壊した二人
まだスッキリは無いです。
家の前で史佳の両親と間男達が固まっている。
なぜ紗央莉まで居るのかも意味が分からない。
間男がここに居るという事は、史佳の浮気は義両親達に知られてしまったという事なのか?
「...行くぞ亮二」
「行くって?」
政志が呟く、一体どうなっているんだ?
「ケリを着けるんだ」
「ちょっと待て、俺はそんな事望んでないぞ」
俺の希望は綺麗に離婚する事だ、不貞とか離婚理由に入ったら史佳が幸せになれないだろ。
「お前がどうとかの問題じゃない、これは俺達の気持ち、公序良俗の問題なんだ」
「...政志」
そういえば政志は検察庁に勤めていたな。
言う事が一々固い。
「親友が1人泥を被るのは我慢ならない。
離婚の協議書には何でも好きに書けば良い。
だがな、真実を史佳の両親に黙っているのはダメだ。
それをしたらお前までアイツ等と同罪になる」
「同罪?」
なんの罪なんだ?
俺は史佳の幸せを願っているだけなのに。
「亮二君、史佳がすまなかった」
「...ごめんなさい」
史佳の両親が頭を下げる。
俺はまだ何も説明してない、やはり全部を知っているのだろう。
「いや...紗央...ひょっとして灰田さんから?」
紗央莉は首を振る。
史佳の両親に言ったのは紗央莉じゃないのか?
「優花が灰田さんに連絡したんだ」
「優花さんが?」
「ああ、それで灰田さんがお前の嫁に連絡を」
「成る程...」
紗央莉がここに居る訳は分かった。
義両親は項垂れて、いたたまれない。
この二人は俺と史佳の結婚を許してくれた恩がある。
両親の居ない俺みたいな人間と史佳の結婚を...
「亮二、とにかく家に上がって貰え。
ここでは近所の目がある」
「そうだな」
なんにしても家で話をするしかない。
それにしても間男達はさっきから黙っていて不気味だ。
膨れっ面の間男に憔悴した男女、きっと間男の関係者なのだろう。
「なんでマンション前に居たんです?
家には史佳が居る筈ですが」
「史佳が開けてくれないの」
「どうして?」
義母は消え入りそうな声で答えた。
「亮二が来たら説明するって」
紗央莉は吐き捨てる。
「私達も史佳に呼び出されたんだ。
自分の浮気を一方的に言ってな、こちらの家族も同様に」
「そうなんですか」
「来なきゃ会社に全部ぶちまけるだと?...畜生め」
何やら間男君が呟いている。
全員を呼び出すって、史佳は何を考えてるんだ?
なんにしても史佳の取っている行動は異常だ、
俺より好きな人が出来て、幸せになりたかったなら黙って離婚すれば良いだけの話だったのに。
「史佳は正気を失ってるわね」
「そうみたいだな」
そう言って紗央莉と政志は頷いた。
だとしたらどうしてだ?
俺と別れて幸せになりたいから新しい恋人を見つけただけじゃないのか?
「とにかく行きましょう」
俺は全員を引き連れマンションの鍵を開けた。
部屋は散らかり酷い有り様、毎日ちゃんと掃除しといたのに。
「ただいま...」
「ああ亮二!無事だったのね!!」
部屋の奥から史佳が飛び出して来た。
泣き腫らした目、髪はボサボサ、さすがに下着姿では無いが狂気を感じさせる史佳の様子にたじろいてしまう。
「どこに行ってたの...あのまま消えちゃうんじゃ無いかって心配で...」
何を言ってるんだろう?
先日まで俺の事なんか全く気にしなかったのに。
「史佳!!」
「貴女は何を言ってるの!」
義両親が怒鳴る。
しかし史佳は一向に怯む様子は無い。
「ちゃんと説明するから」
何を説明するだろう?
訳も分からないまま史佳に続いて奥のリビングへと入った。
「さあ座って」
「...どこに座るんだ?」
リビングまで散らかり放題、床には本やアルバムが散乱し、足の踏み場もない。
「まずは部屋を整理するか」
「そうね」
政志と紗央莉が部屋の中を整理し始める。
義両親と間男家族は呆れて...いや義母は情けないと呟き涙を流していた。
「それじゃ始めるか」
「ええ」
10分後、ようやく座る場所を確保し、全員床に座る。
お茶くらい用意したいが、そんな雰囲気じゃない。
「私...一年前から浮気をしてました」
「そっか」
「ごめんなさい!!」
今更な史佳の告白から始まった。
史佳は床に土下座をするが、知っている事だし、特に何も思わない。
「白井亮二君だったかな」
年輩の男性が俺の名前を呼んだ。
この人は間男の関係者みたいだけど。
「そうですが...」
「この度は家の馬鹿息子がすまなかった」
「本当に申し訳ございません」
「貴方達は?」
「私は君の奥さんが浮気をしていた楠野満夫の親だ、本当にすまない!」
男性に続いて女性まで頭を下げる。
間男の両親だったのか、それなら話が早い。
「頭をお上げ下さい」
「そんな訳には」
一向に頭を上げようとしない、困ったな。
「貴方の息子さんは存じております。
どうか史佳さんを幸せにして下さい」
義父が絶句しているが、そのまま続ける。
修羅場は絶対に嫌だ、心が堪えられない。
俺の両親は各々が不倫の果てに自滅し、死を選んだ。
これ以上、色恋沙汰で傷つきたくない、みんな幸せになって欲しいだけなんだ。
「私は史佳さんを幸せに出来ませんでした。
僕なりに頑張ってみたんです、誕生日や記念日には必ずプレゼントを送ってお祝いしました。
旅行も行きました、スマホだっていつ見ても良いようにしてましたよ。
でも満夫さんの方が史佳を...いや史佳さんに相応しかったのです。
だから彼女を宜しくお願いします」
「何を言ってるのかね...」
なんだかみんな固まっている。
そんな変な事を言っただろうか?
