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第千七十一話 新星乱舞(二十七)

「このに及んで自爆技かよ」

 加納陸かのうりくが吐き捨てたのは、視界に飛び込んできた光の冷ややかさが気に食わなかったからだ。

 天井照明てんじょうしょうめい冷淡れいたんすぎるほどに青白い光は、一気に燃え上がった精神状態を急激に冷やしていく。それは本来喜ばしいことだったし、怒り心頭のままで居続けるよりは余程いいのだが。

「くそがっ」

 加納は、拳を寝台に叩きつけ、その勢いで上体を起こした。室内を見回せば、最新型の幻創機げんそうきと残り三つの寝台に三人の部下の姿がある。その三人のうち、垂水空也たるみくうやが真っ先に目を覚ましていた。

 垂水は、心底無念そうな顔でこちらを見ている。

「隊長、すんません」

「おまえは悪くねえよ。悪いのは、勇治ゆうじの野郎だ。あいつがなんもかんも悪い」

「隊長……」

 加納の脳裏のうりに焼き付いているのは、岩岡いわおか小隊との激戦の最中に起きた大爆発だ。

 それは突如、予想だにしない状況下で起きた。

 加納小隊と岩岡小隊の戦闘は、時間の経過とともに激しさを増していった。一進一退の攻防。拮抗きっこうした戦力が故に、互いに全力を尽くしても、膠着こうちゃく状態から動かすことができない。

 このままでは時間ばかりが過ぎていく上、式守しきもり小隊が得点を重ねていくものだから、それも無視できなくなりつつあった。

 といって、式守小隊が参戦してくるのも考え物だ。どもえの大混戦になるのも厄介だったし、こちらの味方になってくれるのであればともかく、岩岡小隊と一緒になって攻撃してきた場合が最悪だ。

 だから、式守小隊は放置するしかなかったが、その結果、点数稼ぎに入られれば、取り返しようのない差がつく可能性も考えられた。

 そうなれば、さっさと岩岡小隊を撃破し、ついでに式守小隊を撃滅する以外に勝利の道はない。

 式守小隊も、消耗しょうもうした加納小隊を目にすれば、攻撃してくるに違いない、と、加納は踏んでいた。

 だが、加納の目論見もくろみは、外れた。

 岩岡小隊が、小隊そのものが大打撃を受けるほどの自爆めいた魔法を発動させたのである。

 その結果、加納と垂水が落とされた。

 残っているのは、磯部海司いそべかいじと多聞天《たもん てん7》だ。

 幻板げんばんを見れば、磯部が水の防壁で岩岡と鳴子奈留なるこなるの攻撃から身を守っている様子が映し出されていた。

 

 岩岡小隊のそれは、自滅に近いのではないか、と、春花はるかは思った。

 事実、岩岡小隊は、加納小隊に大打撃を与えることにこそ成功したものの、自小隊も損害を被っており、痛み分けで終わっているのだ。

 しかも、岩岡小隊で生き残ったのは攻手こうしゅ二名であり、対する加納小隊は、防手ぼうしゅと攻手が一名ずつ、生存している。

 自爆技の結果としては、良いものとは言い切れない。

「あの爆発、すごかったー!」

 冬芽ふゆめ感嘆かんたんの声を上げたのも納得の行くほどの爆発範囲だったし、破壊力だった。なんといっても、大多数の幻魔を消し飛ばしたのだ。

「あれだけで五千点近くを獲得か。獣級霊級を何体撃破したんだ?」

「数百体?」

「そう考えると、わりに合わないわね」

 式守小隊は、といえば、春花の機転によって、難を逃れた。

 春花は、岩岡勇治の律像りつぞうが鳴子奈留の律像と融合する瞬間を見逃さなかったのだ。だから、反応できた。補手ほしゅとしての役割を果たし、全員を超高空へと避難させることに成功したのである。

 そして、超爆発を目の当たりにした。

 何百体もの霊級、獣級幻魔が一瞬にして吹き飛ばされ、両方の小隊にとてつもない損害が出る様を見た。

 式守小隊だけが、無傷だ。

 加納小隊で生き残った磯部海司と多聞天は、満身創痍まんしんそういといった有り様であり、その姿を見れば、合性魔法ごうせいまほうの破壊力の凄まじさが理解できるというものだろう。

