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第二百四十話 DEM(八)

伍百壱式改雷神鞭ごひゃくいちしきかいらいしんべん!」

光明剣ソードオブライト!」

凍衝破フリージングクラッシュ!」

 伊佐那義一いざなぎいち海運晃かいうんあきら七番冬樹ななばんふゆき、それぞれの魔法が次々と放たれ、イクサたちを攻撃する。電撃の鞭が激しくしなりながら一機のイクサに巻きつけば、巨大な光の剣が降ってきて、イクサの装甲を突き破り、冷気の津波が複数のイクサを飲み込み、氷漬けにした。

 そんな最中に起きたのが、会場の完全なる倒壊であった。

 元より崩壊目前といった有り様であり、天井に開いた大穴からは青空が覗き込んでいたし、壁も穴だらけだった。

 後一撃でも喰らえば崩壊するのではないかというほどの状態であり、そんな惨状を終わらせたのは、イクサの増援であった。

 これにより、合計二十機のイクサが会場に集合したことになる。

 銃器と多様な近接武器を手にした鉄の巨人たち。その漆黒の威容は、雄々しくはありつつも、禍々しささえ感じられた。

 銃撃は鳴り止まず、導士たちを狙い続けているが、そのうちのいくつかの火線は、戦場を縦横無尽に飛び回る幸多こうたに向けられたものだった。

 幸多は、魔法の盾も持っていなければ、魔法の鎧を身に纏うこともできない。銃撃を受ければ、一溜まりもないかもしれず、そのために一所に留まってはいられなかった。

 イクサからイクサへと飛び移るようにして移動しながら、攻撃と回避を行っている。イクサも、ただ攻撃されるだけではない。超反応でもって超高速の斬撃を受け止めては、銃撃を叩き込もうとするのだ。

『さすがは幸多くんね。もう六体目よ』

 ヴェルの報告で、幸多は、自分が何体のイクサを行動不能にしたのかを知る。

 しかし、まだ十体以上が行動中であり、銃撃の雨は全く止む気配がない。

『でも気をつけて。こいつら、普通じゃないらしいわ』

「どういうことなんです?」

『イリアならなにかわかってそうだけど、教えてくれないの。あ、なにもわかってないみたい』

「どっちなんですか」

 特別情報官ヴェルは、当然だが、幸多だけでなくイリアともやり取りしているようだった。

『幸多くんにはイクサ退治に全力投入してもらえって』

「わかってますけど」

 幸多は、ヴェルを通して行われるイリアからの指示に従い、眼前のイクサに大斧を振り下ろした。が、斧刃が巨人に激突する寸前、断魔の柄が吹き飛ばされ、空振りに終わる。幸多は透かさず斧の柄頭をイクサの頭部に叩きつけて体勢を立て直し、上半身を蹴りつけて飛び退く。銃撃が視界を貫いていく。

 雷鳴が轟き、巨大な雷が降り注ぐと、一体のイクサが崩れ落ちた。

 義一の雷魔法だ。

 幸多は、イリアの護衛小隊の人員について、ヴェルから聞いて知っていた。いずれも第七軍団の所属であり。幸多より上位の導士ばかりだった。関わりがあるとすれば、義一くらいのものだが、それも深い関わりではない。

 とはいえ、実力は折り紙付きだ。階級がそれを示す。

 幸多が、舞台のことは彼らに任せ、舞台以外に展開するイクサの相手をすることにしたのも、そうした事実を踏まえてのことだった。

 現在、舞台上のイクサは、全て、行動不能に陥っている。舞台を包囲していたイクサを含めた八機が、だ。それに加え、複数のイクサが活動停止状態であり、残すところ八機というのが現状である。

 会場から観客の避難は完了していて、技研の警備員や央魔連おうまれんの魔法士の大半もこの場を去っている。警備員にせよ、魔法士にせよ、なんらかの命令、指示が降ったのだろう。でなければ、天燎鏡磨てんりょうきょうまを放置して退避したりはできまい。

 幸多は、柄だけの大斧を投げ捨て、召喚言語を発した。

裂魔れつま

 幸多が、閃光とともに出現した二十二式大太刀にじゅうにしきおおたち・裂魔を手にした瞬間、目の前のイクサの巨躯がぐらりと揺らいだ。かと思えば、巨大な暗黒球が、その巨躯を飲み込み、ねじ曲げ、押し潰していく。

「幸多くん、だいじょうぶ!?」

 などと叫びながら、唖然とする幸多に飛び込んできたのは、魔女のような黒衣を身に纏う女性だった。長沢珠恵ながさわたまえである。幸多は、叔母の長身を抱き留めると、そのまま抱え上げた。透かさずその場を飛び離れる。火線が、床を穿ち、無数の穴を空けた。

