✒ 赤い靴 2
「 全く、とんでもない糞女ただったな!
茄步は何であんな糞の塊みたいな女とつるめるんだ?
僕には理解出来ないねぇ 」
「 …………昔は優しい子だったんです…… 」
「 昔って何時の話だよ…。
さっさと見限って縁を切れ。
じゃないと、茄步も怪奇に喰われる事になるぞ 」
「 シュンシュン、あの子が怪奇に喰われるって何でだ? 」
「 眼鏡を掛けて見てみろ。
面白いもんが見えるぞ 」
「 遠慮しとくぅ~~。
えぇと──、この道を歩いていたら赤い靴が空から落ちて来たんだよな? 」
「 は、はい。
学校からの帰り道です。
この道を通らないと最寄り駅に行けません 」
「 シュンシュン、何か分かるか? 」
「 4日も前だろ。
まぁ、辿ってはみるが……。
赤い靴が無いからな、期待はするな 」
春麗は御札を出すと短く呪文を唱える。
「 呪術には呪術だ。
さぁ、赤い靴が何処から来たのか僕に教えろ! 」
御札は宙に浮くとクルクルと飛び回る。
「 何してるんだ?
何でクルクル回ってるんだよ? 」
「 痕跡を探ってるんだ 」
「 痕跡かぁ…。
残ってると良いな 」
「 ……………… 」
「 どうしたんだ、茄步ぉ。
顔色が悪いぞぉ?
何か言いたい事でも有るのかなぁ? 」
「 シュンシュン、急にどうしたんだよ?
声が怖いんだけど? 」
「 ………………ご……御免なさい…………。
…………赤い靴は…………私が……私が…………用意しました…… 」
「 うん?
茄步さんが “ 用意した ” って、どゆこと? 」
「 日頃の仕返しに “ 帰り道のカゲノウ君 ” を利用して嫌がらせをしたんだな? 」
「 ………………はい…………御免なさい…… 」
「 えぇ~~。
茄步さんの悪戯だったのかよ 」
「 …………耐えられなくて…………。
教室で話してる内容が聞こえて来たから……私………… 」
「 ふぅん。
仕返しする元気は未だ残ってた訳か。
茄步の気持ちが分からない訳じゃない。
あの糞馬鹿女は僕も気に食わないからねぇ。
呪って困らせてやりたくなる気持ちは否定しない 」
「 シュンシュ~~ン 」
「 だからって、素人が怪奇に手を出し、仕返しに利用するのは感心しない。
やり方は他にも有る筈だ。
呪術のプロ──、僕に依頼するとかな! 」
「 え……? 」
「 僕なら悪戯を本当に出来るぞ。
赤い靴が届いた奴は誕生日──産まれた時間に死ぬんだろ?
現実にしてやろう──って言ってるんだ 」
「 ちょっ、シュンシュン!
何言い出すんだよ!
噂を本当にするって正気かよ? 」
「 呪術は直に手を下さない。
故に “ 完全犯罪 ” になる。
茄步は何もしなくていい。
誕生日を迎えた日に糞馬鹿女が死んでも、何時も通り生活していれば、誰からも疑われない。
どうだい、僕に依頼するか? 」
「 シュンシュン!
冗談も程々にしとけよ! 」
「 ……………… 」
「 マオは黙ってろ。
僕は茄步とビジネスの話をしてるだ。
どうだい、茄步ぉ。
悪い話じゃないだろぉ? 」
「 ………………いいえ…………止めときます……。
私が間違っていました……。
私……両親に話します……。
転校させてもらえるように…………これ以上…紗美と関わらなくて良いように……。
あの…………本当に御免なさい…… 」
「 そうか。
折角、復讐が出来るチャンスを自ら捨てるか。
まぁ、良いさ。
君は未だ未成年だからねぇ。
ほら──、僕の名刺だ。
困った事が起きたら僕を頼れ。
呪術で解決させてやるよ。
間違っても “ 自分の手でケリを付けよう ” なんて馬鹿な事をするんじゃいぞ。
一般人の素人に “ 完全犯罪 ” なんて出来やしないんだからな 」
「 シュンシュ~~ン、言い方が悪いぞぉ 」
「 有り難う……(////)
今日は本当に御免なさい…… 」
「 日が暮れる前に帰れ。
寄り道するなよ? 」
「 はい(////)」
茄步は春麗から名刺を受け取ると帰って行った。
「 シュンシュン…… 」
「 そんな顔するなよ。
顧客候補をゲット出来たろ 」
「 今回は仕返しする為の悪戯だったから、怪奇事件は起きないって事だな? 」
「 いんや、起こるさ。
態々僕が起こす必要も無いねぇ 」
「 どゆことだよ? 」
「 眼鏡を掛けて糞馬鹿女を見たら分かる。
あの糞馬鹿女は棺桶に片足を突っ込んでる状態なのさ 」
「 えぇっ?!
何それ、どゆことだよ 」
「 あの糞馬鹿女を恨んでる奴は他にも居るって事さ。
あの馬鹿女は呪詛を身に付けてやがるんだ。
その呪詛が澱みを引き寄せている。
怪異の類いは澱みに集まる。
近々糞馬鹿女の身の回りで怪奇現象が頻発するようになる。
1ヵ月もしない内に糞馬鹿女は怪奇に喰われて死ぬ 」
「 ………………呪詛を身に付けてるって何だよ?
何呪詛が掛けられてるんだ? 」
「 ヘアピンだよ。
前髪に付けてただろ?
あのヘアピンが澱みを引き寄せてるんだ。
澱みが全身にまとわり付いてる奴には草々お目に掛かれないからな。
見物だぞぉ 」
「 やっぱり見ないでおく…… 」
「 折角、片足を棺桶に入れてるんだから、もう片方も棺桶に入れてやろうと思うんだ 」
「 えっ?
何する気だよ? 」
「 燃やして灰になった筈の赤い靴が部屋にあったら、どう思う? 」
「 えぇ~~ 」
「 3日前,2日前,前日,当日──って感じに赤い靴が目の前に落ちて来たら、どうだ?
面白くないか? 」
「 シュンシュン…… 」
「 一寸ばかり懲らしめてやるだけさ。
恐怖を煽ってやるだけだ。
放っといても勝手に死ぬんだ。
一寸ぐらい精神的に追い詰めてやっても構わないだろ? 」
「 最低だな、シュンシュン…… 」
「 フン!
“ 褒め言葉だ ” って言ったろ。
それともマオは、あの糞馬鹿女にイラっとしなかったのか? 」
「 そりゃムカついたけど…… 」
「 なら、決まりだ! 」
「 勝手に決めるなよ~~ 」
マオと春麗は現場を後にして最寄り駅へ向かって歩き出した。