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第千七十七話 新星乱舞(三十三)

「やはり、心配など一切必要なかったですね」

「そりゃあな」

 統魔とうまは、あざなの発言を受けて、小さく笑った。

 小隊控え室に浮かぶ幻板げんばんが、新星乱舞予選第四試合が急展開を迎えたところだと伝えてきている。

 竜胆りんどう小隊、銀星小ぎんせい隊が皆代みなしろ小隊を攻撃し、はからずも挟撃きょうげきの形になるというのは、統魔たちにとっては想定の範囲内の出来事だった。

 竜胆小隊にせよ、銀星小隊にせよ、皆代小隊と競い合う羽目になった以上、どうしたところで、奇策に出るしかない。

 小隊としての地力じりきが違うのだ。

 たとえ統魔が出場しないということがあらかじめわかっていたとしても、同じ戦術を取っただろう。いや、そもそも、試合開始直後、皆代小隊に統魔が不在だということを確認した上で、このような戦術を取っている。

 皆代小隊との圧倒的戦力差を理解しているからこそ、そうするしかなかった。

 結果、挟撃に持ち込めたのだ。そして、言葉を交わさずとも、共闘という形になった。そのまま一方的な展開に持ち込むことさえできれば、勝算はあった。

 だが、それは無理難題というものだ。

「ルナが、そんじょそこらの導士に負ける理屈がない」

白銀はくぎん導士も、竜胆りんどう導士も、並外れた魔法技量の持ち主ですが」

星象現界せいしょうげんかいは使えないからな。同じ土俵には立てない」

 統魔の断言には、字も異論はなかった。

 星象現界・月女神ルナ・アルテミスを発動したルナは、いままさに試合会場で最強の存在となったのだ。

 だれも彼女にかなわない。

 敵うはずがない。

 戦場全体が、激しく動揺していた。

 大量無比の魔素質量、星神力せいしんりょくの出現に、幻魔の大軍勢までもが騒ぎ始めていたのだ。

 それら全てが津波となって、皆代小隊へと押し寄せていく。


「星象現界……!」

 友美ともみは、絶叫するようにいって、その場を飛び離れた。残光ざんこうが視界を両断したが、激痛は左腕だけだ。無意識に顔面を庇った左腕が、ぱっくりと切断されたのである。断面からは、血飛沫の代わりに光の粒子が噴き出していた。

 切断したのは、ルナが投げつけてきた三日月だ。ルナの背後に浮かぶそれがただの飾りではないことは、周知の事実。武器にも防具にもなるそれは、月女神の主要武装なのだ。

 皆代小隊の戦闘記録は、多くの導士が目を通しているはずだ。ただ目を通しているだけではない。皆代小隊は、最先端を行く小隊なのだ。その戦闘力は、同世代に並ぶものはなく、故に学ぶべきことが多い。

 皆代小隊の記録から学ぶ内に、彼らの戦術やよく使う魔法についても、理解を深めた。

 当然、星象現界についても、だ。

 ルナの星象現界・月女神は、武装顕現型ぶそうけんげんがただ。身にまとう白銀の光の衣が、星装せいそうとも呼ばれる武器にして防具なのだ。普段は背後に浮かんでいるだけの三日月も、ブーメランのように投擲とうてきしたり、刀剣のように斬りつけたりと大活躍だ。

 それが幻魔相手に猛威もういを振るってくれるのであれば頼もしいことこの上ないのだが、自分に向かってくるとなると、厄介どころの話ではない。

(強すぎっ……!)

「友美さん!」

 出石黎利いずしれいりの補型魔法が、瞬時に友美の左腕を接合し、事なきを得るも、その瞬間には、ルナの三日月が黎利に向かっていた。友美が瞬時に飛び、三日月の側面を蹴りつけて軌道をらすと、黎利と朝子ともこの乗った法機ごと抱きかかえるようにして移動して見せた。

 朝子は、魔魂共鳴法ソウルハーモニクスを発動したがために意識を失っており、黎利に護ってもらわなければならないのだ。それは明確な弱点なのだが、その欠点を見てもあまりある力を発揮するのが、金田姉妹の魔魂共鳴法なのである。

 そして、金田姉妹が銀星小隊の火力を一手に担っている最大の要因なのだ。

 黎利と朝子の安全を確保した友美に安堵あんどしつつも、流星の目は、ルナに注がれていた。ルナは、星象現界の圧倒的な力を遺憾なく発揮しており、殺到する数多の魔法をことごとさばき、はじき、いなし、吹き飛ばしていた。そうすることによって、六甲枝連が防型魔法を立て直すまでの時間を稼ぎきって見せたのだ。

