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第千七十四話 新星乱舞(三十)

新星乱舞しんせいらんぶ予選第四試合、開始!』

 司会進行役の天空地明日花てんくうじあすかの声が会場全体に響き渡ったときには、戦場に三小隊合計十二名の導士どうしが出現していた。

 戦場は、やはりこれまでの試合で使われたものと全く異なる形状をしているのだが、一目ひとめ見て、山岳地帯の真っ只中という印象を受けた。峰を連ねる山々、その山頂さんちょう山麓さんろくの高低差が激しく、特に中心部にそびえ立つ山の高さは、数千メートルを超えているのだとしても不思議ではなさそうな、そんな感覚があった。

 その巨大な山に妖級幻魔が密集しており、獣級、霊級と幻魔の等級が低くなるほど、中心部から遠い位置に配置されているのは、いままでの試合と変わらない。そして、低級の幻魔ほど、数が多く、大量だということもだ。

 霊級幻魔などは、山々の間に横たわる渓谷を埋め尽くすほどの数であり、数千どころか数万、いや、もっと多くいるように思えた。

 仮に霊級を殲滅せんめつすることができるのであれば、それだけで勝敗を決定づけることができるだろう。が、しかし、それは不可能だ。

 なんといっても、霊級は広範囲に布陣しており、それらを一カ所に纏めたうえで倒し切るなどできるわけがなかった。

「まあ、そんなことを考える必要性はないかな」

 白銀流星はくぎんりゅうせいは、銀星ぎんせい小隊が転送された北東部の山頂から戦場全域を見渡しながら、告げた。転送地点周辺は、安全だ。幻魔の気配すら見当たらない。

 つまり、まず、前方に横たわる山々を乗り越えなければ、戦闘に入ることもままならないということだが、それは他の小隊も同じだろう。

「倒すべきは、だ」

 巡らせていた視線を一点で止める。

 立ち並ぶ山々の、そして中心に聳え立つ巨峰の向こう側を、見据みすえた。遠視えんし魔法によって、遥か彼方の様子も見通すことができる。

皆代みなしろ小隊、隊長不在みたいですね」

 出石黎利いずしれいりが戦場情報を確認しながら、流星や金田かねだ姉妹に伝える。

 常時更新され、だれでも確認することのできる戦場情報には、三小隊十二名の導士の名前が記載されている。それら参加者の現在の状態を確認するといったことはできないのだが、試合開始直後ならば関係ない。全員が生存し、戦場へと向かおうとしている最中なのだ。

