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第千五十六話 新星乱舞(十二)

新星乱舞しんせいらんぶ予選第一試合は、真星しんせい小隊の勝利です!』

 天空地明日花てんくうじあすかの凛とした声が響き渡れば、会場中に拍手と歓声が満ち溢れた。

 圭悟けいごたちもそんな観客の一員であり、友人同士で抱き合って喜びを分かち合った。

 幸多こうた率いる真星小隊が勝利したのだ。これで興奮しないならば、親友どころか友人ですらなければ、知人ですらないだろう。

 が、それ以上に、だ。

『しかも、その総得点は、なんと、一万千五百五十五点っ! 新星乱舞史上最多となる点数です!』

霊級れいきゅう、獣級の撃破で二千点以上稼いだ上に妖級をあれだけ倒したんだからな。ったく、とんでもねえぜ』

『さすがは皆代みなしろ幸多導士率いる真星小隊といったところですかね? そこんとこ、どう思います、隊長?』

『それはどういう意図の質問なのかな、ばめこ』

『ご覧の皆さんの要望にお答えしたまででして……』

 流星少女隊りゅうせいしょうじょたいが会場を盛り上げるべく一計を案じ、実際に大盛りあがりに盛り上がる中、圭悟たちはといえば、先程の戦闘の余韻よいんに浸っていた。

 幻想空間に直接飛び込んだかのような感覚があり、実際に目の前で激闘が繰り広げられる光景を目の当たりにしたのだ。細胞さいぼうという細胞が震え、燃え立つような感覚があった。

 血湧ちわ肉躍にくおどるとは、まさにこのことではないか。

 全て、幻想空間上の出来事であり、あふれかえる幻魔も作り物に過ぎないのだが、臨場感と迫力の凄まじさは、戦慄せんりつさえ感じさせるほどのものだった。

 そんな中で、幸多たち真星小隊は、白馬隊はくばたいやラッキークローバー以上に幻魔を打ちのめしたのであり、その戦いぶりたるや、圭悟たちがどこかで感じていた恐怖をも吹き飛ばした。

「すごかったね……」

 真弥まや語彙力ごいりょくを失うほどの衝撃を受けるのも無理のない話だったし、そんな真弥の手を握り締める紗江子さえこの反応も当然のものだ。

「はい……本当に……!」

「これが新星乱舞……!」

「会場に来たのは正解だったな」

「家で見てたらこんな臨場感は味わえなかったでしょうねえ」

「あれが皆代なんだな……」

「いや、まあ、知ってただろ」

「知ってたけどよ……」

 天燎てんりょう高校の学生たちが口々に感想を述べる様子を見つめ、それから舞台上に目を向ける。

 一二三ひふみの目には、絢爛けんらんたる光に満ちた舞台が、ひたすらにまぶしく思えた。

 舞台上では、流星少女隊が予選第二試合の準備が整うまでの時間稼ぎをしており、巷で噂の皆代幸多と天空地明日花の関係について追求しているところだった。

 明日花が幸多と二人きりでいるところが何度か目撃されており、そのことが世間では話題になっているのだという。

 導士は、ヒーローであり、アイドルだ。

 そして、明日花率いる流星少女隊は、導士の中でもアイドル部隊として結成され、アイドル的要素を前面に押し出している。であれば、恋愛関係に関する噂話が興味を引くのも当たり前のことであり、その噂の相手が皆代幸多だということならば、話題性も抜群だろう。

 一二三には、どうでもいいことなのだが。 

「新星乱舞。会場で見るのは、格別だろう」

「そうですね。昨年まではネットに流れてるのを眺めてただけですから」

 レイライン・ネットワークをさ迷う幽霊に過ぎなかった少し前までの一二三にとって、会場に充ち満ちている熱気と興奮を肌で感じ取れることだけでも感動していた。

 これまでも、他人の声を聞くことはできた。だが、それはただの情報としての声であり、このような熱量を帯びたものではなかったし、圧力のようなものを感じることもなかった。

 だれもが懸命けんめいに応援し、声を張り上げていた。

 その熱情の渦の中心で、幸多たちが幻魔の大軍勢を相手に大立ち回りを演じ、ついには予選を通過したのだから、喜びもひとしおだった。

「きみも、将来は彼らと並び立ちたいんだろう?」

「はい。幸多にはいってありますけど……叶うかどうかは」

「叶うさ。きみは、もう夢を現実のものにしているじゃないか」

「夢を……現実に」

 一二三は、義流ぎりゅうの言葉を噛みしめるようにつぶやいた。

 夢。

 そう、いままさに感じているこの状況こそが夢だった。

 巨大な水槽に浮かぶ孤独な脳みそが夢想した世界は、確かに現実のものとなった。

 肉体を得て、他者に認識される――ただそれだけのことが、一二三にとっては永遠に叶わない夢だったのだ。

 それが叶ったのであれば、真星小隊の一員になる夢だって叶うはずだ。

 もちろん、そのためには幸多たちの足手纏あしでまといにならないように魔法士としての実力を身につけなければならないし、一朝一夕いっちょういっせきには行かないだろうが。

