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第千七十九話 新星乱舞(三十五)

 皆代みなしろ小隊の控え室は、歓喜かんきに満ちていた。

 特に飛び跳ねるようにして喜びを表しているのは、ルナだ。

 彼女は、幻想空間から現実世界に帰還するなり寝台から跳ね起きたのだが、統魔とうまあざなが寄り添うようにして幻板げんばんを眺めていたものだから、すぐさま統魔に抱きつき、彼を驚かせた。

 さすがに帰還早々飛びかかってくるとは思ってもいなかったからだ。

 とはいえ、いつものことではある。

 統魔は、ルナが頬を膨らませているのを見て、彼女の頭をでた。

 それもまた、いつものように。

「大活躍だったな」

「でしょでしょ!」

 統魔にめられるとそれだけでルナは満足だったから、その瞬間に字への嫉妬心は消えて失せていた。そのまま統魔の膝の上に腰を下ろし、彼にしなだれかかる。

 そのころに香織かおりつるぎ枝連しれんの三人が寝台から起き上がってきている。三人は、ルナと統魔のいつも通りのやり取りを目の当たりにして、笑いあった。

 字が、そんな三人を迎える。

「お疲れ様です、皆さん」

「疲れてはないかもー」

「まあ、そうだね」

「うむ。この程度、造作ぞうさもない」

「いうじゃないか」

 統魔は、全体重ぜんたいじゅうを預けてくるルナのせいで倒れそうになるのをどうにか堪えながら、枝連を見た。この頃、日々の訓練のおかげもあってか、さらに体がいかつくなりつつある皆代小隊の要は、勝利の余韻よいんに浸っている暇などないといわんばかりの顔つきだった。

 香織は寝台の上で胡座あぐらをかき、剣は大きく伸びをしている。

 三者三様の反応に、統魔も安心する。

 いつも通りだ。

 彼らはなにも気負きおうことなく試合に出向き、勝利し、帰ってきた。そこに普段と異なる様子は一切ない。精神状態も極めて安定しており、故に、遺憾いかんなく全力を発揮できたに違いない。

「隊長がいないんだ。それで負けるようなことがあれば、なにをいわれるものかわかったものじゃないからな。全力で叩き潰しもするさ」

「まあ、叩き潰したのはルナっちだけど」

「そうだね」

「おれも、一人は倒したぞ」

「一人だけじゃーん」

「ぼくたちも一人ずつ、だね」

「ルナが一人で五人倒せば、そうならざるを得んだろう」

「そりゃそだけどね」

 香織は、苦笑を浮かべる枝連に同情し、それからルナに目を向けた。統魔に全力で甘えているルナの様子を見れば、彼女が先の試合で鬼神きしんの如く活躍したとは思えない。戦場と日常での落差の激しさは、彼女特有のものでもないのだが。

 星象現界せいしょうげんかい月女神ルナ・アルテミスを発動したルナは、まさに鬼に金棒、魔法士に法機ほうきといった有り様で、竜胆りんどう小隊、銀星ぎんせい小隊を圧倒、撃滅げきめつしてしまった。

 皆代小隊の勝利は、彼女一人によるものといっても過言ではない。

 香織たちがいなくとも勝利したに違いないのだ。

 それほどまでにルナの魔法技量は卓越たくえつし、隔絶かくぜつしている。

 ルナは、統魔の首に腕を巻き付け、頬ずりをしながら、いった。

「統魔の分まで頑張ったよ」

えらいよ、ルナは」

 統魔のその言葉は、心からのものだった。

 ルナは、彼女なりに自分の役割を理解し、常に全力をくしている。今回だってそうだ。隊長代理、つまり統魔の代わりに参加した以上、統魔に求められる戦績を残さなければならない。

 統魔も、それを理解した上で、ルナに任せたのだ。

 ルナならばできると踏んだ。

 そして実際、ルナはやって見せた。

 二小隊の挟撃きょうげきによる苦境を、彼女一人で打開、反撃によって撃滅せしめたのだ。

 それによって皆代小隊は予選を通過したわけであり、勝利の立役者である彼女を褒め讃えるのは当然のことではあるだろう。

 ルナは、統魔に褒められただけで大満足だから、なにもいうことはなかった。

「決勝戦は、統魔が出るんでしょ?」

「ああ」

「一人で?」

「なんでだよ」

「だって、一人でも圧勝できそうじゃない」

 ルナが当たり前のようにいってきたものだから、統魔は、なんと返すべきなのか、言葉を探さなければならなかった。

 それも事実だからだ。

 統魔が星象現界を使えば、決勝戦で当たる他の三小隊を容易たやすく制圧できてしまう。

 たとえ草薙真くさなぎまことが星象現界を使おうとも、式守しきもり小隊が得意の合性魔法ごうせいまほうを駆使しようとも、真星しんせい小隊が英雄的な活躍を見せようとも、統魔一人でどうにでもなってしまう。

