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第千五十九話 新星乱舞(十五)

『第二試合、序盤の展開はいかがでしょう、解説の戦闘部長!』

『現状、草薙くさなぎ小隊の圧倒的優勢だということは、だれの目にも明らかですね』

『はい! まったくもって仰るとおりで!』

『草薙小隊率いる草薙導士は、擬似召喚魔法の使い手としても名をせています。擬似召喚魔法といえば、高等魔法の一種ですし、だれもが易々《やすやす》と使えるものではありません。それをああも簡単に行使できるのは、草薙導士の魔法技量があればこそ。そして、その魔法技量がこの状況を作り出しているのです』

「確かに擬似召喚魔法は高等技術だが……」

「そうですよ、父上。高等技術である疑似召喚魔法をああも使いこなす兄さんは、本当に凄い魔法士なんですよ!」

 真人まさとのどうにも腑に落ちないという反応に対し、みのるは、ただただ力説した。

 いま、戦場は、実たちの目の前に展開している。

 会場にいる観客の全員が、戦場の臨場感を全身で感じ取れるのは、神経接続技術のせることだ。観客席に座っているだけで、五感が、意識が、幻想空間上に展開する戦場へと連れて行かれるのだ。

 とんでもない技術だが、これもいずれはありふれたものとなるのだろう。

 現代技術の最先端は戦団にあり、戦団が実用化した後、社会全体に普及していくという流れがあるからだ。

 それは、ともかく。

 実は、ついに始まった草薙小隊の試合を全力で応援しようとしていたし、興奮してもいた。たかぶるあまり席を立ってしまって神経接続が途切れたときには、すぐさま座り直したが。

 戦闘部長、副部長による実況と解説を聞きながらの観戦は、豪華にもほどがあるとしか言い様がないが、その中で真の魔法士としての腕前が褒められると、それだけで嬉しくなる。

 実際、真の魔法技量が飛び抜けているのは、だれの目にも明白だった。

 真の発動した擬似召喚魔法・七支宝刀しちしほうとうは、熱光線を雨霰あめあられと降らせ、幻魔の大群を撃ち抜き、殲滅せんめつしていくのだ。

 草薙小隊の得点が加速度的に増加しているのは、間違いなく七支宝刀の火力と、その殲滅力の高さ故だ。

 ひたすらに圧倒している。

 霊級は無論、獣級程度、真の相手ではないといわんばかりだ。

「兄さんは、学生時代から凄かったんです。本当に、本当に素晴らしくて、最高の魔法士だったな」

「ふむ……」

 真人は、実がなぜそこまで真に心酔しているのかまではわからなかったが、しかしながら、真の魔法技量の高さについては疑うまでもないことだ。

 草薙家の次期当主として育て上げた逸材である。

 草薙家が魔法至上主義の家系である以上、真に実力がなければ、次期当主とされることはなかったのだ。

 魔法至上主義者において優先するべきは、生まれた順番よりも、魔法技量だ。

 そして、真と実のどちらの魔法技量が優れているかについては、散々に議論され尽くし、結論が出ている。

 真だ。

 だから、真は、真人の後継者に選ばれ、草薙家の跡取りとしての薫陶を受けることとなった。その結果、真が懊悩と絶望の末に自暴自棄じぼうじきになっていたことなど、真人には知る由もなかったのだが。

 真人は、草薙家の当主として当たり前のことをしてきただけだ。そのことで真に忌み嫌われようとも、草薙の血統をより優れたものとして残していくことが当主の命題なのだから、なんの問題もない。

 しかし、真が本当に導士になることを望み、戦団が欲するほどの能力があるというのであれば、話は別だ。

 戦団の導士となり、人類復興がために死力を尽くすというのであれば、止めることはできない。

 そして、あのときの自分の判断は間違いではなかった、と、真人は想うのだ。

 炎の七支刀しちしとうとから放たれる無数の熱光線が、幻魔の魔晶体を破壊し、つぎの一撃で魔晶核ましょうかくを貫通、爆散させていく様を見れば、いかに真が導士としての能力に満ちあふれているか、わかろうというものだろう。

 幻魔たちが断末魔だんまつの声を上げ、滅ぼされていく様は、地獄絵図といっても過言ではない。

 真人は、いかに自分の視野が狭窄きょうさくしていたのかをいまさらのように思い知っている。どれだけ我が子のことを見てやれていなかったのか。どれだけ、草薙家のことしか考えて来なかったのか。

 無論、優秀な魔法士の血筋を護るため、家を一番に考えるのは、ありふれた一般論に過ぎない。

 このような問題を抱えるのは、なにも草薙家だけではないのだ。

 だが、それでも、もう少し、真に目を向けてやるべきだったのではないか。

 導士としてその力を存分に発揮する真の姿を目の当たりにすれば、そう思わざるを得ない。

 そして、目頭めがしらが熱くもなる。

 真は、いま、勇躍ゆうやくしている。


「草薙真お得意の擬似召喚魔法って奴かあ!?」

 レオンは、遠方から響き渡ってきた物凄ものすさまじい爆音の連続に度肝どぎもを抜かれる気分だった。

 草薙真と宇佐崎うさざきレオンの階級は同じ、輝光級。

 導士としての差はない。

(いや……)

