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とある侍女の美味しい紅茶

 ――私は数年前、この悪役令嬢ロゼティアの侍女に転生した。






 前世の私は真面目な会社員だった。出勤して仕事して帰宅する。そのルーティンを繰り返す日々。そんな時だ、気づいたら転生していたのは。

 自分が悪役令嬢の侍女だとわかったのは、前世で妹がお気に入りの乙女ゲームについて熱く語っていたおかげだ。


 そして、ロゼティア様だが……正直自分の想像していた悪役令嬢とはだいぶ、いや、かなり違った。表情の変化に乏しいため誤解を受けやすいだけで悪い方ではなかった。




 そしてついに気づいてしまった。()()()という概念と存在に。

 ほんの少しだけ口角を上げる笑い方も、意外と天然で鈍感なところも、照れたとき、耳のはしが少し朱くなるところも、いつも周囲の人を気遣っているところも、全部愛おしいのだ。毎晩ロゼティア様の様子を思い浮かべ1人で悶えるほどに悪化している。

 前世では、妹の言う萌や推しという存在があまり理解できていなかったが、今なら共感できる。



 そんな時だロゼティア様の婚約者が攻略対象(レオルド)だと気づいたのは。

 どうしてか周囲は乙女ゲームのシナリオどおりに進んでいる。多少人物の性格などに違いが出ているようだが……。

 ララティナがわかりやすい例だろう。ララティナは勿論ゲームの主人公だ。ゲームでは、明るく優しい性格で、上級貴族を次々と虜にしていく。でも、この世界のララティナは間違いなく性格が悪い。

 言動、仕草、セリフに至る隅々まで薄っぺらい。

しかし、どうしてか周囲の人間は、気づかないようだ。反対にロゼティア様は天使のような方だったが。



 ともあれ私は、ロゼティア様の幸せのために奔走した。

他の攻略対象の様子をチェックし、ララティナがレオルドルートに入ったことを確認。その後ロゼティア様に日々さり気なく婚約破棄をすすめ、計画を立てる。

 全てロゼティア様には秘密で。

 ロゼティア様はとても優しくて、少し心配性だから。

 そして、婚約破棄のためのあらゆる障害を排除するために、フェリアスに協力を頼んだ。




 フェリアスを選んだのは、第2王子であり、攻略対象でなかったからだ。

 そして、ロゼティア様に惚れており、ロゼティア様に少なからず想われているからだ。

 フェリアスならば、ギリギリ及第点と言えなくもないので、前からおとなしく見守っていたのだが。………ヘタレすぎる。やはり婚約者(レオルド)の存在のせいなのか……。




 だが協力の話を持ち掛けたとき、ロゼティア様によそよそしくされたのがよほど堪えたのか、やる気満々だった。

 ただ、あれだけ食い気味に話を進めておいて、本人は隠せていると思っているらしい。






 無事婚約破棄を終えた帰りの馬車の前で、ロゼティア様が、泣き出してしまわれたときは、深く反省した。


 確かに、ロゼティア様は主人で、私は、侍女だ。それ以前にロゼティア様(尊い推し)セリア(熱烈なファン)の間には大きな壁がある。

 だとしても、せめてロゼティア様の悲しみに気づくべきだった。

 そんなふうに私が猛省しているとき、ロゼティア様とフェリアスが熱く見つめ合っているのが目に入り、慌てて引き離した。

 ヘタレだと思っていたのに、全く、油断できない。


 こんな危ない奴の前からは、即刻立ち去るべきだろう。

私は、ロゼティア様の陶器のように滑らかな手を引いて馬車に乗った。



 「セリア……」


 暫くしたとき、ロゼティア様が私の名前を呼んだ。ロゼティア様の碧い瞳が、こちらを見つめる。その目は、こちらを射抜くようで、でも、優しくて。


 「ロゼティア様、どうされ……」

 「ありがとう。私はあまり良く分からないけれど、セリアが私のために頑張ってくれたことは知っているわ」


 ロゼティア様の瞳は、私が思っていたよりも、ずっと強い瞳で、これからへの希望に輝いていた。

 ロゼティア様が穏やかに微笑む。


 「な……にを」

 「帰ったら美味しい紅茶を淹れてもらえる?」

 「……っはい!とっておきの茶葉でご用意いたしますね」


 二人で顔を見合わせて笑い合った。

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