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ノーマジック・ノーライフ~魔法世界の最強無能者~【改題】  作者: 雷星
魔界の無能少年

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第千二百四十一話 星象乱舞(一)

「これは?」

 つるぎは、ヴィゾーヴニルの群れを殲滅せんめつすると、周囲を見回した。雷神討滅軍らいじんとうめつぐんを構成する三千名の導士たち。その先陣を切るのは第九軍団だが、トール軍と交戦中なのは、なにも第九軍団導士《自分たち》だけではない。全軍、雷神の庭の各方面に展開しており、そこかしこで幻魔との攻防を繰り広げている。

 激戦も激戦、死闘も死闘だった。

 幻魔の数が圧倒的に多いのだ。

 雷神の庭を埋め尽くし、津波の如き押し寄せてきたトール軍の大軍勢は、雷神討滅軍を包囲覆滅ほういふくめつするべく動いており、半ば実現しつつあった。雷神討滅軍は、それに対応するべく、前方だけでなく、あらゆる方向に戦力を展開せざるを得ない。

 そして、各方面の最前線には杖長じょうちょうが出張り、それぞれ星象現界せいしょうげんかいを発動、それによって兵力差を覆そうと獅子奮迅の戦いぶりを見せている。いや、杖長だけではない。ほかにも多数の星象現界の発動が肉眼で確認できており、それら導士たちの活躍によって、トール軍の陣容に巨大な風穴を開けていることがわかる。

 剣と同世代の新星たちを筆頭とする、何十名もの導士による星象現界の同時発動。

 それら若手導士は、とてもではないが星象現界に到達しうる魔法技量の持ち主とは思えなかったし、違和感をぬぐいきれなかった。

「星象現界がこんなにも?」

「とんでもないね?」

 とは、香織かおり稲光いなびかりそのものとなって戦場を駆け巡る彼女は、一瞬、剣の目の前を横切り、すぐさま幻魔の群れの中へと飛び込んでいった。スレイプニルの腹に大穴を開けて魔晶核ましょうかくを粉砕すると、その勢いのまま、アピスの集団へと突っ込む。雷光がぜた。

「確かにとんでもない、けど……」

「けど、なんだ?」

 枝連しれんが、サンダーバードの雷撃を炎の壁で防ぎながら、剣を一瞥した。剣は、即座にサンダーバードを蹴散らして枝連の側に降りる。枝連の前方には、イフリートの集団が迫ってきている。妖級幻魔の群れ。しかも、枝連が得意とする火属性の幻魔だ。

「なんていうか、普通じゃない気がしてさ」

「……確かに、尋常じんじょうではないな」

「でしょ」

 剣の意見もわからないではない、と、枝連は考える。

 これだけの人数が一斉に星象現界に目覚めるなど、尋常のことではない。ましてや、魔法技量が圧倒的な杖長級の導士ではなく、若手と呼ばれる入団数年内の導士ばかりが星象現界を発動しているようなのだ。

 並大抵のことではなかったし、戦団史に残る異常事態といってもいいのではないか。

 とはいえ、だ。

 若手導士が星象現界を発動することそのものについては、統魔とうまやルナ、草薙真、そして新入りの伊佐那一二三という前例がある以上、ありえないことではない。

「だがな、剣。この土壇場で星象現界の使い手が増えるのは、おれたちにとってこの上ない追い風だ」

「まあ、そうなんだけどさ」

 前方、猛然と迫り来る炎魔人イフリートの群れに対するは、枝連と剣。剣が一陣の風となって駆け抜け、イフリートの布陣、そのど真ん中を突っ切ると、旋風が巻き起こってその巨躯をずたずたに切り裂き、態勢たいせいを崩した。枝連は、その瞬間を見逃さない。

焔神双掌打えんじんそうしょうだ!」

 枝連が己の目の前で両拳を力強く重ね合わせると、その動作のままに、巨大な炎の拳がイフリートたちを飲み込んだ。そして、大爆発。星神力の炸裂によって引き起こされた爆砕が、巨人の群れを飲み込み、吹き飛ばす。

 同属性だろうと最後にものをいうのは、威力である。

 イフリートの魔晶体を焼き尽くすほどの炎は、枝連が星装せいそうを纏っているが故に生み出されるものであり、それは周囲一帯の大地もろともに消し飛ばすほどのものだった。

「絶好調!」

「そうですね。わたしも、頑張らないと」

「アザリンは頑張ってるよ!」

「ありがとう、香織」

 あざなは、戦場を駆け巡る稲妻となった香織を目で追い、その雷が霊級、獣級を問わず一蹴し、妖級すらも撃破していく様を見た。その戦いぶりたるや、鬼神の如しといっても言い過ぎではないのではないか。

 もっとも、字も、決して負けてはいない。

 その周囲には膨大な水気が渦巻いており、大量の幻魔が魔晶体ごと魔晶核を破壊され、絶命していた。海神ポセイドンを模した星霊を星装と纏うことによって、字の戦闘能力は通常とは比較にならないほどに向上している。