 レオンは、胸中、かぶりを振らざるを得ない。

 階級は同じだが、年齢は、違う。

 レオンは、今年二十歳の導士三年目だが、真は十八歳で導士一年目の超新人だ。たった半年、いや数ヶ月足らずで輝光級三位にまで駆け上がったのが草薙真であり、レオンがこの階級に到達するまでにかかった年数を考えれば、差は歴然としている。

「はっ」

 乾いた笑いを浮かべながら律像りつぞう構築こうちくする。意識を集中し、思考を純化じゅんかさせれば、想像はさらに精緻せいちにして綿密めんみつなものとなる。

 四方八方から押し寄せる霊級を相手にしている場合ではないし、実際、宇佐崎小隊も既に獣級への攻撃を始めている。

 草薙小隊が加速度的に得点を重ねている現状、手をこまねいている場合ではないのだ。

「打って出るしかない感じね……!」

「でも、どうすれば……」

 鷹匠璃々《たかじょうりり》が歯噛みすれば、玉手光那たまてみなが困り果てた顔をした。

 当然だ。

 なんといっても、草薙小隊の点数の増え方が尋常ではないのだ。

 圧倒的火力でもって幻魔の群れを蹂躙じゅうりんし続ける擬似召喚魔法たるや、並大抵の方法では追い着くこともままならないのではないか。

「隊長を信じよう」

 菅生秀二すごうしゅうじは、静かに告げると、その言葉を真言しんごんとした。圧縮した風気ふうきの塊を投射し、フェンリルの胴体を粉砕、絶命させる。

 璃々も、菅生に続いた。猛烈な突風でもってケットシーの群れを吹き飛ばし、死骸をばらまいていく。

 そのころになって、ようやくレオンの律像は完成した。その周囲に浮かぶ紋様は、複雑怪奇にして超高密度だ。

「おうよ、おれを信用しろ。おれがおまえらを勝たせてやる」

 レオンは、力強く宣言すると、頭上に手をかざした。真言を発する。

雪山王ロード・フロスト

 レオンの魔法が発動した瞬間、宇佐崎小隊を取り囲んでいた氷の結界そのものがさらに超高密度に凝縮したかと思うと、それそのものが地上から浮き上がった。いや、違う。氷の城の底部に二本の巨大な足が生え、立ち上がったのだ。

「相変わらず、なんというか」

 璃々が氷の城そのものが急速に変形し、氷の巨人と化していく様子を内側から見守りながら、なんともいえない顔になった。

「美的センス・ゼロ?」

「だれもそこまでいってない!」

「でもいいたそうな顔だったよ?」

「してない!」

 光那の意見に全力で反論しながら、璃々は、氷の巨人がついには二本の腕を手に入れ、天守に頭部までも具現させるのを見た。その顔面は、どうにも愛らしく、無骨な胴体とはおもむきが違っている。

 そして、雪山王が動き出すと、ただの一歩で大地が震撼しんかんし、足元に冷気の爆発が起きた。それは霊級幻魔を凍結させ、粉砕したのは無論のこと、つぎつぎと殺到する獣級幻魔をものともせずに踏み潰していく。

 一歩、また一歩と歩くだけで大量の幻魔が倒れていくのだ。

「おれも隊長だからな。草薙真。おまえだけに良い格好はさせられないぜ」

 雪山王の制御に全身全霊の力を込めながら、レオンは、告げた。

 戦場に現れた氷の巨人は、それだけで威圧的であり、破壊的だ。


「あれは、レオンの切り札だな」

 青山蓮あおやまれんは、大地を踏みならすようにして幻魔の群れを蹴散らしていく氷の巨人を見遣りながら、つぶやいた。

「どうします? このままじゃ、草薙と宇佐崎に追いつける気がしませんけど」

「追いつく?」

 蓮は、緑山涼みどりやまりょうの顔を見て、その弱気に目を細めた。

 草薙小隊がいまも圧倒的な速度で得点を稼ぎ続ける一方、宇佐崎小隊もまた、氷の巨人を生み出したことで猛追し始めている。

 戦況だけを見れば、フルカラーズが後れを取っているのは間違いない。

 だが。

「追い抜くんだよ」

 蓮が断言すると、緑山は目を丸くした。ここまで強気な蓮を見たのは初めてかも知れなかった。

 蓮は、穏やかな人物だ。いつだって優しく、部下とも対等な関係であろうとしている。対等。そう、対等なのだ。隊長と隊員ではなく、志を同じくするものとして見ているのだ。

 そして、蓮は、故にこそ、状況の打開を自分一人で背負おうとはしない。全員で、一丸とならなければ、この苦境を脱することなど不可能だ。

「妖級を倒しまくる!」

 蓮が発破をかければ、緑山が怖じ気づいている暇はない。

 霊級の津波を飛び越え、獣級の大集団をも乗り越えて、妖級幻魔の群れを視界に収める。

 紅蓮の巨人イフリートがこちらを見た。ヴィーヴルたちがその周囲を飛び回り、凶悪無比なまでの火気かきが渦を巻いた。


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