♥ かげのう君 2
「 ──此処です。
この病室に居ます 」
「 関係者以外 “ 面会謝絶 ” って札が掛かってるけど?
オレ達、ガッツリ余所者だけど面会しても良いのか? 」
「 凱恭の家族には話してあります。
病院からも許可は下りてます。
今の状態を “ 何とかしてもらえるなら ” って藁にもすがる思いで── 」
「 ふぅん?
なら両親や病院からもたんまり頂けるって訳だな。
良いねぇ~~。
祓い甲斐があるってもんだ 」
「 シュンシュン、手加減してやれよ。
病院は兎も角、家族は一般人なんだしさ 」
「 甘チョロい事、言ってんじゃない!
除霊ってのは命懸けなんだよ!
常に死と隣り合わせの真剣勝負なんだ!
祓い屋が祓うのとは訳が違うんだよ!
彼奴等は “ 祓う ” って言うより、取り憑く対象物を別に用意して強制的に移すだけなんだ。
目に見えない奴から見れば、“ 祓われた ” ように見えるけど、実際には祓っちゃいない。
祓い屋よりも “ 移し祓 ” って名乗るべきなのさ 」
「 へぇ、オカルト業界には、そんな奴等も居るんだな 」
「 克暎、これも縁だ。
お前も覚えとけ。
オカルト業界には似非野郎やインチキ野郎が意外と多いんだ。
カモられて骨までしゃぶり尽くされるのが嫌なら本物を知れ。
本物を知っていれば、偽物に騙される事もなくなるってもんだ。
だが──、1番良いのは “ 関わらない ” って事だ。
興味本意や面白半分で足を突っ込まない様に注意しろ。
好奇心も行き過ぎると命を落とす事になるからな 」
「 “ 好奇心は猫を殺す ” って諺だろ?
シュンシュン、病室に入ろう── 」
「 待て待て、慌てるな。
克暎、お前は病室に入るな。
病室の外──、廊下で大人しく待ってろ。
良いな 」
「 ……分かりました 」
「 マオ、お前には目の前の病室がどう見えてる? 」
「 どうって?
何も見えないけど? 」
「 間抜けぇ!
セロフィートが用意してくれた眼鏡を掛けてから見ろっての! 」
「 あっ、そう言えば確かに持ってたっけ!
テッテレ~~♪
霊視眼鏡ぇ~~~~。
これを掛けると見えない存在を見る事が出来ちゃう不思議な眼鏡なんだよな 」
「 良いから、さっさっと見ろ! 」
「 急かすなよ!
──う゛っ…… 」
「 ど、どうしたんですか?
急に眼鏡を外したりして── 」
「 シュンシュン…………この中……滅茶苦茶ヤバいんじゃないのか??
マジで入るのかよ? 」
「 ちゃんと見えてるみたいだな。
当たり前だろ。
中に入らないと祓えないからな 」
「 シュンシュ~~ン、オレも入る意味あるのかな?
祓うならシュンシュン1人で十分過ぎるだろ?
式神を出してやっつける訳だしさ 」
「 あのなぁ、時間稼ぎをする囮が居るだろが!
僕は病人の安全を確保しながら奴等の相手をしないといけないんだぞ。
囮役は必須なんだよ!
マオの役目は奴等の気を引いて時間稼ぎをする事だ 」
「 最低過ぎる… 」
「 魔具刀で切れるから確り役目を果たせよ 」
「 オレって損な役回りばっかだな! 」
「 病室に入ったら結界を張る。
外に被害は出ないから、思いっきり暴れてくれよ 」
「 分かったよ… 」
「 よし、入るぞ! 」
「 ──凱恭、お前は現場で何を見たんだ?
助けてやったんだから、包み隠さず嘘偽りなく正直に話せ。
嘘を吐いたら別の悪霊を取り憑かせるぞ 」
「 シュンシュン、脅すなよ!
悪霊より質悪いって 」
「 “ 脅し ” も立派な交渉手段なんだよ!
僕は暇じゃないんだ。
嘘の情報を提供されるなんて願い下げなんだよ! 」
「 えぇと、凱恭君、怖がらなくて良いからな。
シュンシュンは “ かげのう君 ” 絡みの事件を解決する為に来てるんだ。
行方不明中の侑未さんも見付けるよ 」
「 凱恭──、帝呀先輩に頼んで紹介してもらった凄腕の陰陽師なんだ。
春麗さんは本物だ。
信用の出来る人だから、当時の事を話してくれないか? 」
「 あ……あぁ…………。
…………………………侑未は帰って来ないよ…… 」
「 帰って来ない??
どういう事だよ、凱恭!!
侑未が帰って来ないってのはぁ!! 」
「 おい、詳しく話せ 」
「 シュンシュン、言い方~~。
上から目線で言うの止めてやれよ…。
凱恭君、シュンシュンの言動は無視して良いからな! 」
「 おい!
無視は言い過ぎだぞ 」
「 …………何か……漫才を見てる感じがするんですけど… 」
「 あぁ゛?
何か言ったか、克暎ぃ~~ 」
「 シュンシュン!
続きを話してくれよ、凱恭君── 」
「 ………………侑未は…………かげのう君に…………殺された………… 」
「 殺されたぁ?
どゆことだよ? 」
「 かげのう君に…………身体を……真っ二つに…………。
侑未は…………俺を庇って──。
俺を突き飛ばした所為で──、上半身と下半身が…………うぅ……うぅぅ…………俺の所為で── 」
「 凱恭、確りしろよ!
お前の所為じゃない!
かげのう君を『 確かめに行こう 』って言い出したのは侑未の方だろ?
だから…………だから………… 」
「 言い出しっぺが自滅したって訳か。
誘った手前、誘った相手を置いては逃げれないよなぁ?
殊勝な心掛けじゃないか。
被害者の心意気に免じて、その “ かげのう君 ” って奴は僕が祓ってやる!
おい、場所を教えろ 」
「 シュンシュン、上から目線で威嚇するの止めような?
仔犬みたいに震えてるからさ 」
「 フン!
僕は偉大な陰陽師だからな!
頭を垂れて膝まずけ! 」
「 シュンシュン……時代を考えて発言しような~~。
凱恭君の描いてくれた地図も手に入れたし、現場に行こう!」
「 待て待て、慌てるな。
おい、凱恭──。
上半身と下半身を引き裂かれた侑未はどうなった? 」
「 あ……あ…あ……分かんねぇ……。
見えない “ 何か ” に引き摺られて……消えちまった……。
宙に舞って……血が飛び散って──消えたんだ…… 」
「 喰われたか。
なら、死体の回収は無理だな。
克暎──、お前の幼馴染みは喰われて死んだ。
捜索願いは取り消した方が良いぞ 」
「 えっ──??
侑未は── 」
「 幾ら待っても帰ってきやしないさ。
侑未って女は妖かしに喰われたんだからな!
喰った奴が “ かげのう君 ” って輩なのかは現場へ行かないと分からない 」
「 何か嫌な予感しかしないな~~。
まぁ、これからも人間を襲うなら退治しとくに越した事はないよな 」
「 どんな妖かしを拝めるか楽しみだ。
マオ、行くぞ! 」
「 はぁ……。
気は進まないけど行くか。
“ かげのう君 ” に会えるかな? 」
「 出て来ないなら、僕が直々に引き摺り出してやるさ! 」
病室に凱恭と克暎を残したまま、陰陽師と助手は精神病院を後にした。
◎ 訂正しました。
妖し ─→ 妖かし