 それこそ、杖長級といっても過言ではないほどにだ。

 海神の三叉矛を振りかざせば、巨大な津波が軍勢を飲み込み、幻魔の死骸を大量に作る。

 これが、星装の、星象現界の力なのだ。

「さっすがアザリン!」

 ルナは、背に負った三日月を最大限に巨大化させると、それをブーメランのように放り投げて、軌道上の幻魔を軽々と粉砕するだけでなく、それを好機と見て殺到してきたライジュウたちを無数の光線で撃ち抜いて見せた。

 統魔も、すさまじい。万神殿パンテオン星域せいいきによって第九軍団導士たちを支援しつつ、十一体の星霊を戦場の各方面に飛ばし、幻魔への攻撃と味方への援護を行い、さらには自分自身も幻魔をたおし続けている。

 霊級、獣級はいわずもがな、妖級すらも、いまの統魔にとっては敵ではない。立ちはだかれば最後、つぎの瞬間には死骸となっているのだ。既に幻魔の死骸が山のように積み重なっており、トール軍に与えた打撃たるや、壮絶としかいいようのないものだった。


「これが、星象現界……?」

「なんで……?」

 朝子ともこ友美ともみは、混乱のただ中にいた。頭上に具現したのは、宇宙の化身の如き女であり、それは慈悲深いまなざしでもって、ふたりを見下ろしている。超高密度の魔力体であることは疑いようがなく、そこに生じた重力場が前方の幻魔を引き寄せているのも明らかだ。

 その超高純度の魔力は、星神力と呼ばれる状態へと昇華しょうかしたものである。

「しかも、ふたりでひとつの星象現界なんてね。規格外もいいところだよ」

「はい。ですが、とてもふたりらしいかと」

「ああ、そうだね」

 流星りゅうせいは、黎利れいりの意見に頷きつつも、銀星ぎんせい小隊が直面した事態に緊張した。幻魔の大群が、銀星小隊に迫ってきている。妖級幻魔ヴァルキリーに率いられた幻魔の攻撃部隊。

 ヴァルキリーの剣が光を帯び、膨大化していく様を見れば、流星と黎利は護りを固めるという選択肢を取る以外になかった。防型ぼうけい魔法を重ね、ヴァルキリーソードに備える。

 ヴァルキリーが得意とする攻撃魔法は、その威力、精度、範囲いずれもが一級品だ。護りをおろそかにすれば最後、星将せいしょうですら致命的な結果になりかねない。

「ニュクス……」

「うん、これはニュクス……!」

 朝子と友美は、顔を見合わせると、大きくうなずいた。そして、かさず前方に視線を向けると、ふたりして手を差し出す。頭上の星霊が、彼女たちの動作に合わせるようにして、両腕を差し伸ばした。星々煌めく銀河をその身に纏う星霊ニュクスは、その両手の先に暗黒体を生み出したかと思うと、消失させた。

 つぎの瞬間、ヴァルキリーの上半身が抉り取られたかのように消滅し、下半身が崩れ落ちる。周囲の幻魔たちに動揺が生じたのも束の間、つぎつぎと消滅していく。

「これは……」

 流星は、窮地きゅうちを脱したことを認めると、黎利と目線を交わし、それから背後に向き直った。金田姉妹の頭上の星霊による攻撃が、幻魔の群れを殲滅せんめつしたのだ。

「ニュクス……夜の女神か」

 その名に相応しい姿をした星霊は、攻撃の手を止めない。

 朝子と友美の意のままに、破壊の限りを尽くしていく。


 黒羽大吉くろばだいきちがその背に生やした漆黒の双翼を自在に操れるようになるまで、然程さほど時間はかからなかった。

 魔法とは、人間が持つ体の一部、あるいは能力の延長であり、使い方がわかりさえすれば、手足を動かすように、呼吸をするように、自然に、無意識的に使いこなせるようになるものだ。

 星象現界とは、魔法士ならばだれもが持つ魔法の元型げんけいたる〈ほし〉を現すもの。

 ならば、星象現界を発動した直後から使いこなせたとしても、不思議ではないのではないか。

 大吉は、そんな風に考えながら、幻魔の群れの中へ突っ込み、暴風によってアンズーを切り刻んで見せた。元より獣級程度に後れを取る大吉ではないが、大量のアンズーを一蹴するのは、これが初めてのことだった。

 そして彼は、部下たちを振り返り、告げた。

「これぞおれの星象現界ラッキークロウフェザー!」

「だっさ」

「ええ……」

「かっこいい……!」

 神爪勇人かづめはやと広尾風夏ひろおふうか砂嘴愛結さしあゆ、三者三様の反応を受けて、大吉は翼を羽撃はばたかせた。

 黒い風が、渦を巻く。


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