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第千二百十六話 防壁任務(四)

「おいおいおいおい、本当に大丈夫なのか? おれたち、見ているだけでいいのかよ?」

「中隊長命令だからね。従うべきだよ」

「……隊長は、なんとも思わねえのかよ」

「そうはいってもね」

 真白ましろが慌てふためいたのは、前方のクニツイクサの巨躯が爆散する様を目の当たりにしたからだ。

 だが、幸多こうたには、どうすることもできない。中隊長・宮前彰の指示通りに動くことを最優先にするべきであり、そのために備え、常に意識を研ぎ澄ませておかなければならない。

 クニツイクサが爆散したのは、妖級幻魔ヴァルキリー、そのもっとも得意とする攻撃魔法ヴァルキリーソードの直撃を受けたからである。

 クニツイクサ改修型は、見るからに旧型よりも装甲が分厚く、防御面で大幅に強化されていた。それでも、妖級幻魔の攻撃魔法が直撃した場合、当たり所によっては致命的な結果になるということだろう。

 護りを固めず、攻撃に専念した結果だということもまた、明らかだが。

 実際、防御に重点を置いていた真星しんせい小隊は、ヴァルキリーソードの射程範囲内にいたものの、傷ひとつ負っていないのだ。

 それもこれも、真白の防型ぼうけい魔法・煌城ルミナスキャッスルが、並外れた防御性能を誇っているからなのはいうまでもない。そして真白は、だからこそ、クニツイクサたちを心配したのだ。

 真白は、攻撃的で排他的な性格だが、得意とするのは防型魔法であり、防型魔法に関しては戦闘部でも突出した魔法技量の持ち主だ。それ故、クニツイクサたちの護りの手薄さが気になって仕方がなさそうだった。

 そんな真白の心配が的中する形で、一機大破し、中破、小破の機体が続出している。

 このままでは、クニツイクサ部隊が壊滅するのではないか。

「さっきまであんなに一方的な展開だったのに……」

「霊級、獣級相手なら、旧型でもあんなものだったよ。で、問題になったのは、妖級以上の幻魔との戦闘に関してだ。だから、高天技術開発たかまぎじゅつかいはつは、戦団の技術局に協力を仰ぎ、その問題点を解決しようとしたんだ」

「で……解決できたのかよ?」

「これは、その機能試験だよ」

「そりゃあ……」

 そうなんだが、と、真白は、にべもない義一ぎいちの言に返す言葉もなかった。

 機能試験。それも実戦での。

 そんなことを行えるのも、クニツイクサが遠隔操作の無人兵器だからだ。操縦者が搭乗する型式の兵器ならば、このような形での機能試験は行えなかったのではないか。

 少なくとも、戦団は賛同すまい。

 人類は、存亡の危機の真っ只中にいる。人間もまた、有限にして貴重な存在だ。人類という種を未来に繋いでいくためには、無茶な真似などできるわけもない。

「まただ」

「うん。また、大破したね」

 真白と義一の声を間近で聞きながら、幸多も、その様子を見ている。闘衣とうい鎧套がいとうによって強化された視力が、クニツイクサとヴァルキリーの間で繰り広げられている超高速戦闘を精確無比せいかくむひに捉えていた。

 縦横無尽に滑走するクニツイクサたち。それに対するヴァルキリーの猛攻は、目が回るくらいに凄まじい。

 今回投入された十六機のクニツイクサのうち、既に五機が戦闘不能に陥っている。

 それだけヴァルキリーの攻撃が苛烈かれつであり、破壊力抜群だということだ。

 ヴァルキリーは、妖級幻魔の中でも特に魔法技量が高いことで知られている。繰り出す攻撃魔法の破壊力は凄まじく、防御魔法もまた、堅牢強固けんろうきょうこだ。そんな怪物を相手に一進一退の攻防を続けていれば、徐々に数を減らしていくのも道理といえるだろう。

 そして、最後には全滅するのではないか――そのように考えていた矢先だった。

 クニツイクサの白銀の装甲、その表面に青白い光線が走ったかと思うと、タケミナカタ・ユニットが外れ、さらに外装が弾け飛んでいった。まるで機体が爆散したかのようにして、分厚い魔法合金の塊が飛び散ったのだ。

「な、なんだ?」

「なにが起こってるの?」

「あれは……」

 クニツイクサ改修型の全身に青白い光線が行き渡り、その輝きが増すとともに機体そのものが膨張したかに見えた。頭部装甲が展開し、物々しい素顔が覗けば、双眸そうぼうが莫大な光を発する。

