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鼓太郎という男

「根岸パイセン!」


俺とは違い、きっちりとブレザーを着た男子生徒が廊下を走ってきた。


「どうした鼓太郎(こたろう)。何かあったか?」


「何かあったかじゃないっすよ! パイセン、高校に行かないって本当なんですか!?」


「……誰に聞いた?」


「ウチの親から。パイセンの親が言ってたって」


和久津鼓太郎はサッカー部の後輩だ。親同士が知り合いということもあってそれなりに親しい仲である。顔はイケメンなのに中学生にして髪が薄いので、弄られキャラだ。


「どうして高校に行かないんすか!?」


「必要ないからだ」


「いやいやいや! いくら家が金持ちだからって、それは不味いっしょ」


「家は関係ない」


「これからの人生どうするんすか?」


「俺には力がある」


「厨二病!」

"厨二病!"


鼓太郎と"性悪の"がハモる。全く失礼な奴等だ。


「やるべき事があるんだ」


「厨二病!」

"厨二病!"


「お前の為だろ、ふざけるな!」


「えっ、自分すか!?」


「あっ、いや、違う」


クソ。ややこしい。"性悪の"に言ったつもりだったのに。


神憑きに憑いてる神の残滓や神の化身が見えるのは、同じ神憑きだけだ。鼓太郎には当然見えない。


「自分が言うのも変ですけど、考え直してくださいよ」


鼓太郎が泣きそうな顔をしている。たかだか高校に行く行かないで大袈裟なやつだ。


「もう決まったことだ。別に死ぬわけじゃない」


「……」


「ほら、授業が始まるぞ」


「……了解っす」


鼓太郎はとぼとぼと歩いていった。



#



「根岸、本当に高校に行かないつもりか? まだギリギリねじ込めるぞ」


理科準備室の主であるウチのクラス担任が、加熱式タバコを吸いながら言う。校内は完全禁煙の筈だが、とんだ不良教師だ。


「いかねーよ」


「本当に?」


「本当だ」


「だと思った」


カラカラと笑うこの教師は決して悪い人間ではない。両親を除けば1番俺のことを理解しているかもしれない。


「ま、一応担任だからな。仕事として確認しただけだ」


「ご苦労様」


「本当に生意気な奴だ。両親のどちらに似たんだ?」


「見た目は母親だな。性格は知らん」


「根岸の両親は本当に変わってるよなー。参観日の度に職員室で話題になってたぞ」


「まぁ、普通ではない」


「音楽の木下先生、昔から根岸のかーちゃんのファンらしいぞ。下手なことすると命に関わるから、絶対に失礼がないようにって釘をさされたよ」


「ダンジョン時代からのファンは調教済みなんだよ」


「ネットで検索したらやばい噂ばっかりでてくるからクラスの担任を断ろうと思ったぐらいだ。あれって、本当なのか?」


「ネットに載ってるの氷山の一角らしい」


「うへー」


担任は見えない煙を吐いて戯ける。


「それで、根岸はこれから何をするつもりだ?」


「……説明が難しい」


「ゲームで例えると?」


「……育成ゲーム」


「えっ、馬か?」


「いや、ネズミなんだ」


「そんなゲーム流行らないだろー」


"はぁ? 爆売れなんですけど!? この教師、いっぺんシメたるかー"


何か聞こえたが、とりあえず無視だ。


「まあいい。とりあえずネズミの育成ゲーム頑張れ」


「先生もクビにならないように頑張れよ」


ウルセーという声を背に受けながら、俺は理科準備室を後にした。

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