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第二百二十一話 新戦略発表会(四)

「迷惑かけられたことなんて、一度だってありませんよ。圭悟けいごくんにはずっと助けられっぱなしで、本当になんとお礼を言ったら良いのかわからないくらいなんです。ぼくにとって圭悟くんは、最高で最強の友人です」

 幸多は、米田圭助よねだけいすけの肩書きに驚きことしたものの、しかし、彼の発言は到底受け入れがたいものであるということを言葉と態度で示した。何処どこの誰からそのような話が伝わったのかはわからないが、幸多からしてみれば、圭悟ほど素晴らしい友人はいないのだ、と、断言できる。

 圭悟に助けられてばかりだったし、圭悟がいなければ、幸多の人生は随分と違ったものになっていたのだと確信している。圭悟がいたからこそ、なにもかもトントン拍子に進んでいったのだ。

 人に恵まれている。

 それは、幸多がここのところ特に実感していることだった。

 魔法という、この魔法社会で最も重要とされる才能を持ち合わせてこなかったが、しかし、人との出逢いに恵まれていて、そのおかげで前に進むことが出来ている。

 そうした出逢いの中でも、圭悟との出逢いは、大きなものだった。

「お、おいおいおいおい……」

「あ、圭悟、恥ずかしくなってる-」

「うふふ、褒められることになれていませんものね」

「米田くんらしいや」

「て、てめえら、なあ……」

 圭悟は、顔を真赤にしたまま、友人たちを怒鳴り散らそうとしたが、場所と状況に飲まれ、言葉を飲み込まざるを得なくなった。

 天燎てんりょう高校の生徒のみならず、発表会に招待された様々な人たちが、通路を通り抜けている。中には、米田圭助に会釈したり、挨拶するものもいた。

 圭悟の父、圭助は、幸多たちのような一般市民にこそ顔が知られていなくとも、この場に呼ばれるような関係者には知られた人物なのだ。特に天燎財団と関わりのある人々からすれば、雲上人のような存在であり、だからこそ、圭悟たちも注目を浴びていた。

皆代みなしろさんがそういってくださるというのであれば、わたしからはなにもいいませんが」

 圭助は、そんな風にいって、幸多の発言を否定しなかったが、肯定したわけでもなさそうだった。圭助と圭悟の関係が必ずしも上手くいっていないことは、二人の言動からも想像がつく。それがどの程度(こじ)れたものなのかはわからないし、知りようもない。そして、幸多はそこに積極的に首を突っ込もうとも考えていない。

 他人の人間関係に土足で踏み込むような真似は、幸多には出来なかった。

 とはいえ、圭助が圭悟に対する見方を多少なりとも変えてくれることは望んではいるのだが。

「それで総合管理官様がなんのようなんでございましょうね?」

 圭悟が嫌みったらしく聞いたところで、圭助の表情に微塵の変化も現れない。圭悟によく似た厳めしい顔つきに柔和な笑みを浮かべたまま、幸多に話しかける。

「皆代さんには、既に御存知のことと思われますが、発表会に協力して頂きたいのです」

「はい。校長先生から聞いていますし、戦団本部の指示書も確認しました」

 幸多は、圭介をまっすぐに見つめ返して、いった。

 戦団が許可したというのであれば、幸多に否やはなかった。

 校長に聞かされたときこそは疑問を覚えたものだが、いわれるまま携帯端末で確認すると、戦団本部からの指示書が届いていた。指示書には、発表会に協力するようにと記されていて、会場で天燎財団及び天輪技研の指示に従うようにとも書かれていたのだ。

 ただし、詳細については一切記されておらず、天燎財団なり天輪技研の人間の指示を待つことしか、幸多には出来なかった。

「では、協力して頂けると?」

「はい」

「良かった。それだけが気がかりでしたので。では、皆代さんはこちらへ。圭悟、きみはご友人たちと会場に行きなさい」

「へいへい、わーってるっての。じゃあ、また後でな、皆代」

「うん、みんなも、後で」

 幸多は、圭悟や真弥たちと手を振り合うと、圭助と向き直った。圭悟は最後まで悪態をついていたが、圭介はといえば、そのことを気にした様子もない。

「では、行きましょうか」

 などと、圭助が、ほかの大人たちとともに幸多を先導した。



 天燎財団主催、天輪技研新戦略発表会は、午前十時に始まるということだった。

 開始五分前ともなると、会場となる大会議場一階大広間の観覧席は、数多の人々で埋め尽くされていた。

 限りなく広い大広間には、奥に舞台があり、舞台との対面に無数の席が並んでいる。舞台がしっかりと見えるようになのか、席は階段状に並んでいる。

 その作りを見て脳裏を過ぎったのは、映画館だ。それもとてつもなく巨大な映画館である。

 その映画館のような会場には、千人以上の招待客がいて、それらが余す所なく、席を埋めている。天燎高校の学生も多いが、学生だけでは席の半分も埋められない席の数が埋まっていたのだから、とんでもない数の招待客がいるということだ