 クニツイクサの全身から発せられた異音は、咆哮ほうこうの如くであり、天地を揺らすかのようだった。それは大気中の魔素まそが激しく振動したからであり、クニツイクサの動力機関から膨大な魔力が発散されたから起こった現象だろう。

 魔力。

 いや、擬似魔力というべきか。

 参型魔力炉と亜霊石が生み出す、莫大なエネルギー。

 義一の目が、クニツイクサの魔素質量の爆発的な増大を認める。

「魔素質量が五倍……いや、十倍以上に膨れ上がってる……!」

「なんだそりゃ?」

「いったいどういうこと?」

 真白と黒乃が義一に問いかけるも、当の本人は、クニツイクサ改修型に意識を奪われていて、反応すらしなかった。その変化は、戦闘中のすべてのクニツイクサに起きており、それによって青白い光跡が戦場を染め上げていた。

 ただ地上を滑走するだけではない。超高速滑走からの跳躍は、機体を飛翔体とするかの如くであり、軽く飛んだだけで戦場を掻き乱すかのようだった。無数の光跡が入り乱れる様は、幻想的ですらあるのだが、破壊的な光景だということも間違いない。

 そして、ヴァルキリーの攻撃魔法を軽々とかわして見せると、瞬く間に肉迫、至近距離から撃神の銃弾を叩き込み、再び距離を取る。ヴァルキリーたちが大音声でもって真言しんごんを唱え、光の刃を振り回したものの、青白く輝くクニツイクサたちには掠りもしない。逆にその大魔法が大きな隙を生み、極至近からの連射を浴びて、地上の五体が全滅した。魔晶体が復元する時間さえ与えない集中攻撃。

 断末魔が光の嵐を引き起こすが、それすらもクニツイクサたちには関係がなかった。容易く攻撃範囲から離脱し、上空の十五体へとその攻撃対象を移している。無数の火線が、天へと伸びた。

「あれがきっと、オオクニヌシなんだ」

「オオクニヌシ? なんだそりゃ」

「鬼級幻魔のこと?」

「確かに鬼級幻魔にもいるけど」

 幸多は、上空で防御魔法に専念していたヴァルキリーたちがついに攻撃に転じる様を見ながら、いった。オオクニヌシ。大国主と書く。日本の神話に登場する神の一柱であり、国津神くにつかみとされる。かつて、この大地の支配者であったといわれる神の名は、黒乃のいうとおり、鬼級幻魔の名としても知られる。

 鬼級幻魔は、おのが名を神話や伝説に登場する神や怪物から取ることが少なくない。

 故に、オオクニヌシの名が被ったとしてもなんら不思議ではないが、クニツイクサのそれは、むしろ自分たちこそがその名を名乗るのに相応しい存在であると主張するべく、そう名付けたのではないかと思えた。

 この地上の支配者は、幻魔などではなく、人間である、と。

「この場合のオオクニヌシは、クニツイクサ改修型に搭載されたシステムのことだよ。オオクニヌシを起動すると、クニツイクサの全機能を解放し、戦闘能力を十倍以上に引き上げることができるらしいんだ」

「はあ? そんなシステムがあるんだったら、最初から使えばよくねえか?」

「うん、ぼくもそう思うな……」

「そりゃあそれができるならそうするだろうけどさ」

 十五体のヴァルキリーによる地上への攻撃魔法の乱打は、しかし、クニツイクサ改修型に一切成果を上げることができないでいた。地上を逃げ回るだけでなく、一足飛びに飛び上がって肉迫し、至近距離から弾丸の雨を叩き込む巨人たちの前では、ヴァルキリーの戦術は通用しないのだ。

「一度オオクニヌシを起動すると、活動限界まで停止することができないんだよ。そして、活動限界は、最大五分」

「なるほど。それじゃあ、戦闘開始と同時にシステム起動とはいかないか」

 義一は、幸多の説明に納得しつつ、クニツイクサたちがつぎつぎと銃を手放し、腰に帯びた剣を抜き放つのを見た。銃撃では、ヴァルキリーに致命傷を与えるのが困難だとという結論に至ったらしい。

 一方、剣ならば、機剣きけん斬神ざんしんならば、魔晶体ごと魔晶核ましょうかくを切り裂くことも不可能ではない。少なくとも、いまのクニツイクサならば。

 事実、クニツイクサたちは、あっという間にヴァルキリーを殲滅せんめつしてしまい、断末魔の咆哮が、眩いばかりの光の嵐を呼んだ。

 それすらも、オオクニヌシを発動したクニツイクサたちを傷つけることさえできなかったが。

 そして、指揮官を失ったミトラ軍は、敢えなく瓦解がかいした。

 真星小隊を始めとする導士たちは、一目散に逃げ散る雑兵の掃討戦を展開することとなった。


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