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第千二十二話 仲間と(六)

「三本、増えてるな」

 統魔とうまは、光輪から伸びた光条こうじょうの数をもう一度数えると、ルナに目を向けた。彼女は、なぜか誇らしげな表情でこちらを見ている。

 よく見ているでしょ、と、いわんばかりだ。

「ということは、全部で十五本か。前までは十二本だったな?」

「ああ」

星装せいそう意匠いしょうが変わったことといい、光輪に生じた変化といい、なんなんだ?」

「それを知りたいのは、おれのほうだよ」

「それもそうだな」

 枝連しれんは、統魔の苦笑を見つめながら、彼の身に起きているなにがしかの変化の意味について、想像を巡らせる。

 統魔は、規格外の存在だ。

 魔法士としての素質が魔法史上最高にして最良と謳われるだけの魔法技量を見せつけるだけでなく、三種統合型とも呼ばれる前代未聞の星象現界せいしょうげんかいを発現し、自在に制御して見せている。

 それら事実を羅列するだけでも、枝連には理解の及ばない領域の話だった。

「いつ、気づいたの?」

「さっきだよ」

「さっき……あー、イワキリを運ぶのに星象現界を使ったから」

「そーゆーこと。ここのところ、星象現界を使ってなかったからな」

「ずっと意識不明だったんだもん。当然でしょ」

「そりゃそうなんだが……だから、発見が遅れたんだ」

 統魔は、光輪を見つめながら、告げた。

 星象現界を発動するのは、随分と久しぶりだった。それこそ、意識不明の重体だった間は、魔法を使うことすらできなかったのだ。意識を取り戻し、退院してからも、しばらくは星象現界を使うことを禁止されていた。

 たとえそれが幻想訓練であっても、だ。

 二十日間もの長期間に渡って意識不明状態が続いたのは、星象現界の酷使こくしによる心身への過度な負荷ふかが最大の要因だと結論付けられている。

 完全に回復するまでは、星象現界どころか星神力せいしんりょくへの昇華しょうかすらも行ってはならないと総長直々に言い渡されれば、統魔といえども従うしかない。

 指示を破った結果、統魔の身に重大な問題が起こるなど、笑い話にもならないのだ。

 そして、本日の任務から、星象現界が解禁されたというわけなのだ。

 だから統魔は、せっかくなので星象現界を発動したわけであり、同時に違和感を覚えた。

 星装の意匠もそうだが、全身に満ちる力の総量が膨れ上がっているような感覚があった。それが、久々の発動による勘違いなのか、本当に増大しているのかは、いまのいままで確信を持つことができなかった。

 だが、いまは違う。

 いまは、確信を以て、断言できる。

「星象現界が、より強くなってる」

「そんなこと、ありえるのか?」

「ありえるんじゃないかな。だって、星象現界も魔法だもん」

「魔法……」

 枝連は、ルナの当然のような口振りに、はっとした。

 魔法。

 魔法は、想像力の産物だ。想像力を具現してこその魔法であり、想像力が強くなればなるほど、そこに込める魔力が多ければ多いほど、その威力も精度も範囲も、増大していくものだ。

 そして星象現界は、魔法士各人が持つ、魔法の元型げんけいを具現するものだという。

 魔法の元型たる〈ほし〉を発現し、具体化する技術こそ、星象現界なのだ。

 星象現界がより強力になるということは、つまり、〈星〉をより精確に把握し、具現することができるようになったということなのだろうか。

「まあ、そうだな。これは、魔法だ」

 統魔は、ルナの意見を肯定しつつも、光輪に意思を働かせた。光条を光輪の中から打ち出せば、上空で閃光を発し、形を変化させる。

 次々と出現する星霊たちは、ルナや枝連もよく知っている姿形であり、能力の持ち主たちだ。

 十二体の星霊たちは、その姿形や能力からオリンポス十二神に対応していると考えられている。

「魔法の形は、想像力によって大きく変わる。千差万別、それこそ無限の形があるといっていい。つまり、おれの星象現界は、おれの想像力の産物というわけだ」

「星霊ちゃんたちも、統魔の頭の中に住んでるってことだよね」

「それは知らんが、ともかく、おれが子供のころから想像していたんだろう」

 統魔は、十二体の星霊を見つめながら、いった。

 雷神ゼウス、女神ヘラ、戦女神アテナ、太陽神アポロン、美神アフロディテ、軍神アレス、月神アルテミス、地神デメテル、鍛冶神ヘパイストス、旅神ヘルメス、海神ポセイドン、火女神ヘスティア――。

