ホクホク
"うおおおお! 力が漲る!"
肩の上で黒いネズミが力瘤を作ってみせる。実際のところ、こいつから感じる神威は強くなっている。それに伴って俺の力も増している筈だ。
「神の残滓を5体も食わしてやったからな。感謝しろ」
"生意気な! 私が力を貸したから何とかなったんだろ!"
「サーカスの連中が馬鹿過ぎた」
"……それは否めないな"
サーカスの拠点を襲撃し、見事に神の残滓を平らげてきた。今頃、奴等は目を覚まして絶望していることだろう。
「でもハジメ君、よかったの? 愛田に顔を晒しちゃったでしょ? サーカスから狙われるんじゃない?」
すっかり新宿の事務所に慣れた九賀はソファーに深く腰をかけ、缶ビールのプルタブを起こした。
「大丈夫だろう。もう愛田は壊れていた。誰もまともに相手はしない」
「プハーッ! まぁ、何かあったら私が守ってあげるから安心してね」
九賀は随分とご機嫌だ。
"ハジメ! 私にもビールを捧げろ"
「断る」
"酷い!"
「ところで【変身】ってスキル、ハジメ君は使っても大丈夫なの? 愛田はおかしくなっちゃってたじゃない? ちょっと心配」
もう飲み干してしまったのか。九賀は2本目の缶ビールに手を伸ばす。
「程度の問題だ。一回や二回使ったところでなんてことはない。愛田はやり過ぎたんだ」
「プハーッ! あの感じだと、毎日何人もの別人になっていたでしょうからね」
九賀が飲む缶ビールを"性悪の"が羨ましそうに見ている。
「スキルの力に溺れた奴の末路は悲惨なものだ」
「ハジメ君は幾つぐらいスキルを使えるの?」
「さあな。この疫病神と一緒に父親からスキルまで引き継いでしまったからな。自分でもどれだけのスキルを使えるのかは知らない」
「スキル強者でたわね。お父さんからちゃんと聞いてないの?」
「あまり会話しないからな」
"ハジメ、私がスキルについて教えてやろう! その代わり缶ビールを捧げるのだ!"
「断る」
"なんでぇぇ"
"性悪の"は肩から項垂れる。なんでって、それはその方が面白いからだ。分かってないな。
「で、ハジメ君。これからどうするの? 一気にサーカス潰しちゃう?」
「いや、それは時期尚早だろう。さっきは上手くいったが、サーカスの奴等が全員あそこまで間抜けな筈はない。力を蓄えるべきだ」
「どうやって?」
九賀は首を傾げる。
「簡単なことだ。俺達も都市伝説としての知名度を上げ、信仰を集める!」
俺の声が事務所内に響くと、"性悪の"がニヤリと笑った気がした。