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第二百二十六話 人型魔動戦術機イクサ(二)

「人型魔動戦術機イクサは、ご覧の通り、幻魔討伐を可能とする新時代の戦闘機です。天輪技研てんりんぎけんがその技術の粋を結集して作り上げた、まさに人類の夜明けを告げるものなのです!」

 天燎鏡磨てんりょうきょうまの朗々たる声が響き渡る中、舞台後方の特大幻板げんばんにIXAという文字が浮かび上がる。そして、Immortal X-termination Armsという文字列へと変化する。その頭文字を取って、イクサ、と呼ぶのだ、と言わんばかりの演出であり、観客席の招待客が次々と拍手をし、称賛の声を上げた。

 幻板上に展開された幻魔との戦闘を目の当たりにすれば、誰だってそうなるだろう。

 らんは無論のこと、圭悟けいごも無意識のうちに手を叩いていた。

 誰もが興奮している。

 人型兵器の実用化は、遥か昔、大いに流行したのだが、やがて廃れていった。実用化されたのだが、結局、魔法の前には為す術もなく、無意味であり、資源の無駄遣いに終わることが絶対的な結果として突きつけられたからだ。

 しかし、天輪技研は、魔法時代の盛衰とともに失われていった機械技術を復興させるようにして、人型兵器を完成させた。

 それも、幻魔に通用する最新兵器という形で、だ。

 つい最近、戦団が通常兵器が幻魔に通用することを証明し、公表したことが、この発表会にとって大きな追い風となっているのは間違いなかった。

 幻魔には通常兵器は通用しない――それが定説だった。

 実際、通常兵器と呼ばれる類の武器、兵器は、どれほど進歩し、発展しようとも、幻魔には一切通用しなかった。どれだけ高火力の兵器であっても、幻魔の強固な肉体を破壊することはできなかったのだ。核兵器ですらも、幻魔には全く効果がなかったのだ。

 幻魔の魔晶体ましょうたいを突破し、魔晶核ましょうかくを破壊するには、魔法を用いるしかない。

 それが、幻魔の出現から現在に至るまでの絶対的な真理として、君臨していた。

 だが、戦団謹製のF型兵装(エフがたへいそう)の登場によって、状況は一変した。

 通常兵器でも幻魔に通用するのだと、認識されるようになった。

 無論、ただの通常兵器は通用しないし、F型兵装のような特別な兵器でなければならないのだが。

 イクサは、まさに特別な兵器のようだった。

「イクサは、天輪技研がその技術の粋を集めて作り上げた最新型の動力機関により、最大百二十時間もの連続稼働を可能としており――」

「イクサが凄いのはわかったけど、幸多こうたくんはどうなのよ。どうするつもりなのよ」

 珠恵たまえは、鏡磨によるイクサの説明よりも、幸多のことばかり気にしていたが、真弥まや紗江子さえこも同じ気持ちだった。鏡磨の説明も、幻板に表示されていく文字列や数値も頭に入ってこない。

 イクサが天輪技研、引いては天燎財団の未来にとって輝かしいものであるらしいということは、なんとはなしに想像がつく。幻魔を倒しうる兵器の存在は、人類の希望ともなるだろう。

 鏡磨の演説によれば、イクサの投入によって、戦団の導士が無駄に血を流す必要がなくなるかもしれない。幸多も、戦わなくて良くなるのではないか。

 そんな風に真弥たちが考えるのも、無理からぬことだ。

 真弥も紗江子も、幸多が戦団に入り、戦闘部の導士どうしとなって戦っている現状を必ずしも好ましく思っていないのだ。無論、幸多の決意や覚悟のとうとさ、素晴らしさは知っている。誰かがやらなければならないことだし、力あるものがその責務として幻魔と戦うことそのものを否定しているわけではない。

 だが、幸多は、友人なのだ。この上なく大切な友達の一人だ。

 戦闘部の導士であり続けるということは、常に死と隣り合わせだということだ。

 幸多には、生きていて欲しい、と、真弥たちが願うのは、至極当然の、ありきたりな想いにほかならない。

 だからこそ、天輪技研の新戦略とやらが幸多たち戦団の導士に取って代わるものであるというのであれば、そうなって欲しいものだとさえ、想ってしまう。

 それが幸多の夢を踏みにじるものであっても、だ。

「さて、今回の発表に際し、我々は戦団に協力を申し入れました。イクサは、戦団にとっても、いや、人類にとっても極めて大きな存在です。故に、戦団も協力を惜しまない、と、快諾して頂けたのです」

 鏡磨の言葉に合わせるようにして、幻板に映し出されている映像が切り替わった。

 会場にはいくつもの幻板が出力されているのだが、空中に展開された無数の幻板のうち、いくつかが四機のイクサを映しだしていて、別のいくつかが一人の導士を映しだしていた。

