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第千八十六話 新星繚乱(五)

「外れたっ!?」

「距離が遠すぎたか!」

 布津吉行ふつよしゆき羽張四郎はばりしろうのふたりは、天叢雲剣あめのむらくものつるぎの超極大としかいいようのない斬撃の行き着く先を見ていた。そして、超長距離射程の斬撃が、草薙真くさなぎまことの直線上の全てを両断し、き尽くしていく光景をその目に焼き付けたのだ。

 戦団式魔動戦術せんだんしきまどうせんじゅつ漆拾肆式しちじゅうししき天眼法てんがんほうによる遠視えんし

 導士ならばだれもが身につけている基本的な補型ほけい魔法である。

 吉行と四郎は、これを法機ほうきに仕込み、簡易魔法として駆使くししたというわけだ。

 それによって皆代みなしろ小隊の六甲枝連ろっこうしれんが脱落したのを確認したのだが、無論、それが草薙小隊の狙いではない。

 しんの狙いは、天叢雲剣による先制攻撃で皆代統魔(とうま)を落とすことにあった。

 それが唯一無二の勝ち筋だからだ。

 なんといっても、皆代統魔は、同世代最強の魔法士なのだ。その事実は、今大会出場者の中でもそれは変わらない。いや、そもそも、彼以上の魔法技量の持ち主は、戦団全体を見回してもそうはいないだろう。

 そう確信させる魔素質量の増大、星神力せいしんりょくへの昇華をも天眼法によって見届ければ、星象現界せいしょうげんかいが発動した瞬間を目の当たりにする。

 遥か遠方で天地が震撼しんかんし、星神力が発散した。

 それはさながら超新星爆発のようであり、衝撃波が、初期位置から動いていないはずの草薙小隊をも襲った。

 力が、満ち溢れている。

(まだだ。まだ……!)

 終わってなど、いない。

 まことは、つかを握る手に力が籠もるのを認めた。再び振り上げ、構え直す。呼吸を整え、精神を統一させ、意識を斬撃の一点に集中する。そして、

「頼みます」

「任せて。今度は失敗しないわ」

 村雨紗耶むらさめさやが、力強く言い切った。

 真の星象現界・天叢雲剣は、超長射程の斬撃を振るうことのできる攻型魔法だ。斬撃の直線上に存在する全てを断ち切り、焼き払う必殺の剣撃けんげき。ただし、遥か遠方の目標を斬りつけるには、正確な位置を把握しなければならない。

 真は、星象現界に全力を注いでおり、遠視魔法を使うほどの余裕がない。そこに意識を割けば、それだけで必殺の威力を失いかねない。

 そのため、だれかが彼の目になる必要があった。

 その役割を担うのが、紗耶である。遠視魔法でもって超遠距離の目標を確認し、方向や角度の調整を言葉で以て行うのだ。

 それが天叢雲剣の最適な運用方法であるとして、この数日、みっちりと訓練してきている。

 決勝戦で皆代小隊と激突するという前提だったが、それは出場することになっていたどの小隊も確信していたことだろう。

 皆代小隊こそが、新星乱舞における最強の小隊であり、最凶さいきょうの敵なのだ。

 紗耶は、超高精度の遠視魔法により、黄金色に輝く統魔の姿を目に焼き付けるかのように見ていた。神々しい星装せいそうを纏い、星神力を爆発させ続けている彼の姿は、まさに神話の世界の住人のようであり、周囲を、いや、世界をも圧倒するかのような迫力があった。

 この幻想空間そのものが、統魔の魔素質量を許容できなくなるのではないかと案じてしまうほどだ。

「距離、角度、方向、全て同じ――いえ、動いた! こちらに向かってくる! 真っ直ぐ!」

「真っ直ぐ?」

 真は、紗耶の言葉を反芻し、力を込めた。

「だとすれば、好都合」

 大上段に振りかざした天叢雲剣を、全力で振り下ろす。真紅の直剣ちょっけんが描く紅蓮の剣閃けんせんは、再び真の眼前の空気を灼き尽くし、視界を両断する。

 なにもかもを焼き尽くす灼熱の直線。

 剣閃は、一瞬にして遥か彼方にまで到達し、直線上に存在していた全てを切り裂き、焼き払っていく。天も地も、その狭間はざまに存在する全てを。

 物凄ものすさまじい星神力の奔流ほんりゅう

 真は、確かに手応えを感じた。天叢雲剣がなにかを断ち切った感覚。柄から感じる反動。爆光が、視界を塗り潰す。紅く、白く。

 そして、風圧が草薙小隊を襲った。

「嘘だろ!?」

「なんて奴だ!?」

「そんなっ!?」

「なるほど」

 隊員たちが取り乱す中、真は、それを眼前に捉え、むしろ冷静になっていた。ならざるを得ない。なんといっても、天叢雲剣を振り下ろした直後だ。再び斬撃を繰り出すには、わずかばかりにも時間が必要であり、故に、混乱しようがない。