「まあ、大胆」

「そんなこといってる場合かな!?」

「幸多くんってば、そんなにあたしのことを……」

「そりゃあ大事だけどさあ!?」

 幸多は、聞く耳を持たず、うっとりとしている珠恵に呆れるほかなかった。珠恵が幸多の前ではそうなることはわかりきっていたことだし、慣れていることではあるのだが。

『長沢珠恵。魔暦百八十二年八月十二日生まれ。現在三十九歳。央都魔法士連盟最高幹部の一人、重圧の魔女の異名を持つ』

 突如脳内に響いたヴェルの声に、幸多は叫ぶようにいった。

「そんな解説いいから!」

「どったの?」

 きょとん、と、珠恵。ヴェルの声は、幸多以外には聞こえていない。

「いま、頭の中に妖精がいて」

「え?」

『惜しい!』

 当然としかいいようのない珠恵の反応と、想像だにしなかったヴェルの反応が、幸多の頭の中でぶつかりあって混沌とする。

『実に惜しいわ、幸多くん! 妖精じゃあないのよねえ』

「どういうこと!?」

「どうしたのよ、幸多くん」

 ついに珠恵は、冷静にならざるを得なくなった。幸多の腕に抱かれているという夢心地に身を委ねている場合ではない、と、幸多の様子を見ればわかるものだ。異様としかいいようがない。

 しかし、幸多は、至って冷静だ。

「それはこっちの台詞だよ、たま姉」

「うん?」

「なんで戻ってきたの!」

「そりゃあ、幸多くんがいるからでしょー!」

 至極当然のように珠恵はいう。

 それが当たり前で、道理で、自然の摂理といわんばかりの表情だったから、幸多も、一瞬、言葉を失うった。

「幸多くんは天燎高校の生徒で、あたしはその生徒を護るために借り出されたんだから、言い訳も立つわ」

「言い訳って……」

「今回の雇い主、あそこで倒れてる人」

 珠恵が指差したのは、舞台の上だ。天燎鏡磨が、イリアの目の前に倒れ伏している。気を失っているようだった。

「なるほど」

 イクサを攻撃するのにも言い訳が必要だということを珠恵はいいたいのだろう。本音は、ただただ幸多を護りたいという一心だとしても、そのために行動した結果、央魔連に害が及ぶことは避けたいに違いない。

 央魔連は、長沢家だけでなく、皆代みなしろ家とも繋がりの深い組織だ。

 なにせ、幸多の両親が出逢ったのは、二人ともが央魔連に所属していたからだ。幸星こうせい奏恵かなえも、魔法の才能に恵まれながら、戦団ではなく、央魔連に所属する道を選び、そこで出逢っている。

 それは運命の出逢いというほかなかった、とは、奏恵の弁。

 そんな惚気話のろけばなしを思い出しつつも、幸多は戦場を飛び回り、銃撃をかわし続けた。

 そして、舞台上に至り、龍野霞たつのかすみが展開する魔法壁の内側に珠恵を降ろす。

「たま姉は、ここにいて。ここが一番安全だから。ですよね?」

「え、うん、そうだけど……なんで央魔連の人が?」

 龍野霞が困惑を隠しきれないのも当然の話だった。

 珠恵が一目見て央魔連の人間だとわかるのは、その格好のせいだ。肢体がはっきりと浮き出るような漆黒の長衣。さながら古の魔女のような出で立ちであり、洗練された導衣を身につける戦団の導士とは正反対といっても過言ではなかった。

 ただし、珠恵は美女であり、長身の上、体つきもしなやかで誰もが見惚れるほどだということもあり、古色蒼然こしょくそうぜんとした黒衣も似合っていた。

「どうも皆さん初めまして、幸多くんの叔母の長沢珠恵と申します。いつも皆さんには幸多くんがお世話になっているようで、どのように感謝を述べたらいいものかと幾星霜……」

「そんなこと後で良くない!?」

「そうね、そうよね。まずはこの状況を打開しなきゃ駄目よね。で、どうしましょう?」

 珠恵が気を取り直し、戦団の導士たちに指示を仰ぐと、導士たちが難色を示した。

「いや、いやいや、いやいやいや」

「央魔連の方を巻き込むのは、駄目でしょ」

「駄目じゃないわよう、あたし、幸多くんのためならたとえ火の中水の中、宇宙の果てまでだって行ってみせるわ!」

 憤然ふんぜんと拳を掲げる珠恵に対し、導士たちは、絶句するほかないといった様子だった。

「……なんていうか、愉快な人だね」

「でしょ」

 幸多は、義一の精一杯の褒め言葉に、途方もない徒労感を覚えたのだった。

 イクサ、残り六体。


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