♥ かげのう君 3
「 ──此処が噂の現場かぁ。
何かさ何処にでも在るような至って普通の道だよな。
人通りだって多いしさ、本当に此処に “ かげのう君 ” が出るのかな? 」
「 出るんだろ。
奴さんはこんな真っ昼間から出ないさ 」
「 夕暮れ時の “ 帰り道 ” に出るって噂だもんな。
シュンシュン、夕方まで何処で時間を潰すんだ? 」
「 この先には学校や病院が在るらしいぞ。
アウトレットモールも在るから夕方まで時間を潰せる。
久し振りに羽を伸ばして遊ぼうじゃないか! 」
「 ふぅん。
時間潰しには困らない訳か。
勿論、シュンシュンの奢りだよな? 」
「 馬鹿言うな!
割り勘に決まってるだろ!
僕のMBKは1日の限度額が決められてるんだぞ!
1万円だぞ!
くだらない事に使えるかよ!
マオのMBKを使って遊ぶに決まってるだろが! 」
「 助手に集るなんて最低だな、シュンシュン… 」
「 良いだろ、別に!
お前のMBKには限度額が無いんだろ。
どうせ誰かの裏金が使われるんだ、構わないだろう! 」
「 そりゃそうだけど… 」
「 よし、行くぞ!
アウトレットモールへ! 」
「 おぅ!!
先ずは腹拵え、したいよな! 」
「 ──どうだよ、マオ!
僕のセーラー服姿はさぁ!
似合ってるだろう! 」
「 もしかして、セーラー服を着たくて性別反転して依頼人に会ったのか? 」
「 阿呆!
そんな訳あるか!
素人馬鹿には女の姿で会った方が色々と都合が良いんだよ!
女で居ると役得が有るんだよ 」
「 役得ねぇ? 」
「 それにしてもだ、マオは学ランもブレザーも似合わないな~~。
合うサイズも無かったし 」
「 余計な御世話だ!
セロが居てくれたら魔法で丈を調整してもらえるんだけどな… 」
「 でもまぁ、これで誰がどう見ても学生に見えるだろ。
夕暮れ時に制服姿の学生が2人、仲良く歩いてたら “ 帰宅途中 ” って事ぐらい馬鹿でも分かる 」
「 そうだな。
実際に帰宅中の学生も居るし、大丈夫だと思う 」
「 もう少し日が暮れれば人通りも減るだろう 」
「 学生が通らない様に通行禁止のコーンが立てられてるんだな。
コレ、見付かったら補導されちゃわないかな? 」
「 心配無い。
学校側にも近所の交番にも許可は取ってある。
僕達以外は誰も立ち入れ無い様にしてもらってるんだ。
被害者が出ると面倒だからな 」
「 へぇ、前以て人払いしてるなんて流石だな!
じゃあ、この通行禁止のコーンも── 」
「 それは違う。
1ヵ月前の事件が遭っただろ。
それで夕方前に設置される様になったんだ 」
「 あっ……そっか。
依頼人の幼馴染みの子だな 」
「 この道は近道なんだと。
この道を通れば時間を大幅に短縮が出来るから学生達が登下校に利用してるそうだ。
正規のルートを使うと1時間も掛かるんだとよ 」
「 へぇ、この道って便利な道なんだな~~。
どのくらい短縮出来るんだ? 」
「 約45分だと 」
「 はぁ~~!
1時間が15分で済むなら誰でも使いたがるよな!
オレでも毎日通るよ 」
「 ──そろそろだな。
マオ、行くぞ! 」
「 すっかり日が暮れちゃったな。
かげのう君、出て来てくれるかな? 」
「 どうだかな。
期待してやろう 」
セーラー服を着た陰陽師と学ランを着た助手は、通行禁止コーンの横をすり抜けると先へ進む。
「 何も出ないな 」
「 霊視眼鏡を掛けて周囲を見てみろよ。
面白いもんが見えるぞ 」
「 絶対に見たくない光景が広がってるんだろ? 」
「 当たり前だろ。
眼鏡を掛けないと襲われても対処が出来ないぞ 」
「 掛けたくないな~~ 」
助手は渋々霊視眼鏡を掛けると、素早く霊視眼鏡を外した。
「 シュンシュン!
