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第百九十九話 九十九兄弟(一)

 九十九真白つくもましろは、黒を基調とし、ところどころに白が入った導衣どういを身につけており、手にはWAND型(ワンドがた)法機ほうき迅星じんせいを持っている。白い迅星は、彼の髪色と同じだ。

 一方の、九十九黒乃(くろの)は、黒一色の導衣を身につけていて、黒髪を含め、全身黒ずくめと言った有り様だ。彼は、ROD型(ロッドがた)法機・流星《》りゅうせいを手にしている。こちらは黒い法機だ。

 WAND型は、短杖型。取り回しがいいが、差し込むことの出来る光札こうさつは一枚。つまり、簡易魔法は一種だけということだ。

 ROD型は、長杖型。長い分、扱いにくいが、光札の差し込み口は三つあり、三種類の簡易魔法を設定可能である。

 が、法機は、なにも簡易魔法を使えることだけが利点ではない。導衣との併用により、魔法を使う上で必要な処理を飛躍的に加速させることができるという時点で、使わない手はなかった。

 また、光札の差し込み口は、導衣の左腕部装甲にもある。腕部装甲には、三枚の光札を差し込む事ができるため、導衣だけで三種類の魔法を簡易発動可能ということである。

 もっとも、簡易的に発動することが可能な魔法というのは、ある程度決まっており、全ての魔法が対象ではない。

 光札に書き込まれているのは、紋象もんしょうと呼ばれるものであり、それは電子情報化した律像りつぞうである。魔法の設計図である律像は、魔法の威力、精度、効果等によって大きく形を変え、強力な魔法ほど複雑化していく傾向にある。そして、複雑な律像を紋象化することは、現在の技術では不可能であるため、簡易発動可能なのは、紋象化できる低難易度の魔法に限られている。

 とはいえ、簡易発動による恩恵は大きく、簡易魔法の存在は、魔法士の戦い方を大きく変えたといっていいだろう。

 導衣や法機に設定した簡易魔法次第で戦い方は大きく変わるし、変えられる。任務や作戦に応じた簡易魔法を選ぶのが、導士の嗜みである。

 幸多こうたは、といえば、漆黒の闘衣とういを身につけ、手には両刃の剣を握っている。二十二式両刃剣にじゅうにしきりょうじんけん斬魔ざんま白式武器はくしきぶきの一種だ。

 蒼黒の刀身が美しい両刃の剣は、やはり、魔法士との戦闘には不似合いな気がしてならない。魔法士の戦いといえば、杖を構え合うなり、無手で向き合うものであり、片方にせよ、明確に殺意の籠もった武器を構えるというのは、中々見ない光景だった。

 幸多と九十九兄弟は、一先ず、一対一で試合形式の訓練をしようという話になっている。

 最初の試合は、幸多と真白が戦うため、黒乃は少しは慣れた位置から両者の様子を見ていた。

 黒乃の目から見れば、兄・真白は相変わらずの自信に満ち溢れた姿であり、いまにも飛びかかりそうな、そんな風情さえある。

 一方、皆代みなしろ幸多は、黒乃にとってはほとんど未知数といっても過言ではない存在だった。導士だが、魔法不能者であり、魔法を使わずに戦うということは知っている。妖級幻魔ようきゅうげんまたおし、鬼級おにきゅう幻魔と交戦してなおかつ生き延びることができていた。

 とてもではないが、並大抵の導士ではない。戦団に所属する下位の導士など、相手にならないのではないか、と思えるのだが、実際の所はわからない。

 黒乃は、幸多が魔法士と戦っている様を見たのは、対抗戦決勝大会だけだ。そして、そのときの戦いぶりは凄まじかったが、当てにはなるまい。

 今回、幸多が相手をするのは、真白なのだ。

 真白は、防型ぼうけい魔法においては抜きんでた実力の持ち主であり、その点だけは戦団上層部にも高く評価されている、と軍団長からお墨付きをもらったほどだった。先のライブ会場で、観客全員を護る防型魔法を駆使したのが評価に響いたようだ。

 防型魔法の使い手は数多といるが、真白ほどに特化した導士はほかにいないのではないか、と黒乃は思う。

 戦闘部の最小編成単位である小隊は、最低でも四人で組むことになるのだが、その際、重要視されるのは、四人の役割である。多くの場合、敵への攻撃に専念する攻型こうけい魔法の使い手が二名、味方の補助、回復に集中する補型ほけい魔法の使い手が一名、そして敵の攻撃から味方を護ることに全力を尽くす防型魔法の使い手が一名という編成になるのだ。

 小隊は、四人から八人までなので、その人数によって編成内容は大きく可変するが、四人小隊の場合は、攻二、防一、補一になるのが理想とされている。

 防型魔法の使い手は、小隊編成において必須と言ってよいのだが、しかし、優秀な防型魔法の使い手となるとそういるものでもないため、少し目立ったかつやくをするだけで引っ張りだことなる。