 加納小隊を護っていた分厚い魔法壁を突破し、痛撃を叩き込んだのだ。

 岩岡小隊の、自小隊の隊員をも巻き添えにし、犠牲とするほどの自爆技だ。それくらいの威力が保証されていなければ、使う理屈もない。

 そして。

「また?」

 夏樹《》なつきが疑問の声を上げたのは、岩岡と鳴子の律像が複雑に組み上がっていく光景を見たからだ。もちろん、それを見逃す岩岡小隊ではない。

 多聞が、光の刃を乱射して加納と鳴子を攻撃するが、二人は、簡易魔法の盾で受け止めて見せている。律像が急速に組み上がっていく中、多聞の魔法も激化する。

 磯部がより高密度、高強度の魔法壁を構築していくが、それで防ぎきれるものか、どうか。

「なるほど」

「なに? 春ちゃん」

「わかったわ、岩岡くんの狙い」

「自爆技での得点稼ぎ以外になにがあるのさ?」

「ついでにいえば、それで加納小隊やおれたちを全滅させたかったんだろうけど」

 秋葉あきはと夏樹の推察も、正しい。

 あの大爆発は、春花たちの隙を突くためのものだったのも、確かだ。実際、春花の反応がわずかでも遅れていれば巻き込まれ、甚大な被害を受けていただろう。

 そして、その場合も、二度目の合性魔法で止めを刺そうとしたはずだ。

 だが、そうはならなかった。

 式守小隊が誰一人欠けることなく生き残っているのは、岩岡勇治にとって大誤算だったはずだ。だから、賭けにでなければならなくなった。

 目の前の敵と、全周囲から迫り来る敵を撃滅し、さらに時間一杯まで生き残らなければ、勝ち目がないのだ。

「見なさい。妖級幻魔が、さっきの爆発に気を取られ、こちらに向かってきているわ」

「それが岩岡さんの狙いだと?」

「あの爆発の威力なら、妖級だって撃破できるもの。それで何体も巻き込めば、五桁得点も狙えるでしょうね」

「それで、首位を確定させた後は逃げ回る、と」

「そゆこと」

「なーるほど!」

「よーくわかった!」

 春花が静かに肯定こうていすれば、冬芽と秋葉も大きく頷いた。冬芽が防型魔法を編み上げる中、夏樹と秋葉が攻型魔法を構築していく。

 春花もだ。

 複雑にして精緻せいちな律像が、式守小隊を包み込んでいった。

 眼下、多聞の攻撃は熾烈しれつを極めるものであり、さすがに岩岡と鳴子も合性魔法を完成させられずにいた。合性魔法は、複数人の律像を完璧に同調させる必要がある。

 双極属性の反発による暴走が狙いだとはいえ、想定通りの結果を生み出すためには、完璧な律像を構築しなければなるまい。

 多聞の攻型魔法の苛烈さは、それを妨害するのに大いに力を発揮していた。簡易魔法とはいえ、多聞の攻撃から身を守るためには相応に意識を割く必要があり、その事実が律像の融合をより困難なものにしているのだ。

 そこが、式守小隊が付け入る隙となった。

天津風あまつかぜ降臨こうりん!」

 逆巻く暴風が式守小隊を包み込んだかと思うと、四人全員を地上へと運び込む。加納小隊と岩岡小隊が睨み合う激戦区、その真っ只中へ。磯部と多聞、岩岡と鳴子の目が見開かれた。四人の目には、暴風に舞い上げられる砂埃の狭間に、膨大な律像がきらめく様が映っていた。

 夏樹は岩岡小隊に、秋葉は加納小隊に向かって両腕を掲げ、告げる。

紅蓮滅照ぐれんめっしょう!」

雷皇双螺旋らいおうそうらせん!」

 夏樹の手の先に生じたのは、一条の光線。紅蓮と燃える熱光線は、一瞬にして岩岡勇治に突き刺さり、同時に大爆発を起こした。凄まじい熱量の爆発は、至近距離にいた鳴子奈留を巻き込み、蹂躙じゅうりんし、さらに膨れ上がり続けていく。

 一方、秋葉の両手から放たれたのは、二重螺旋を描く青白い雷光の奔流ほんりゅうであり、水の魔法壁を突き破り、その勢いで多聞天と磯部海司に直撃、渦を巻いて全身を灼き尽くした。

 夏樹と秋葉、式守小隊の攻手二名が最大最高威力の攻型魔法が、見事に炸裂したのである。

 そしてそれは、四人が四人、消耗し尽くしていたからこその結果であり、全員が万全であれば起こりえなかった事態だった。

 新星乱舞予選第三試合は、こうして幕を閉じた。


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