⭕ あしあと 1
はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…………。
ふぅふぅはぁはぁ…………。
ひぃ……ふぅ…………。
げほげほっ…………。
「 ふぅ……はぁ……はぁ…………。
何なんだよ、あの足跡はぁ!?
何で俺を追い掛けて来るんだよぉ~~?! 」
月明かりの下、1人の男が息を切らせながら走っている。
まるで “ 何か ” から逃げているかのように全力疾走をしている。
時々背後に首を動かしながら、男はひたすら走った。
「 あっ──!? 」
男は短く声を上げた。
水溜まりに足を滑らせバランスを崩したのだ。
男はバランスを崩したまま、転げ落ちる。
上から下へ転げ落ちる。
凸凹している階段に全身を打ち付けながら、長い階段を転げ落ちた。
「 ──こりゃひでぇな…。
全身打撲じゃないか? 」
「 顔が潰れてやがる……。
ひでぇ事をしやがる奴が居るもんだな 」
「 被害者を取り囲むように周りに付いてる赤い足跡は何ですかね?? 」
「 う~~ん、血かな?
ペンキかな?? 」
「 鑑識に調べてもらえば分かるだろ。
然し…………死ぬ前に逮捕してやりたかったな… 」
「 でもコイツ、噂の連続通り魔殺人の犯人ッスよね?
コイツに何人もの学生達が襲われて殺害されたんスよね?
自業自得じゃないッスか、先輩? 」
「 馬鹿言うな!
例え殺害犯であっても死んで良い奴なんかいやしない。
況してや犯した罪も償わないで死ぬなんて── 」
「 …………………………そッスね~~ 」
「 ──という事が先日に起こりましてね、春麗さんに是非とも捜査に協力してほしくて~~ 」
「 お前、刑事になったのかよ…。
似合わないねぇ 」
「 シュンシュン……。
でも、元気で安心したよ。
消臭剤を買いに行ったきり音沙汰が無かったからさ、どっかでのたれ死んでるんじゃないか──って心配してたんだ 」
「 のたれ死には酷いッスよ、マオさん… 」
「 今更何だよ。
あの時の1千万が用意出来たのか? 」
「 一寸ぉ~~、口座にちゃんと振り込んだじゃないッスかぁ~~! 」
「 何で覚えてるんだよ。
忘れてろよ 」
「 忘れませんよぉ!!
1千万を用意するの大変だったんスからね!! 」
「 でもさ、何で10年も経ってから連絡して来たんだよ? 」
「 ですから、さっきも話しましたけどね── 」
「 お前は前置きが長いんだよ、帝呀ぁ! 」
「 すいません……。
被害者の周りに付いていた赤い足跡なんスけど──、鑑識の調べでは血液だって事が分かったんスよ。
その血液が被害者の血と一致したんです!! 」
「 ふぅん?
それが何だよ? 」
「 その足跡は──、被害者を取り囲むように道に付いていたんですけど、階段にも上の道にも付いてるんスよ!
一体何処から足跡が出てるのか調べてみたら、信号を渡ってからみたいッスね。
足跡から逃げるように被害者は公園に入ったみたいッスね。
走ってる最中に足を滑らせて階段から落ち──、全身打撲で死んだ。
被害者の顔がグシャグシャに潰されていたッスから、誰の仕業かは未だ分かってないッス 」
「 血の足跡って──、“ かげのう君 ” の裸足の足跡に似てるんじゃないか? 」
「 マオさん、鋭いッスね!
そうなんスよ!
連続通り魔殺人の被害者──殺害された学生はかなり居るッス。
殺害された被害者達の怨念が加害者である通り魔を襲い、転倒事故としてしまつしたんじゃないか──って話しも出てるんスけど、刑事がそんな非科学的な事を理由に事件を解決させる訳にはいかないんスよ!