「幸多くうううん!」

 珠恵が興奮気味に叫ぶものだから、真弥と紗江子は耳を塞がなければならなかったし、幸多が映されたことに反応することもできなかった。

 珠恵の幸多への愛情の深さは、溺愛を通り越している。



 幻想空間上に反映された意識が、空気の重さを感じ取っている。

 この空気の重量感は一体なんなのか、と、考えるのだが、いくら考えたところで答えは出てこない。

『大丈夫でしょうか? 皆代みなしろ導士』

「はい、問題ありません」

 幸多は、通信機越しに聞こえてきた男の声に返事をした。

 男は、神吉道宏かんきみちひろという。

 天輪技研の開発主任であるといい、この新戦略発表会で発表される新兵器、人型魔動戦術機イクサの研究開発を主導した技術者だという話だった。そして、人類最高の叡智である、と、米田圭介よねだけいすけや技研の研究者、技師たちが口を揃えていっていた。

 柔和そうな顔つきから想像したとおりの柔らかな声と口調、態度から、幸多は、緊張することもなく、彼との初対面を終えることが出来た。

 米田圭助に案内され、連れて行かれた先でのことだ。そこで、幸多は、神吉道宏率いる天輪技研イクサ計画の主要人員と対面することとなった。

 対面後、イクサ計画とはなんぞや、というところから説明されている。つまり、幸多は、発表会の始まる前にイクサの存在を知ったのだが、それを知ったときの驚きと昂揚感は、筆舌に尽くしがたいものだ。

 人型兵器は、遙か昔に存在しながらも廃れていき、いまや創作物の中にしか見られないものだった。しかし、子供のころからそうした創作物を見て育てば、多少なりとも憧れを持とうというものだし、実際にイクサが動いている映像を見せられれば、興奮もしよう。

 幸多は、イクサが実用化目前であり、発表会後、戦団と協力して実戦で使用することになっている、という話を圭助や神吉道宏から聞かされた。

 戦団が協力的なのは、幸多がこの発表会に協力するということが突然決まったことでも明らかだが、実戦での使用まで決まっているとなれば、幸多にはなにもいうことがなかった。

 ただ、自分がこの発表会でどのような面で協力するのか、全く想像もつかず、多少なりとも不安を覚えたのも事実だった。

 心配することはない、と圭助はいい、神吉道宏も微笑した。

 ただいつものように幻想訓練をしてくれればいい、という話であり、細かな説明を受けて、幸多も安心したものだ。

 そして、発表会の様子を圭介や神吉道宏たちと見守っていたのだが、ようやく予定通りに幻想空間へと転送されたのだ。

 幸多は、完全に再現された幻想体に闘衣とういを身につけている。幻創機に入力されたF型兵装の情報は、戦団から提供されたものであるといい、その話を聞いたとき、少しばかり心配になったりもした。

 F型兵装の中でも白式武器はくしきぶきは、戦団の最高機密といっていい代物だとイリアがいっていたからだ。白式武器に搭載された超周波振動発生機構、通称・超振機ちょうしんきの秘密が解き明かされるようなことはあってはならない。それこそ、戦団にとって最重要機密だ。

 もっとも、そんなことを考えている場合でもなく、幸多は意識を切り替えた。

 いま、幸多は、幻想空間にいる。

 闘衣を身に纏い、二十二式両刃剣・斬魔ざんまを手にしている状態で、広々とした戦場を見下ろしていた。

 広大な荒野だ。どこまでも広がる荒涼とした大地は起伏が激しく、大地が大きく隆起しているかと思えば、深く陥没している場所もある。屹立した岩の柱が無数にあった。

 空は晴れ渡り、雲一つ見当たらない。太陽もない。ありえない風景。幻想空間上にのみ存在しうる景色。

 空間に現実感はないが、肉体は、現実感を覚えている。

 手足が思い通りに動き、指先に至るまで血が通っているような感覚がある。全身を包み込む闘衣が体を引き締め、身体能力を最大限に発揮できるように機能していることも、感覚として認識できる。

 そして、眼下には幻魔が次々と出現していく光景が展開していた。

 幸多は、小高い丘の上にいた。丘の上から、荒野を見渡し、そして、幻魔が大量に現出する様子を目前にして、剣の柄を握る手に力が籠もった。

 普段通り、幻想訓練をすればいい。

 それが、幸多の協力になるのだ、と圭助や神吉道宏はいった。

(普段通り)

 それはつまり、全身全霊の力を込めろ、ということにほかならない。

『では、あれらの幻魔を討伐してください』

 数十を超える幻魔を前に当然のように言ってのけてくる神吉道宏に対し、幸多は、苦笑したい気分だった。とはいえ。

「任せてください」

 幸多は、そういって、地を蹴った。

 小高い丘の上から、戦場へと舞い降りる。

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