「それが天叢雲剣か」

 草薙小隊の眼前に出現したのは、皆代統魔である。黄金の太陽を目の当たりにしているかのような感覚に襲われたのは、それほどまでに強烈な光を放っていたからだ。そしてその光が星神力という超高密度の魔素だからだろう。

 ただひたすらに圧力を感じた。

 直後、吉行や四郎、紗耶が迎撃に転じようとする間もなく、三者三様さんしゃさんように散っていった。吉行は炎に包まれ、四郎は矢に射貫かれ、紗耶は雷に撃たれ――真は、統魔の剣を受け止めることで、どうにか事なきを得た。

 だが、状況は、最悪だ。

「才能って奴だな」

「はっ」

 統魔に軽々と弾き飛ばされたものだから、真は、苦笑するほかなかった。

 才能、素養そよう資質ししつ――そんなものは、導士ならばだれもが持っている。持っているからこそ、導士になれた。

 導士間に才能の格差はない。

 それが、真の師・朱雀院火倶夜すざくいんかぐやの考えであり、真は、そんな師の考え方が素敵だと想っていた。才能に格差がないからこそ、努力が報われる。日々の鍛錬たんれん研鑽けんさんが、才能以外の部分に差をつけていくのだ、と。だからこそ、訓練を怠ってはいけない、と、師はいうのだ。

 血反吐ちへどを吐くような猛特訓の日々は、才能の差を埋めるためのものではない。

 皆と同程度の才能を磨き上げ、より鋭く研ぎ澄ませるためのものなのだ。

 そして、その末に到達したのが、この境地なのだろう、と、真は確信していた。

 〈ほし〉の境地。

 〈星〉をたものだけが辿り着ける領域に、真と統魔のふたりはいる。

 真は紅蓮と燃える炎の剣を、統魔は、黄金色に輝く光の刃を、それぞれ手にしている。威力だけでみれば、断然、天叢雲剣のほうが上だろう。

 なんといっても、統魔のそれは、彼が身に纏う星装に付属している機能のようなものだ。

 天叢雲剣は、直剣の形をした星装であり、余計な機能は一切なかった。

 攻撃能力に特化している。

 故に――。

「だが、時間が足りなかったな」

「時間さえあればどうにでもなった、とでも?」

「……そうはいわないさ」

 統魔は、真が飛び退すさろうとするのをとがめるように肉迫にくはくし、光の刃を叩きつけた。真は、天叢雲剣で受け止め、舌打ちする。さらに連撃をさばくのだが、これでは紅蓮の斬撃が四方八方に飛散していくだけだ。

 防戦一方となれば、天叢雲剣の破壊力を発揮できない。

 統魔は、それを理解しているからこその猛攻もうこうを仕掛けてきているのではないか。

(違うな)

 真の中の冷静な部分が、一瞬過った可能性を否定する。

 圧倒的優位に立っているのは、統魔なのだ。統魔こそがこの戦いを支配している。なんといっても複数体の星霊せいれいが彼の周囲に存在していて、いつでも戦闘に参加することができる状態だった。

 数の上でも、力の上でも、不利。

「時間があったなら、おれももっと上手く使えるようになってただろうからな」

「十分だろうに」

「どこがだよ」

 統魔は、怒濤どとうの猛攻の最後に強烈な蹴りを叩き込んで真を吹き飛ばすと、そこに光の雨を降らせた。火球を叩き込み、雷撃を落とす。爆煙が視界を飲み込んだ。

「あんたひとり殺しきれないのに、十分なわけがないだろ」

「それは、おれを見くびりすぎじゃないか?」

「まあ、そうだな」

 瞬間、爆煙を真横に薙ぎ払ったのは紅蓮の斬撃であり、統魔は、危うく真っ二つに切り裂かれるところだったが、事なきを得た。両断されたのは、ヘスティアと名付けた星霊。

 そして、統魔は、ヘスティアがいた座標に転移しており、真を見下ろしていた。真が剣を振り抜いた状態でこちらを仰ぎ見る。

 天叢雲剣の欠点。

「草薙真、認めるよ」

 統魔は、真に殺到さっとうし、その胸を手にした光刃で貫いた。

「あんたの才能は、おれより上だ」

「覚えておくといい。行き過ぎた謙遜けんそんは、ただの嫌味だとな――」

 真は、そういいながらも、なぜか爽やかな表情で統魔を見ていた。

 統魔は、真の幻想体が爆散し、消滅するのを見届けようとしたものの、それはかなわなかった。

 銃弾が統魔の背中を直撃したからだ。

「わざわざ追ってきたのかよ」

 統魔は、仕方なくそちらに向き直り、土煙を上げながら迫り来る小隊を確認した。

 真星小隊だ。


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