奴に恨みを抱いてるのは、身勝手な理由で息子や娘の命を奪われた遺族達ッス。
遺族達の中に今回の殺人犯が居るんじゃないか──って事で警察は捜査してるッス 」
「 顔をグシャグシャに潰されていたんだっけ?
だから、恨みを抱いてる被害者遺族の誰かの中に犯人が──。
足跡の事はどうするんだ? 」
「 それは……犯人が都市伝説の “ かげのう君 ” の事を利用して、被害者の血を使って裸足の足跡を付けて──みたいな感じにするとかなんとか…… 」
「 ふぅん……。
無理だろうな。
この動画を見る限り、かなり長い距離に足跡が残っているだろう。
これだけの足跡を現場に残すには大量の血液が必要になる。
殺された被害者の血液はカラカラに抜き取られていたのか? 」
「 い、いえ……。
抜き取られたような痕跡は無かったそうです…… 」
「 人間が人為的に足跡を残すには、被害者の肉体から大量の血液を抜き取るか、他者の血液を使うか、動物の血を使うか、赤いペンキを使うか──まぁ、色々と準備が必要だろうな。
信号を渡り終わった場所から公園に向けて足跡は続いているし、公園の中、階段にも足跡が確りと残っている。
然もだ、どの足跡からも検出されるのは死んだ被害者の血液ばかり──。
他者の血液でもなく、動物の血でもなく、ペンキですらない。
赤い足跡は雨が降っても落ちずに道や階段にこびり付いてる──か 」
「 そうなんスよ!
これって、もう、人為的に付けられた足跡じゃ無いッスよ?
春麗さんなら何とかしてくれるじゃないか──って…… 」
「 シュンシュン、どうなんだ?
今度こそ、帰り道に出るって噂されてる “ かげのう君 ” の仕業なのかな? 」
「 何が “ かげのう君 ” だよ。
馬鹿も休み休み言え。
足跡は未だ消えずに残ってるんだったな 」
「 は、はい!
擦っても磨いても焼き付けられたみたいにこびり付いてるらしくて消せないみたいッス 」
「 良し、現場に行くか。
怪異の類いの仕業なら直ぐ分かる 」
「 シュンシュン、今回は珍しく前向きだな! 」
「 依頼相手が警察だからな。
警察も世間には公表出来ない裏金をたんまり隠し持ってるからねぇ~~。
僕は椅子に座ってふんぞり返ってやがる無能な税金泥棒のブタヌキ共が知られたら困る弱味を握ってるんだぞぉ~~。
大いに利用させてもらおうじゃないかぁ~~ 」
「 警察の偉い人達を “ 無能な税金泥棒 ” 呼ばわりするのは拙いんじゃないのか? 」
「 何でだよ? 」
「 目の前に刑事が居るじゃん 」
「 はぁ?
何言ってんだよ。
帝呀如きが僕を逮捕出来るわけないだろ。
僕を敵に回してみろよ。
日本全国の警察職員とその家族を一夜の間に呪詛死させる事も出来るんだぞ。
日本全土から警察官が死滅しても構わないってなら、逮捕すれば良いさ。
僕が呪術を使った証拠は残らないから、僕を犯人にする事は出来ないし、刑務所へ入れる事も出来ないぞ 」
「 あはは~~。
シュンシュンは敵対する輩には容赦しないもんな~~ 」
「 素直に口止め料として、僕に大金を献上すれば良いんだ!
日本中の裏金は全部、僕の金になる為に存在してるんだからねぇ!
あっはっはっはっはっ!! 」
「 シュンシュン、人が見てるから高笑いは止めような?
ファミレスを出禁にされたら困るだろ 」
「 分かった分かった。
マオは一々煩いな。
帝呀、現場に案内しろ 」
「 お任せください! 」
「 序でに此処の支払いもしとけよ 」
「 えぇ~~~~ 」
「 帝呀、御馳走様~~ 」
マオと春麗は、支払いを帝呀に押し付けるとファミレスを先に出た。