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第千二百十四話 防壁任務(二)

 四台のカラキリが次々と後部ハッチを開放すると、待ってましたといわんばかりにして、その雄々《おお》しくも絢爛けんらんたる巨躯を見せつけたのは、鋼鉄の巨人たち。カラキリの後方から前方へと、大きく弧を描いて滑走し、展開する。

 汎用人型戦術機はんようひとがたせんじゅつきクニツイクサ改修型。

 天燎財団てんりょうざいだん高天技術開発たかまぎじゅつかいはつと戦団技術局の合作ともいえるそれらが大地を疾駆しっくし、幻魔の大群に立ち向かっていく様は、勇壮ゆうそうとしか言い様がないものだ。

「改修型ね」

「見た目も大きく変わってるよね。重厚感が増したというか……」

「旧型は、獣級以下を相手にしたときと、妖級以上を相手にしたときとでは、戦績があまりにも違ったからね。あのままだと資源の無駄になりかねないってことで、全面的に見直し、あらゆる部分に手を加えたらしいよ。中でも装甲に関しては、並の魔法では傷つけることすらできないくらいに頑丈だとか」

「隊長のF型兵装(エフがたへいそう)も負けないくらい頑丈だよな」

「まあね。じゃないと、生身で幻魔の群れに突っ込んでいけるわけがない」

 幸多こうたたちは、カラキリの屋根上にあって、全十六機のクニツイクサ改修型が隊列を為していく光景を見ていた。空白地帯の赤黒い大地から巻き上げられるのは、やはり赤黒い土煙だ。それはさながら血煙ちけむりのようであり、クニツイクサの周囲を渦巻き、カラキリを飲み込んでいく。

 カラキリが展開中の擬似霊場ぎじれいばのおかげで、幸多たちの口や鼻に土砂が入ってくることはなかったが。

 そして、十六機もの巨人たちがミトラ軍との戦闘距離に到達するまで、時間はかからない。

『全軍、戦闘行動開始。我々はクニツイクサの援護に回るが、幻魔への攻撃を禁止するわけじゃない。改修型の実戦運用試験とはいえ、そのためにぼくたちが死んでは意味がないからね』

 それに、と、宮前彰みやまえあきらが通信機越しにいってくる。

『改修型がいくら高級品といっても、あれらはすべて消耗品だ。使い潰すこと前提のね。ぼくたちとは違う。ぼくたち導士は、生き残ってなんぼさ』

「生き残ってなんぼ……ね」

「まあ、それはその通りかな」

「おう。死んだらそれまでだ」

「それじゃあ、ぼくたちも行きますか」

 幸多がそういったときには、クニツイクサ部隊とミトラ軍の間で戦いが始まっていた。十六機の巨人たちが縦横無尽じゅうおうむじんに滑走しながら、機銃きじゅう撃神改げきしんかいを連射し、一方的な大攻勢を展開しつつある。

 対するミトラ軍は、先陣の霊級幻魔が為す術もなく撃滅げきめつされ、獣級幻魔たちも次々と撃破されていくため、戦術そのものの見直しを図ったようだった。

 改修型の前では、獣級幻魔ですら動く的にしかならない。

 事実、既に大量の獣級がクニツイクサの斉射せいしゃによって撃破されており、断末魔だんまつまとともに繰り出された魔法が雨霰あめあられとなって降り注ぎ、戦場を混沌の渦に飲み込もうとしていた。

「これだから、幻魔は厄介だな」

 とは、義一。彼の目は、戦場をかき乱すように膨れ上がる大量の魔素をていた。

 純魔法生命体とも呼ばれる怪物たちは、呼吸をするように魔法を使う。口から漏れる音声は、どのようなものであれ真言しんごんになりうるのであり、死の瞬間に発する断末魔もまた、強力無比な魔法の引き金となりえた。

 故にこそ、断末魔すら発させずに撃滅するのがもっとも適切な戦い方であり、たおし方だ。

 つまり、まず最初に頭部を破壊し、それから魔晶核ましょうかくを破壊すればいい。

 宮前彰がそのことを通信機で伝えると、クニツイクサの操者たちからの返答は、理解しているというものだった。

「まあ、理解していたとしても、この乱戦具合じゃあ仕方ないよね」

 幸多は、F型兵装に身を包み、自動操縦のカラキリの前方を駆け抜けていく。闘衣とうい天流てんりゅう鎧套がいとう護将弐式ごしょうにしき多目的機構腕たもくてききこうわん千手せんじゅを装着し、千手の四本の腕のうちの三本で、真白、黒乃、義一を抱えている。