 その神の名に相応しい威容いよう、あるいは美貌びぼうを誇る星霊たちは、統魔の意のままに上空にある。

 さながら、神話が頭上に具現したかのような幻想的な光景だった。

「力が欲しかったんだ。きっと」

「力……か」

かたきを討つための?」

「ああ。そうさ。そうだとも」

 ルナの何気ない問いに、統魔は力強く頷く。

「おれは、復讐のためだけに戦団に入った。幻魔殲滅げんませんめつ人類復興じんるいふっこうなんて知ったことじゃない。おれの本懐は、鬼級幻魔サタンの滅殺めっさつ。それが全てで、それ以外なにもいらないんだ。だからただ力が欲しかった。神のような、悪魔を滅ぼす力が」

 だから、だろう。

 星霊は、神々を模した。

 統魔は、確信とともに残りの三本の光線を光輪から解放した。光輪は、光線を、星霊を繋ぎ止めておくためのかせであり、拘束具だ。光輪を武器として使うことも、防具として用いることも可能だが、主な役割は、星霊を制御することである。

 解き放たれた矢のように頭上へと至った三本の光線は、上空で爆ぜ、人間に似た姿へと収斂しゅうれんした。

 長大な鎌を持つ男性型の星霊、燃え盛る光輪を負った男性形の星霊、天秤を持つ女性形の星霊といった三体は、十二体の星霊たちよりも上に位置し、統魔を見下ろした。

「全部で十五体か。壮観だな……」

「十二体でも多過ぎだっていうのに、さらに三体も増えちゃうなんて……信じらんない」

 ただただ感嘆かんたんの声を上げる枝連に対し、ルナは、同じ星象現界の使い手として統魔の凄まじさを理解できるからこそ、呆然ぼうぜんとするほかないのである。

 三種複合型星象現界の時点で規格外であり、十二体の星霊を同時に発現していたころでも、星将たちも理解できないといわんばかりの反応を示したものだった。

 味泥朝彦みどろあさひこが、統魔をさっさと杖長じょうちょうに引き上げようとするのも、無理からぬことではないか。

 そして、さらに三体の星霊が増えたとなれば、統魔の評価はさらに高まるに違いない。

(クロノス、ヒューペリオン、テミス)

 統魔は、三体の新たな星霊をそのように名付けると、それぞれに自由に動くように指示を出した。

 星霊たちは、統魔に首肯しゅこうすると、空を駆け、戦場へと飛び立っていく。

 十五体の星霊、全てが、だ。

 そして、激戦区たる最前線へと突っ込んでいくと、凄まじいまでの戦果を上げていった。

 霊級、獣級など、雑魚どころかただの障害物でしかなかった。触れただけで蒸発するといっても過言ではなく、妖級以上でもなければ、戦闘らしい戦闘も起きなかった。

 一方的かつ圧倒的、統魔の星霊たちが幻魔を滅ぼしていく。

 蹂躙じゅうりん

 統魔は、ルナ、枝連とともに星霊たちの後を追い、その戦果を目に焼き付けていた。

 皆代みなしろ小隊を再現した幻想体が戦場各地で暴れ回っている最中、である。

 そこに十五体もの星霊が加われば、戦況は大きく変わる。

 特に、新たに加わった三体の星霊たちは、十二体の星霊以上の力を発揮しているのだ。

 戦団が、有利な状況になりつつあった。

 その様子を見て、だろう。

 ルナが、いった。

「統魔がもう一人いたら、もう少し楽だったのにね。わたしも幸せだし」

「どういうことだ」

「え? そのままの意味だけど」

「うん?」

「ふたりの統魔に囲まれたら、幸せも二倍だよ、二倍」

「独り占めするのか」

「当たり前じゃん!」

「そうか……」

 枝連は、なんともいえない顔をしながら、ルナの妄言を聞き流した。

 確かに、統魔と同等の、規格外の導士がいてくれれば、と、思わないではない。

 だが、それが無理難題だということは、枝連が口にするまでもないことだ。

 統魔のような才能の塊が戦団に現れるまで、五十年もの時を要したのだ。

 統魔は、百年に一人、いや、二百年に一人の天才と呼ばれている。

 魔暦二百二十二年現在、統魔に匹敵する才能の持ち主は、一人として存在しないのだ。

 統魔は、その自覚があるからこそ、星象現界の練度を上げなければならないと考えているのだし、敵味方入り乱れる戦場に降り立つなり、万神殿のもう一つの能力、星域せいいきを展開した。

 枝連にヘパイストスを星装として貸与たいよし、ルナが星象現界を発動するのを待って、攻勢へと転ずる。

 統魔たちの訓練は、香織かおりつるぎが参加してからさらに長時間続いた。


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