「...亮二まさか...嘘よね?」
なんで史佳まで?
「本当だよ、だって史佳は幸せにしてって結婚の時、俺に言ったでしょ?」
「違うの!私は幸せだった!」
「はい?」
史佳は何を言ってるんだ?
幸せだったって、それは違うだろう。
「私が悪いの!楠野さんとつい過ちを!」
「過ち?」
何だつい過ちって?
「仕事の相談を受けてる内に、頼られて....口説かれるままに...私は...あぁ!!」
史佳は髪を振り乱し床を叩く。
これは何の真似だ?
「満夫さんでしたっけ?」
「...あ、はい」
間男からも事情を聞こう、史佳からは要領を得ないし。
「貴方は史佳さんの恋人では無いのですか?」
「あ...え~と」
何で目を逸らすんだ?
「僕には婚約者が...」
「婚約者?それは史佳さんの事ですよね」
「...違います」
「違うの?」
項垂れながら首を振る間男。
つまり史佳の恋人には別の女性が居たって事なのか。
「この野郎が!」
「よくも史佳を、ふざけないで!!」
「ち、ちょっと」
「止めろ!」
義両親が間男に殴り掛かる。
俺と政志は必死で止めた、修羅場もだが暴力はもっと嫌いだ。
「楠野君が結婚するまでのつもりだった...彼が結婚したら私達の関係は終わらせる...そう決めてたの...」
「馬鹿!!」
紗央莉が史佳の頬を引っ張ったく、余りの早さに止める間も無かった。
「何が終わらせるつもりよ!
ずっと亮二を放ったらしといて、貴女の誕生日にその男とホテルに泊まった事は調べが着いてるのよ!!」
「アァァァ!!」
紗央莉の追及に史佳は更に泣き叫ぶ。
新しい事実だけど、余りダメージは無い、何でだろ?
「慰謝料はいくらでも払う!どうか内密にしてくれ!!」
「お願いします!!」
間男達は必死で頭を下げる。
内密っていっても、みんな知っちゃったし。
「どうか...婚約者に...バレたら終わりなんだ」
「終わり?」
間男達が床に頭を擦り付けながら呻いた。
「婚約者はコイツの親の上司の娘なの」
「へえ...」
紗央莉、新しい情報ありがとう。
破棄されたら間男一族、面目丸潰れって事か。
「良いですよ」
「おい亮二」
「何を言うの?」
「亮二君、それは...やり直して...」
なんで驚いているんだ?
黙ってりゃ良いんでしょ。
「彼女も一緒に幸せにして上げて下さい」
史佳を指差しながら間男に言った。
「「「は?」」」
「だから史佳も一緒にですよ、出来るでしょ?
一年も俺や、そちらの婚約者さんに気付かれず浮気をしていたんだし」
「そんな事出来るか!」
「嫌よ亮二!!」
「なんで?」
どうして出来ないのかな?
現に上手くやってたし...あ、そっか!
「大丈夫ですよ、決して他言はしません。
離婚理由も性格の不一致にしますし、慰謝料も結構ですから」
これなら万事解決、後腐れ無しだ。
「その目を止めて!!」
怯えた史佳が踞る。
俺の目がどうかしたのか?
「止めて!この前から、もう何も興味ないって、その目...お願い...」
「ああ...確かに」
「これはキツいな」
紗央莉と政志は俺を見て納得している。
そんな目なんかしてないぞ?
「幸せになって欲しいんだ、仮にも愛した人だし」
「だから...その史佳にチャンスは無いのかね」
「はい?」
オッサンは何を言ってる?
チャンスだって?
「そんな物ありませんよ、俺は史佳にとって必要無いみたいだし」
「違うの!私気づいたのよ!!
亮二が一番大切だって!!
もうこんな事しません!預貯金も全部上げます!
隠し事はしないから!!」
「...またか」
また違うのか、何が違うんだ?
金なんか要らないし、隠し事って言ってもな、この先は他人なんだから、好きにすれば良いのに。
「部屋を見たろ?
もう邪魔な結婚写真や、思い出の品は全部処分したんだ。
ついでに俺のスマホも見たか?
安心しろ、一枚残さずお前の写真は消去したから」
「...だから何も無いのね」
「金は大切にしとけよ、来年には家を買うんだろ?
28歳には子供って言ってたし、最愛の満夫君と幸せに。
それと婚約指輪は公衆便所に流したから、糞みたいな結婚生活ごめんね」
ポンと史佳の肩に手を乗せる。
人の恋人に馴れ馴れしいかもしれないが、最後くらい良いだろう。
にっこりと史佳の目を見詰めた。
「...アカガカガ!!」
「「史佳!!」」
「おい!」
「...あらら」
史佳は白い泡を噴いて卒倒する。
どうやら安心感から幸せの絶頂に達したのか。
その後、救急車が呼ばれ、話をするどころでは無くなってしまった。
これが史佳を見た最後だ。
1ヶ月もしない内に離婚届が史佳の両親から送られて来たので、直ぐに署名をし、その日の内に役場へ提出したのだった。
そういえば、史佳は幸せになれたかな?
最後にスッキリなエピローグ!