 例によって例の如く――とでもいうべき、真星しんせい小隊の基本戦術。

 そうすることで一塊になって移動でき、攻撃も防御も移動も、すべてが纏まって行えるという利点がある。守りを固めつつ長距離移動するには、これが一番だ。

「そうだよなあ。いくらなんでも、幻魔の頭を潰してから心臓を破壊するだなんて芸当、簡単にできるわけがねえっての」

「ぼくたちだって毎回できているわけじゃないし」

「っていうか、気にしたことねえよ」

「そこは気にして欲しいかな」

「少なくとも、町中ならね」

 幸多と義一が注意すると、さすがの真白もバツの悪そうな顔をした。そんな兄の反応を見て笑ったのは、黒乃だけだが。

 そのとき、四人に向かって火球が飛来したが、光の壁に衝突して爆散ばくさんしただけだった。爆風が幸多たちをなぶることさえない。

 真白が得意とする防型魔法ぼうけいまほう煌城ルミナスキャッスルのおかげだ。多層構造の魔法結界は、生半可な攻撃魔法ではびくともしないのだ。妖級ならばともかく、獣級が死に際に放った魔法程度で破壊できるわけがない。

 幸多は、真白の防型魔法に安心しつつ、速度を上げる。

 前方では、大激戦が繰り広げられていた。

「妖級を出してきたね」

 義一の真眼しんがんは、ミトラ軍の前面に魔素の収束を確認していた。魔界に満ちる膨大な魔素が、ある種の重力場の出現によって引き寄せられているのだ。それはまさに魔素の渦であり、渦の中心には、光り輝く幻魔たちがいた。

 甲冑を纏う美女の姿をした妖級幻魔。

「ヴァルキリーか」

「ミトラ軍の主戦力だね」

「うん」

 ヴァルキリーは、その輝かしい姿からわかるとおり、光属性の妖級幻魔だ。当然、用いる魔法も攻防ともに光属性ばかりであり、戦うのであれば、やはり闇属性の魔法を用いるほうがいいとされている。ほかの属性が通用しないわけでも、光属性を無効化するといった能力があるわけでもないのだが、光には闇が効果的というのが魔法力学における常識であり、対幻魔戦術の定石だからだ。

 幻魔は、純魔法生命体であるが故に、魔法力学を無視することなどできない。

「まあ、属性云々を考えるのは、ぼくたちが魔法士だからなんだけどさ」

「そうだね。ぼくやクニツイクサには、関係ないかな」

 幸多は義一の発言にうなずきながら、クニツイクサ改修型が、二十体ものヴァルキリーを相手に弾幕を張り巡らせる様を見ていた。機銃・撃神改と機砲きほう崩神ほうしんによる集中砲火。

 撃神改は、二十二式突撃銃・飛電改ひでんかいをクニツイクサ用に改良、大型化したものといっていい。使い方としては、飛電改と変わらないだろう。崩神の元となったのは二十二式機関砲・轟雷ごうらいであるらしい。騎士めいたクニツイクサの外見に不釣り合いな物々しさは、その威力を期待させるものだ。

 また、改修型のクニツイクサには、鎧套の戦術拡張機構せんじゅつかくちょうきこうと同等の装備があり、機能拡張装備きのうかくちょうそうびと呼ばれている。そして現在、クニツイクサたちがたった十六機でありながら、その数十倍もの大軍勢を相手に平然と立ち回ることができているのも、その機能拡張装備のおかげといって良かった。

 ミナカタ・ユニットと命名されたそれは、いわば多目的機構腕・千手のクニツイクサ版であり、背部から展開する四本の巨腕が大砲を担ぎ、あるいは抱える様は、威圧的としか言い様がなかった。

 本来の二本の腕には、二丁の撃神改を、そして四本の追加腕には四門の崩神を持っており、つまりは、一機のクニツイクサの火力が飛躍的に向上しているのである。

 霊級、獣級幻魔など、大群であっても相手にならないのではないか。

(間違いなく)

 幸多は、確信する。

 クニツイクサ改修型の快進撃を食い止めることができるのだとすれば妖級以上の幻魔であり、故にこそヴァルキリーが二十体、巨人たちの前に姿を現したのだ。

 ヴァルキリーたちの放つ魔法が光の壁となってそびえ立ち、クニツイクサの集中砲火に対抗する。爆砕ばくさいに次ぐ爆砕。火線が収束し、爆発が連鎖する。轟く爆音に大気が引き裂かれ、大地が揺れ動く。

 そして、ヴァルキリーたちの後方から飛来する数多の魔法がクニツイクサを攻撃していけば、ようやく、戦況に変化が生じた。

 それまでは、クニツイクサ側にとって一方的な展開だったのだ。

 




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