ星光級導士のほうが別名として認識されているくらい、星将という呼び名のほうが強烈な印象を残している。

 同時に、星光級という階級である以上、なにも戦闘部の導士にのみなれるもの、というわけでもない。導士の昇級は、戦団上層部、あるいは護法院によって認定されるものだが、とりわけ星光級の場合は、護法院によってのみ認定される決まりになっている。

 そして、星光級に認定されるのは、簡単なことではなかった。

 戦団に大いなる貢献をもたらしたものだけが、煌光級一位から星光級へと昇級でき、星将と呼ばれるようになるのだ。

 この場に集っただれもが、星将の座に相応しい貢献を成している。

 神威は、護法院、そして戦団上層部の星将たちを見回した。仮面姿の護法院たちも、いまや幻板を出力し、その姿を現している。ごっこ遊びをしている場合などではない、といわんばかりだったし、その意見には神威も大いに賛同した。

 星将たちの表情も、真剣そのものだ。

 誰もが予期せぬ事態に直面し、緊張を感じているものもいれば、動揺しているものもいた。震撼しているものもいれば、怒りを燃やしているものも当然のようにいる。

 幻魔への怒り。

 それこそ、戦団導士たちの最大の原動力だ。

「それでは、戦団最高会議を始めるとしよう」

 神威が告げると、戦団最高幹部が勢揃いした会議の幕が開く。

 戦団の三女神と、護法院、そして星将たちからなる戦団上層部がほとんど欠けることなく集うことなど、そうあることではない。

 だからこそ、場にはとてつもない緊張感が満ちていたし、イリアも愛も、いつにも増して真剣な面持ちで、会議の進行を見守った。

 会議には、早速、幸多の記憶から抽出された映像が用いられた。

 七悪と名乗る、サタンを首領とするのであろう鬼級幻魔たち。

 アザゼル、バアル・ゼブル、アスモデウス、マモン、アーリマン――。

「この十年来、皆目見当もつかなかった特別指定幻魔壱号――サタンの目的がわかったことは、極めて大きな進展といっていい」

 神威は、断言した。

 サタン。

 特別指定幻魔壱号ダークセラフ。

 戦団は、この十年近く、央都に暗躍するその鬼級幻魔を追い続けてきたようなものだった。


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