 かくいう真白も、先の活躍を経て、様々な小隊から声がかかっていた。が、真白は、黒乃と一緒じゃなければ応じないと断言していることもあり、小隊に組み込んで貰えるかどうか、難しいところだった。

 真白は欲しくても、黒乃は不要と考える小隊長が多いのだろうし、それも当然だと、黒乃は思う。

「頭がおかしいからさ、魔法不能者なのに戦闘部に入ったんだ。でも、ぼくは本気だよ」

「んなこたぁ、いわれなくたってわかるっての」

 真白が、幸多に向かって笑みを見せる。

 兄が楽しそうな表情を浮かべたことに少しばかり驚きつつも、黒乃は、二人が同時に動き出すのを見ていた。

 そして、幸多が地を蹴って、地上からその体躯が離れた瞬間、勝負は決していた。

 真白は、後ろに飛び、距離を取ろうとしていた。幸多の身体能力の高さに関しては、疑う余地はなかったし、実戦を目の当たりにしたこともあって、大きく評価していた。だからこそ、試合開始とともに距離を取ろうとしたのだ。でなければ、魔法を使うことができない。

 魔法を使えなければ、勝ち目がない。

 そして、真白は、魔法を使う暇もなければ、距離を取ることもできないまま、蒼黒の剣によって胴体を真っ二つに切り裂かれたのだった。

 真白の幻想体は崩壊したが、瞬時に別の座標に再構築された。

 幻創機げんそうきの設定を連戦用にしているのだ。

 一戦ごとに現実に回帰するのは、それはそれで冷静になることが出来るし、考える時間も出来るのだが、一々幻想空間に意識を移送するための時間が勿体ないという考え方も当然のように存在した。そのための連戦設定である。その場合、幻想体が崩壊してもすぐに再構築されるようになっている。

 幸多が神木神威こうぎかむいと訓練したときのように、傷ついた幻想体が瞬時に復元する設定もある。

 真白は、切断された腹部を押さえるようにしながら、幸多を見遣みやった。痛みは消え去っているが、余韻のような感覚があった。一瞬。本当に一瞬にして、幸多は真白の眼前に迫ってきて、剣光一閃けんこういっせんといわんばかりに切り裂いてしまった。

「はええって」

「魔法を使わせたくないし」

「そりゃあそうだろうけどよお」

 真白は、幸多の返事にぐうの音も出ないといった有り様であり、そんな兄の様子に黒乃はなんだか安心すら覚えた。真白が負けた腹いせに相手に噛みついたりしないのは、とてもいい傾向だった。

 相手が、幸多だからだろう、と、黒乃は考えつつ、幸多の前に歩いて行く。

 九十九兄弟側は、一戦ずつ交代する約束になっていた。真白は、不完全燃焼この上なく、不服そうにその場に座り込んでいるが、約束なのだから仕方がない、と、黒乃は幸多と向き合った。

 その瞬間、黒乃は、手足が震えるのを認めた。幸多の目が、黒乃を見据えたからだ。褐色の瞳に強烈な意志の光が宿っている。その視線一つでひりつくような感覚があった。

 幸多は、斬魔を青眼に構えている。その構え方は無論、武器の持ち方一つにとっても、師匠である美由理みゆりに教わったものだった。それまで武器をまともに使ったこともなければ、使う機会もなかった。

 魔法社会であろうがなかろうが、一般市民が武器を手に取ることなどそうあることではないだろう。武術などで得物を握る機会はあるかもしれないが、それも限られた人達の間のことであって、だれもがそうではない。

 仮に武術が旧時代のように隆盛を誇っていたのだとしても、幸多が学んだかどうかは別問題だ。

「どうぞ、お手柔らかに」

「こちらこそ」

 幸多と黒乃の間に横たわる距離は、およそ五メートル。魔法士の戦いならば、近距離といっても過言ではない間合いであり、そしてそれは、幸多にとっても同じ事といっていい。

 両者が同時に動き出し、その瞬間に決着がつく光景を真白ははっきりと目撃していた。

 試合開始と同時に、黒乃は、魔法を発動させることに成功した。導衣に仕込んだ簡易魔法だ。簡易魔法は、真言しんごんを発するだけで発動する。もちろん、瞬間的に、というわけではないのだが、発動までの時間差というのは実戦に耐えうるほどに短い。

 だが、しかし、五メートルの間合いでは、黒乃の発動させた魔法が防御障壁を形成するよりもはやく、幸多の剣が彼の華奢な体を真っ二つにしてしまった。

 幻想体が崩壊する最中、魔法障壁が構築され、それも瞬時に崩れ去って勝敗を決定づける。

 幸多の二連勝だ。


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