められてる?」

「四人制限だからだと思うけど」

「でもさ、だとしても、隊長が出ないなんてありえなくないかな」

「それも……そうなんだけど……」

 朝子ともこ友美ともみは、皆代統魔(とうま)が不参加だという事実を受けて、複雑な気分になった。

 同世代最強の導士である統魔がいないことは、本来、喜ぶべきことだ。統魔にはどう足掻あがいても勝てないという認識があったし、それは確信に近いものだ。

 規格外きかくがい星象現界せいしょうげんかいの使い手ににして、煌光級こうこうきゅうの導士。

 新星乱舞に参加しているという事自体が間違っているのではないか、といわれるほどだ。

 しかし、新星乱舞が本部祭で行われる目玉企画の一つであり、その目的が若手導士のお披露目である以上、皆代小隊が参加しないほうが間違っているだろう。

 既に双界そうかい全土に雷名らいめいを轟かせる皆代小隊だが、彼らの活躍を見たいという市民の声は、大きいはずだ。

 だから、流星は、皆代小隊が今年の新星乱舞に出場すると聞いて、むしろ安堵あんどしたのだ。

 皆代統魔率いる皆代小隊と直接戦える機会など、そうあるものではない。

 軍団が違えば、訓練や手合わせを願うことも難しい。

 ならばこそ、と、流星は法機ほうきを呼び出す。

「彼らにとっての本番は、決勝戦なんだろう」

 法機に飛び乗った流星に倣い、黎利と金田姉妹もそれぞれ法機を取り出し、飛行魔法を発動させた。法機に登録した簡易魔法である。

「予選は、全力で行く必要はない、と?」

「全力は全力だろうとも」

 黎利の一言に、流星は、苦笑した。

 この予選、皆代小隊を率いるのは、本荘ほんじょうルナである。

 本荘ルナもまた、世代で飛び抜けた魔法技量の持ち主であることは、いうまでもない。

 相手にとって、不足はないのだ。


「山岳地帯かあ」

 菖蒲坂隆司あやめざかりゅうじが思わず嘆息たんそくをもらしたのは、眼前に広がる地形に対してだ。

 赤黒い山肌を見せつけるようにして峰を連ねる山々は、ここが魔界の真っ只中であると認識させるようだ。幻想空間上の戦場は、空白地帯を模していることが少なくない。

 いずれかの小隊が任務中に記録した戦場を元に構築された幻想空間。

「ここは……龍宮りゅうぐう東部、ムスペルヘイム南部辺りかな」

「元になった場所は、ですよね」

「さすがは隊長。記憶力!」

「そんな褒め方、初めて聞いたな」

 竜胆龍哉りんどうたつやは、肩をすくめつつも法機を取り出した。

 既に試合は始まっていて、戦場は動き始めている。特に山岳地帯北部が慌ただしい。北部には、皆代小隊の開始地点がある。

 つまり、皆代小隊は、試合開始早々に動き出し、霊級幻魔を相手に点数稼ぎを始めたということだが。

せないな」

「なにがっすか?」

 龍哉にならって法機を取り出した隆司は、すみやかに簡易魔法を唱え、飛行魔法を発動させた。空中に浮かび上がる法機に飛び乗り、制御する。

 桜井雅人さくらいまさと椿章助つばきしょうすけもそれぞれに法機に跨がっており、竜胆小隊は飛行隊形を取った。

「皆代小隊がさ」

「ああ、皆代統魔」

「隊長不在の小隊のもろさを知らないわけでもあるまいに」

「大会規定で人数制限がかかっている以上、仕方がないような……」

「だとしても、隊長を抜く必要があるのかって話だ。勝つ気あるのかよ」

「勝てるつもり、なんすよ。きっと」

 いいながら、なんだか無性むしょうに腹が立ってきて、隆司は法機を握り締める手に力を込めた。

 飛行隊形の先陣を切るのは、防手ぼうしゅであり隊長である龍哉だ。ついでのように防型魔法を発動、砂塵さじんの結界で小隊を包み込んだ龍哉の目は、遥か眼下の霊級幻魔の群れに注がれた。

 オニビやイナダマといった幽霊たちが亡者もうじゃの如き声を上げ、つぎつぎと攻撃魔法を撃ち放つ。

 無論、射程に捉えた竜胆小隊に向かって、だ。

「だろうな。だからさ」

 龍哉は、魔法壁に直撃し、爆散していった火の玉や雷撃に涼しい顔をした。霊級程度の攻撃では、彼の魔法壁はびくともしない。そして、

伍百伍式ごひゃくごしき天雷矛てんらいぼう!」

烈光弾れっこうだん!」

 竜胆小隊の攻手こうしゅ、章助と隆司が霊級の群れに攻型魔法をぶっ放せば、十数体が消滅し、得点が加算された。 しかし、そんなものは、どうでもいい。

 龍哉の目は、北方に向けられている。


「こんなの、なんてことはないわよね!」

 ルナの声は、いつになく力強く、いつも以上によく響き、よく聞こえた。

 皆代小隊は、六人編制の小隊である。

 しかし、新星乱舞の大会規定によって予選にせよ決勝にせよ、四人までしか試合に出られないため、特別な編成を行っている。

 それがこの補手ほしゅ・本荘ルナ、攻手・新野辺香織しのべかおり高御座剣たかみくらつるぎ、防手・六甲枝連ろっこうしれんという四人編制である。

 そして、ルナがいつになく声を上げているのは、彼女が隊長代理に任命されたからだ。

 それも統魔直々に、だ。

 となれば、ルナは、己が役割を全うしなければならないと奮起ふんきするだろう、と、統魔は見ていたし、実際、彼女のやる気はいつも以上だった。

 開始地点に転送された直後、彼女は、山岳地帯の戦場を見渡し、地形や幻魔の配置を把握すると、予定通りに戦場に向かうことにした。

「まあ、霊級だからね」

「雑魚も雑魚っしょ!」

 剣と香織が当然のようにオニビやニンフといった霊級幻魔を薙ぎ払い、大量得点を獲得していく。いつものように、平然と。

 そんな様子を見守りながら、ときに攻撃に参加するのが枝連だ。

「調子に乗るなよ。過去、霊級に殺された導士は数えきれん」

「それ、何度も聞いたな」

「何度でもいうぞ。耳にたこができてもな」

「うへえ」

 香織が軽口を叩きつつも、霊級程度では相手にならないといわんばかりに攻型魔法を発動すれば、雷撃の雨が数十体の幻魔を消滅させる。

 剣の巻き起こした暴風は、山肌を掘削しつつ幻魔の群れを消し飛ばした。

 ルナは、他小隊の得点数を確認し、法機に乗った。

「つぎ、行くわよ!」


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