 もちろん、流星の魔法も、通用しなかった。

「相手は星象現界の使い手。どうかな? やれそうかな?」

「やれます、やりますよ!」

 流星の発破を受けて、友美は力強く断言した。同時に地を蹴り、ルナに飛びかかっている。

 ルナが友美を見た。友美の速度は、とてもではないが、人間業とは思えない。一瞬にしてルナとの間に横たわっていた距離をめ、視界を足が覆った。

「魔魂共鳴法って奴?」

「そうよっ!」

 友美の蹴撃しゅうげきは、しかし、ルナの人差し指に受け止められた。ただの打撃ではない。闇の魔力を帯びた強力無比な一撃であり、妖級幻魔すらも撃滅しうる力を秘めている――はずなのだが、ルナの表情に変化はない。

 ルナの空いた左手に三日月が戻って来るのを見て、友美が飛び退く。腹部に鋭い痛み。斬撃がはしっている。光の粒子が視界を染めた。直後、

伍百肆式改ごひゃくししきかい地雷画戟ちらいがげき!」

瞬光閃矢しゅんこうせんし!」

 椿章助つばきしょうすけの雷魔法と、菖蒲坂隆司あやめざかりゅうじの光魔法が同時にルナを襲った。地中から沸き上がる雷は、周囲一帯の地形を蹂躙じゅうりんしていくかのようであり、なにもかもをずたずたに引き裂いていく。その狭間を駆け抜けるのが光の矢となった隆司であり、ルナを攻撃しただけでなく、友美を安全圏まで吹き飛ばした。

「あいつっ!」

 友美は、隆司が猛烈な突風に打ち上げられ、さらに雷の矢に貫かれるのを目の当たりにした。幻想体が爆散する。

「なんてゆーかさー」

「ぼくたちの存在、忘れられてない?」

 香織と剣が不満げに告げながら、さらに攻型魔法を撃ち放つ。香織の放つ紫電の帯が竜胆小隊に襲いかかれば、剣の生み出した大竜巻が銀星小隊を巻き込んでいく。

「それでいいじゃない。目立ちたがりねえ!」

 ルナは、香織と剣の意気のあった連携に大笑いしながら、大地を踏みしめた。ただそれだけのことで、地中から噴き上がってくる雷光をき止めると、さらに降り注いできた流星雨に対応するべく、三日月を掲げる。三日月から光が拡散し、魔法盾を形成する。それは白銀流星の放つ流星雨を受け止めると、容易く無力化してしまった。

 流星がぎょっと身構えたのは、ルナがその魔法盾を放り投げたからだ。

 直後、流星へと殺到する三日月があらぬ方向へと弾け飛んでいったのは、友美が蹴りつけたからにほかならない。

「やっるー」

 ルナは、空中で体勢を整え、こちらを睨みつけてきた友美を素直に称賛した。

 この戦場で、ルナの戦闘速度に食らいついているのは、友美ただ一人だけだ。そしてそれは、友美自身も理解している。魔魂共鳴法・武身は、身体能力を限界以上に引き上げる合性魔法である。その分、魔法に関連する能力は大幅に低下するが、問題はない。

 少なくとも、魔法技量を捧げるだけの価値は、あった。

 なんといっても、ルナに食い下がることができているのだ。

 相手は、星象現界。

 並の魔法では、太刀打ちできる相手ではない。

 だからこそ、彼女は歯噛はがみする。食いしばり、力を限界まで引き出す。

 地を蹴り、飛び出せば、友美の立っていた場所が崩壊した。それだけの力、そして速度。一瞬にしてルナとの間合いを詰めると、女神が微笑んだ。

「鍛え上げれば、星象現界にも匹敵するかもね」

 ルナの笑顔は、他意もなければ無邪気きわまりないものであり、純真無垢じゅんしんむくとはこういうものなのではないか、と、友美は想った。そして、意識が暗澹たる闇に沈むのを認める。

「え?」

 声が、わずかに遅れて幻想空間に響く。

 友美の幻想体が崩壊したのは、その背後から襲いかかってきた巨腕によって、心臓を破壊されたからにほかならない。

 焔王破断拳えんおうはだんけん

「でも、わたしだけを見ても駄目だよ。小隊戦なんだから」

 ルナは、消えゆく友美の幻想体から視線を移し、枝連を一瞥いちべつした。防型魔法の維持に専念する必要のなくなった防手ぼうしゅは、攻撃にも参加するものだ。

 それが、小隊での戦闘だ。

 役割に応じた戦い方がり、それは状況に応じて無数に変化する。

 臨機応変に動かなければ、生き残れない。

 それが戦場というものであり、現実なのだ。

「最強の敵は倒したし、後は、順番にやっつけていきますか!」

 ルナの宣言は、そのまま、実行に移された。

 つまり、皆代小隊の圧倒的勝利によって、予選第四試合は幕を閉じたというわけである。

 まさに完勝としかいいようのない試合結果であり、試合終了後の会場では、観客たちも呆然とするほかないといった有り様だった。


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