「……まあ、そうだな」

 統魔は、否定するのを諦めて、ルナの発言を肯定した。

「圧勝してしまうな」

 それが事実である以上、認めるほかない。

 統魔は、今大会出場者の中で、自他共に認める最強の導士なのだから、謙遜けんそんするのは大間違いだ。


『新星乱舞予選全試合が終了し、決勝戦に進出する小隊が決定しました!』

 会場内に響き渡るのは、天空地明日花てんくうじあすかの凜とした声だ。その生命力に満ち溢れた声は、彼女がアイドル部隊の隊長に相応しいと感じさせるのに十分過ぎた。

『予選第一試合を激戦の末制したのは、第七軍団所属、真星小隊!』

『隊長の皆代導士は、戦闘部唯一の魔法不能者でありながら、魔法士にも引けを取らない活躍ぶりでしたね!』

 会場の超特大幻板には、予選第一試合の映像が流れており、そこでは幸多こうたたちの戦いぶりが映し出されていた。

「予選だけでも満足感が凄いんだが」

「うん、わかる」

「そうですね、本当に、そうです」

語彙力ごいりょくもなくなるよねー」

「うむ。まったくだ」

「見入っちゃうものねえ」

「皆代、頑張れ」

「おれたちの皆代」

「だれのだよ」

 天燎てんりょう高校の生徒たちが前のめりになっているのは、彼らが幸多の友人知人だからだということもあるのだろうが、観客席のだれもが彼らと同じような状況なのは、やはり、それだけ魅力的な試合ばかりだったということなのだろう。

 一二三ひふみ自身、全試合を食い入るように見ていたし、いつかこのような舞台に立ちたいと思ったりもした。もっとも、真星小隊の一員になるのだとすれば、新星乱舞に参加することはできなくなるが、それはそれで構わない。

 新星乱舞は、導士ならば誰もが憧れる大舞台だが、しかし、それが全てではない。

 むしろ、新星乱舞に出られない導士が大半なのだ。

 新星乱舞に出られなかったからといって、導士としての使命や役割を全うできないわけがない。

 一二三の導士への憧れは、日に日に高まっている。

 そんな中でこんな試合を見せられれば、一刻も早く真星小隊に合流したいと思うのは、無理からぬことだろう。

『第二試合、こちらもまた白熱の戦いでしたが、突破したのは草薙くさなぎ小隊です!』

『草薙導士の新魔法のお披露目に相応しい結果でしたね』 

『ちょっと火力高過ぎだったな』

『ちょっとかな?』

 流星少女隊が小芝居を交えつつも勝者に一言述べていく様子は、小気味良く、観客たちも歓声を上げる。

 草薙家の人々は、草薙真が紅蓮の剣を振り下ろす映像を目に焼き付けるようにして見ていたし、真人まさとなどは、またしても目頭が熱くなっていた。

『第三試合の勝者は、式守しきもり小隊!』

『式守小隊は、攻防補こうぼうほ、いずれもが高水準で纏まっていて、付け入る隙がほとんどなかったという印象がありましたね』

岩岡いわおか小隊の策も悪くなかったんだが、相手が悪かったな』

『組み合わせの妙、って奴ね』

 予選第三試合は、ほとんど最初から小隊同士の戦闘ということもあり、編集された映像も激戦ばかり、見所ばかりだった。

 そして、式守小隊が勝ち抜けたのが総合力の差だということがよくわかる映像だった。

『第四試合を圧倒的な勝利で飾ったのは、皆代小隊!』

『隊長不在の特別編成でしたが、なんの問題もなく勝ち抜きましたね』

『本荘導士も最強だからな。チートだよ、チート』

『こら、言い過ぎよ!』

『みんなが思ってることだけどねー』

『ちょっと!?』

 第四試合の編集映像は、やはり、皆代小隊の活躍に焦点が当てられていた。本荘ルナの大魔法こと星象現界・月女神の発動と、それに伴う一転攻勢は、何度見ても素晴らしいとしかいいようのないものだったし、奏恵かなえたち三姉妹は、手を握り合って、皆代小隊の予選通過を喜び合っていた。

 統魔が試合に出ないということによる不安などは、一切なかった。

 特に奏恵は、統魔がルナの実力を極めて高く評価しているということを知っていたから、勝利を信じて疑わなかったし、ルナが圧倒的大活躍をしたときには、あの人懐っこい少女も歴とした導士なのだと再確認したものだった。

 そして、皆代小隊が勝利すれば、ただただ素直に喜んだ。

 決勝戦は、三十分の休憩を挟んだ後、各小隊が万全の状態で行われるということが流星少女隊から告知されると、観客たちもまた、その間に水分補給やら済ませるべく、会場の外へと大移動を始めた。


 決勝戦の最中に席を外すなど、考えられることではない。 

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