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第千百四十七話 騎士王アーサーと円卓の騎士(十二)

 戦場は、遥か北方。

 龍宮りゅうぐう付近にて待ち構える神威かむいの肉眼では、戦況を把握はあくすることなど不可能だが、問題はなかった。

 自動戦場撮影機ヤタガラスを飛ばしているからだ。

 それもただのヤタガラスではない。つい先日完成したばかりの最新型のヤタガラスである。ヤタガラス二型と命名されたそれは、従来のヤタガラスよりも長時間の連続稼働を実現し、超長距離、高高度の飛行をも可能としている。それは、動力源である魔力結晶を大容量化することに成功したのと、そもそも動力の消費量を大きく軽減することができたからだという。

 詳しいことは専門家ではない神威にはわからないが、技術局の日々の努力が実を結んだからだということは、疑いようがない。

 そして、レイライン・ネットワーク。

 しばらく前までは央都とその近郊にしか影響力を及ぼしていなかった情報通信網は、ユグドラシル・システムの稼働以降、加速度的にその支配域を広げていた。いまやこの旧兵庫地域の北端にまで到達する情報通信網だが、それでもまだまだ全盛期には遠く及ばない。かつては地球全土を超光速通信で結びつけていたのが、レイライン・ネットワークなのだ。

 人類が再び全盛期のレイライン・ネットワークを手に入れることができたのならば、復興への大いなる力となること間違いない。

 事実、レイライン・ネットワークのおかげで、遥か北方へと飛び立ったヤタガラス二型の映像を見、それによって戦況を完璧に把握することができているのだ。

「理解は及ばないが」

 神威が、苦い顔をするほかなかったのは、アーサー率いるアヴァロン軍に対抗する勢力が、反アヴァロン同盟だけではなかったからだ。

 サタンとアザゼル、ルシフェルとガブリエル――鬼級幻魔たる悪魔と天使が二体ずつと、妖級以下の大量の天使たちが参戦してきたのだ。

 それも、アヴァロン軍に対抗する側に協力するかのような様子で、だ。

「奴らはいったいなにを考えている……?」

 奴らとは、無論、サタンとアザゼルのことだ。

 天使たちは、いい。これまで何度となく人類の味方をしてくれていたし、人類に守護者などと宣言してもいる。その言葉を真っ直ぐに受け止め、信じるほど愚かではないものの、現状、天使たちが人類に敵対する素振りを見せたことはなかった。

 天使もまた幻魔だが、ただの幻魔ではない。

 悪魔同様、特別製の幻魔。

 それがなにを意味するのかなど、神威たちには、想像もつかない。

 そして、サタン率いる悪魔たち。明確に人類に対して敵意を抱き、いずれ滅ぼすと宣言してもいた彼らが、なぜ、アヴァロン軍の侵攻を食い止めようとしているのか。

「わからないが、アヴァロンの南進を食い止めてくれるというのであれば、ありがたいことだ」

「マルファスのいうとおりです。反アヴァロン同盟の方々だけでは、食い止めるのも困難だったことでしょう」

 マルファスとオトヒメは、神威の心情など知る由もなく、同盟軍側の戦力が増えたことを素直に喜んでいるようだった。

 神威は、そうは思わない。 

 天使たちはともかく、悪魔たちが、素直に協力するものだろうか。

 実際、アザゼルの魔法は、同盟軍の鬼級をも巻き込んでいる様子なのだ。

 サタンは、アーサーと戦っている。竜の鎧を纏ったかのようなサタンの姿は、武装顕現型ぶそうけんげんがた星象現界せいしょうげんかいを発動したかのようにも思えたが、そう考えたくはないというのが神威だ。しかし、現実は直視しなければならない。サタンは、その状態になったことで、ほぼほぼ一方的にアーサーを打ちのめしていた。