 そんなものは、慣れている。

 一二三は、肉体を得るという夢が叶うまで、十数年も待ったのだ。

 これから何年かかろうとも、なんの問題もない。

 焦りは、なかった。


「さっすがは幸多ちゃんね!」

 珠恵たまえが鼻息も荒く立ち上がるのを見て、奏恵かなえ望実のぞみは慌てて彼女の手を引っ張り、引きずり下ろすようにして着席させた。珠恵は二人の姉をぎろりと睨んだ。

「なによ-!」

「嬉しいのはわかるけど、ほかのひとの迷惑にだけはならないで欲しいわ」

「珠恵ってば、そこだけが欠点なのよね」

「そこだけ?」

「え、うーん……」

「悩むところ!? そこ!?」

「そういう反応のやかましさも、欠点かも」

「酷い!」

 姉たちの暴言ぼうげんの数々に愕然がくぜんとした珠恵ではあったが、舞台上に燦然さんぜんと輝く真星小隊予選突破の文字を見れば、落ち込むどころか盛り上がるのだった。

 真星小隊の総得点は一万一千五百五十五点。

 そのうち、幸多の得点は三千三十五点だ。獣級と霊級だけで稼いだ点数ではない。幸多は、一体、妖級を撃破している。つまり、大半は霊級、獣級の撃破点だが、十分すぎる戦果というべきだ。

 幸多だけで他小隊の総得点の半分以上を稼いでいるのだ。

 そこに隊員たちの活躍が組み合わされば、予選突破も当然の結果なのかもしれない。

 珠恵の目頭が熱くなって、視界がにじみ始めたのは、幸多の身の上を思ったからだ。

「本当に……ほんっとーに、幸多くん、頑張ってるわよね……!」

 だれよりも一番頑張ってる、などと口が裂けてもいえることではないのだが、しかし、そう思ってしまうのは、親心というものだろう。

 最愛の甥っ子だからこそ、贔屓目ひいきめに見てしまう。

「ええ、本当に。ねえ、奏恵」

「うん」

 珠恵や望実の幸多への深い愛情を感じ取るからこそ、奏恵は、言葉少なに頷くのだ。

 その目は、舞台上の幻板に注がれていて、勝利を確信して拳を振り上げた瞬間の幸多の姿を捉えていた。

 幸多がここに来るまでどれほどの苦悩の連続だったのか、奏恵以上に知っているものはいまい。

 完全無能者の幸多が、魔法士たちと対等以上に戦い、勝利を掴み取る。

 それはまさに奇跡なのではないか。

 

 皆代幸多という人物についてわかっていることはそれなりにあるのだが、一番は、そう。

「彼が、まことの親友というのは本当なのかね?」

 腕組みしたまま予選第一回戦を見届けた真人まさとの表情に、大きな変化はない。

 みのるはといえば、兄・真の親友であり、新時代の若き英雄とも呼ばれる皆代幸多、そして彼率いる真星小隊の大活躍に興奮さえしていたのだが。

「は、はい。兄さんがよく話してくれるので、間違いないはずです」

 実には、その事実がなによりも嬉しいのだが、父は、どう感じるのだろうか。

 草薙くさなぎ真人は、草薙家の当主である。代々優秀な魔法士を輩出してきた血筋であり、名門でもある草薙家は、魔法士にこそ価値を見出してきた一族だ。

 対して皆代幸多は、魔法不能者である。

 魔法士至上主義的な価値観の持ち主である真人にとって、幸多の存在は、不愉快極まりないのではないか。

 だが、実には、幸多の存在は輝かしかったし、眩しかった。

 幸多が真を打ち負かしたからこそ、いまがあるのだと思っている。

 魔法至上主義は、なにも真人だけの価値観ではない。草薙家全体が背負ったごうのようなものであり、故に、真にも実にも多分に受け継がれていた。

 そんな真が、魔法不能者の幸多に敗れたのだ。

 真から傲慢ごうまんさが掻き消えたのは、やはり、彼に負けたことに原因があるとしか思えなかった。

 真が幸多の話をするとき、いつも穏やかで、とてつもなく優しい表情になるということを知っているのは、実だけではあるまいが、実は、特にその事実を理解していた。

 だから、そう、実は、幸多を全力で応援していたのだ。


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