何かヤバそうなのがいっぱい見えるけど!! 」
「 な、面白いだろ。
僕が恐くて近付けないのさ! 」
「 シュンシュ~~ン、襲って来ないんだよな? 」
「 安心しろ、妖かしも馬鹿じゃない。
“ 勝てない ” って分かってる相手に手を出しゃしない。
余程の馬鹿じゃない限りな 」
「 そうなんだ…。
じゃあ、眼鏡を掛けてても良いかな… 」
「 持ってるんだから使え!
お前はケータイを携帯しない馬鹿と同レベルなのか? 」
「 掛ければ良いんだろ!
──ところでさ、何処等辺に “ かげのう君 ” が居るんだ? 」
「 そうだな。
吐かせてみるか。
これだけ居るんだ、知ってる輩も居るだろう 」
「 シュンシュンは妖かしとも話が出来るのかよ。
凄いな~~ 」
「 法術を使えば可能なんだよ。
僕は凄い陰陽師だからな! 」
陰陽師は御札を2枚出すと短い呪文を唱える。
蒼い炎に包まれた御札を左右の人差し指と中指で挟むと左右の耳の近くでクルクルと回す。
御札が燃え尽きると陰陽師の耳には妖かし達の言語が理解出来る様になっていた。
「 ──おい、お前!
木偶の坊のお前だよ!
この中に人間から “ かげのう君 ” って呼ばれてる妖かしは居るか? 」
「 ──チッ!
使えないザコばっかだったな。
一掃して正解だった 」
「 シュンシュン、妖かし達に何したんだよ? 」
「 あぁ、式隷にしてやったんだ 」
「 式隷って──、名前を奪わないと出来ないんじゃないのかよ? 」
「 はぁ?
名前を奪わなくても式隷には出来るぞ。
やり方は乱暴になるけどな 」
「 乱暴って? 」
「 瀕死状態にしてから言霊でがんじがらめに縛るんだ。
僕に絶対服従になるから、僕の命令に逆らうと消滅する 」
「 ………………消滅ぅ!? 」
「 凱恭に取り憑いてた奴も式隷にしてやったんだ 」
「 えぇっ?!
アレを式隷にしたのかよ?
全然、分からなかった… 」
「 マオが弱らしてくれたからな。
簡単に言霊で縛って式隷に出来たよ 」
「 結局さ、“ かげのう君 ” らしい妖かし居なかったんだよな? 」
「 そうだな。
1ヵ月前に凱恭と侑未を襲い、侑未を喰らった妖かしは既に此処には居ないらしいしな 」
「 何だよぉ~~。
着たくもない学ランを着て、現地まで来たってのに~~!!
無駄足だった──って事かよ! 」
「 そう言うなよ。
僕は使えそうな式隷を何体かゲット出来たから良かったぞ 」
「 さっき迄 “ ザコ ” って言ってなかったか? 」
「 ザコはザコでも使えるザコに決まってるだろ。
この道で妖かしが悪さを出来ない様に結界を張っといてやるか。
明日から通行禁止のコーンを置く必要は無くなるぞ 」
「 シュンシュン、優しいな~~。
結界を張ってあげるなんてさ! 」
「 フン!
少しは僕を見直したか? 」
「 うん、見直した!
良い所あるじゃん 」
「 もう此処には用はないな。
帰ろう 」
「 お、おぅ。
歩いてるけど、足音は聞こえないよな。
真っ赤な裸足の足跡も見ないしさ…。
ガッカリだよ 」
「 足跡の正体はザコ共の悪戯だ。
“ かげのう君 ” の仕業じゃない 」
「 えぇ~~マジかよ… 」
「 足音もザコ共の悪戯な。
“ かげのう君 ” なんて初めから存在してなかったかも知れないぞ。
人間が勝手に名前を付けて騒いでただけかもな 」
「 何だよそれぇ~~。
期待して損した! 」
「 あっはっはっはっはっ!
まぁ、次の依頼に期待するんだな!
次が “ 有れば ” だけどな! 」
「 次の依頼か~~ 」
陰陽師と助手は噂の現場から離れて帰宅するのだった。
◎ 訂正しました。
妖し ─→ 妖かし