 だが、アーサーもただでは転ばない。

 アーサーもまた、星象現界を発動したのだ。

「星象現界……」

 神威が苦虫を噛み潰したような顔になるのを横目に見て、マルファスは、大型幻板に視線を戻した。

 小さき竜の如きサタンと、無数の剣を携えた騎士王の対決は、ただそれだけで周囲一帯に甚大な被害をもたらしている。

 破壊の嵐が吹き荒び、混沌の奔流ほんりゅうが渦を巻いた。


 サタンは、十二本の光剣こうけんがアーサーの望むままに整列し、隊伍たいごを為す様を見ていた。螺旋を描く十二本の光剣、その軌跡は、美しくも破壊的だ。光剣の軌跡に刻まれるのは、破壊の具象である。

 余波が周囲を吹き飛ばしていく。

 そしてその余波だけでサタンを仰け反らせたのだから、大したものだ。

「やるじゃないか」

 サタンは、目を細めた。竜の兜の奥、双眸そうぼうを紅く輝かせた彼は、十二本の光剣が一瞬にして彼の元へと到達するのを見逃さなかった。右手を掲げ、一本目の光剣を受け止める。光剣と右手の狭間に生じるのは、黒い光の波紋。鱗状のそれは、間断かんだんなく殺到さっとうしてきた十二本の光剣すべてを受け止め、その凄まじいまでの破壊力をいなして見せた。爆発が起きる。星象現界同士の衝突による、星神力せいしんりょくの超爆発。

 ただでさえ壊滅状態だった周囲一帯が、完膚かんぷなきまでに打ち砕かれ、とてつもなく巨大な穴が大地に刻まれた。半球形の巨大な破壊跡。そこへ、アーサーの巨躯が踏み込んできた。光剣による攻撃は、牽制。サタンの意識をわずかでも逸らすためのものに過ぎない。

 本命は、コールブランド。

 両手に握り締めた特大剣は、アーサーの巨体にみなぎる星神力によって通常とは比較にならないほどの力を発揮している。満ち溢れる力が光となってほとばしり、天をくほどに巨大な光の柱となっていた。

 いや、塔だ。

 光の塔。

 天地を支えるかのように巨大な光の塔が、アーサーの両手に掲げられている。

「知っているかい?」

 サタンは、大地震を起こしながら肉迫してきたアーサーを見て、告げた。アーサーの兜の奥で、眼が輝いていた。紅く、黒く、そして、星々を瞬かせるかのように。

「きみがいままさに振るっているその力は、星象現界という」

 十二本の光剣がサタンの眼前から散らばり、全周囲に展開した。サタンを包囲したのである。光剣と光剣の間に光の帯が走り、結びついていく。光剣の結界。サタンの動きを封じ込めるつもりなのだろう。

「最初に発見したのは人間の魔法士だ。魔法士が研鑽けんさん鍛錬たんれんの末に到達しうる、最高の領域――だ、そうだよ」

世迷よまごとを!」

 アーサーの咆哮ほうこうは、天地を揺らした。激しく、強く、全てを否定し、吹き飛ばすかのように。それは怒号どごうだ。サタンへの限りない怒りが、彼の全身から星神力となって迸っていて、この北方一帯の魔素という魔素を震わせているかのようだった。

 サタンは、これほどまでの影響力を持つ星象現界は、ついぞ見たことがなかった。

 それだけアーサーが鬼級幻魔の中でも強い力を持った存在だということだろう。エベルさえいなければ、幻魔一統をなしていたのではないか、と、まことしやかに囁かれていたのがアーサーなのだ。そして、エベルなきいま、彼が魔界一統のために立ち上がるのは、道理といっていい。

 力こそ全て。

 それこそが、魔界の掟なのだから。

「世迷い言なものか」

 サタンは、掲げていた右手を頭上へと移動させると、アーサーが光の塔を振り下ろしてくるのを待った。天地を震撼しんかんさせる雄叫おたけびとともに降ってくる光の塔は、大気中の魔素をき、煌々《こうこう》と燃え上がらせながら、サタンに迫る。サタンは、右手に左手を添え、星神力を込めた。

 瞬間、十二本の光剣がサタンに迫った。

「なるほど」

 サタンは、苦笑とともに光剣を受け入れた。

 サタンの全身に十二本の光剣が突き刺さり、さらに光の塔がその姿を飲み込んだ。

 そして、この旧兵庫地域全体を激震させるほどの爆発が起きた。


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