「これだけの人数を集めて、なにを発表するんでしょう」

 龍野霞たつのかすみが緊張した面持ちで、観覧席を見回していた。

 日岡ひおかイリアたちは、会場に入ってからというもの、この招待席に辿り着くまでにそれなりの時間を必要とした。

 かなりの数の招待客がいて、それらは各界の著名人ばかりだ。央都有数の魔法学者もいれば、研究者、発明家、技術者など、名だたる人物が勢揃いしているといってもいい。

 そんな著名人からすれば、イリアに興味を持つのは当然だったし、挨拶ついでに話し込もうとする輩は限りなくいた。イリアからしても、彼らとの繋がりを持っておくのは悪くないこともあって、連絡先の交換などに手間取ったのだ。

 イリアは、戦団技術局でも最高峰の技術者であり、博士などとも呼ばれるほどの人物だ。当然だが、戦団内での評価は、戦団外にも伝わり、広まっている。

 央都は、戦団を中心とする社会だ。

 イリアの名を知らない技術者、研究者などいなかったし、イリアに負けてなるものかと奮起するものもいれば、イリアも負けず嫌いなので、切磋琢磨しあっているといっても過言ではなかった。

 そんな人々との交流そのものは悪いものではなかったし、それどころか心地よいくらいだったが、開始までに招待席に辿り着けない可能性に気づくと、さすがのイリアも焦ったものだった。


「新戦略よ」

 イリアは、龍野霞の疑問に対し、静かに告げた。その目は、舞台に注がれている。舞台には、真っ赤な幕が下りていて、幕の内側で発表会のための準備が整えられつつあるのか、既に準備が整っているのだろうと想像できた。

 幕の外側、つまりこちら側には無数の幻板や立体映像が浮かんでいて、幻板には、新戦略発表会という文言と、開始までの時間が秒単位で表示されている。

 希望の未来へ、栄光に満ちた将来へ、輝かしい明日へ――そんな明るい言葉ばかりが会場内に満ちている。

 それらの文言が天燎財団にとってのものであるということは、周知の事実だ。そして、それが社会全体にとっても良い影響を及ぼすものだと、天燎財団側は確信しているのだろう。だからこそ、これだけの著名人をこの場に呼び集めた。

 そして、著名人もまた、天燎財団がこれだけの覚悟を以て開催するというのであれば参加しないわけにはいかない、と、参加したのだ。

「それがなにかを知りたいんですよ、小隊長は」

 伊佐那義一いざなぎいちが、イリアの素っ気なさに苦笑した。義一もそうだが、この場にいる全員、正装を身につけている。

 戦団の制服でもなければ、導衣でもなかった。立派な礼服である。

 導衣は無論として、戦団の制服も、この場の雰囲気にそぐわなかったし、身につけていれば浮いていただろう。

「そういうことです、博士」

「それは……まあ、見ていればわかるわ。かつて人類が手にしていた技術の復興、とでもいっておこうかしら」

「それがヒントですか」

「ううむ、わからん」

「かつて手にしていた技術……」

 イリアの発言を手がかりに考えようとしたものの、そんなことを考えている暇はなかった。

 もはや発表会の開始まで目前に迫っている。



 発表会を目前に控え、圭悟たちは、天燎高校関係者一同指定された招待席の一角に固まっていた。生徒たちは班ごとに一塊になっていて、教師陣は教師陣で固まり、ところどころに央魔連の魔法士が配置されているといった具合だ。

 央魔連の魔法士を手配しているのは、なにも天燎高校だけではなさそうだった。天輪技研そのものが央魔連の魔法士を手配しているようであり、会場内の各所に黒衣の魔法士たちの姿があった。警備に当たっている央魔連の魔法士たちは、長沢珠恵ながさわたまえの姿を発見しては愕然としたり、吃驚びっくりしていた。

 まさか、央魔連幹部の珠恵が天燎高校に帯同しているとは思わなかったようだ。

「もうすぐだね」

 蘭が、囁くようにいったが、その声音は興奮と昂揚こうようが隠せないといった様子だった。蘭からすれば、天輪技研の発表会に参加できるだけでも大興奮だというのに、その発表会がどうやら天燎財団そのものにとっても極めて大きなものであるらしいのだ。

 昂らずにはいられない。

「皆代くん、なにをさせられるのかしら」

「少し心配ですね」

「心配することなんてないでしょ」

「だな。いくら天燎が戦団嫌いでも、導士様を危険な目に遭わせるような真似はしねえさ」

「そんな発表会なんてしたら、顰蹙ひんしゅくを買うだけよ。特にあたしの」

 とは、珠恵である。

 珠恵は、皆代班のすぐ側にいた。幸多目当てだったのだが、幸多が発表会に関わることになったこともあり、当てが外れてしまって心底悔しい想いをしているようだった。

「はは……」

 珠恵の幸多への愛情の深さについては、昨日から今に至るまでの言動で散々見せつけられていて、真弥も紗江子も愛想笑いを浮かべるしかない。なにが珠恵の逆鱗に触れるのか、わかったものではないからだ。

 やがて、舞台上の幻板に表示されていた数字が、消滅した。

 会場が、暗闇に包まれた。


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