2人の愛田
「どうした!?」
「何があった!?」
「襲撃か!?」
「敵は何処だ!?」
池袋拠点にいたサーカスの団員が全員、トレーニングルームに雪崩れ込んで来た。偽物の叫び声を聞きつけたのだ。
「……愛田さんが2人?」
「……神の残滓まで同じ姿をしているぞ」
「……一体、どうなっているんだ?」
「……夢でも見ているのか?」
偽物も【変身】のスキルを使っているのだろう。見た目では判断は出来ないか。
「俺が本物の愛田だ!」
「馬鹿言うな! 俺が本物だ!」
ふざけやがって! 俺と全く同じ見た目の偽物が、我こそが本物だと主張する。困った団員達が相談を始めた。
「どうする?」
「本当の愛田さんしか答えられないクイズを出すとか?」
「でも俺達、愛田さんのことあまり知らないぞ」
「確かに」
いやいや、ちょっと待て! もう何年一緒にやってるんだ!
「まぁ、とりあえずやってみるか? クイズ、どっちが愛田でショー!!」
拍手が鳴り響く。こいつら、楽しんでないか? 後で覚えていろよ。
「第一問! 愛田さんが毎朝食べて──」
「クリームパン!」
「ブー!」
なんでだ! 俺は毎日クリームパンを食べているぞ!
「問題は最後まで聞いて下さい。右の愛田さん、面倒なので右田さんは一回おやすみです」
「なっ!」
団員達はノリノリで続ける。
「愛田さんが毎朝食べているのはクリームパンですが、どこのメーカーのクリームパンでしょうか?」
「……浜崎パン?」
「正解! 左の愛田さん、左田さん1ポイント先取です!」
それはなんとなく勘で答えられるだろ!
「では、第二問!」
落ち着け。最後まで問題を聞けば間違える筈はない。俺は本物なんだ。
「愛田さんの出身は愛知県ですが、愛知県の県庁──」
「名古屋市」
「正解! 左田さん連続ポイントです!」
「ちょっと待て! それは誰でも答えられるだろ!?」
「誰でも答えられるのに、なぜ右田さんは答えなかったんですか?」
ぐぬぬっ! こいつら、許さん!
「では、第三問!」
今度こそ俺が愛田だということを証明してやる。
「愛田さんが一番大事にしているものは何?」
……俺が大事にしているもの。何だ? 何が大事? そもそも俺はどんな人間だった? 隣を見ると、俺の顔がある。俺はこんな顔だったか。自分の顔をしっかり見たのは、久しぶりな気がする。
「遅いぞ」
うん? 何が遅い──。
カランッ。
乾いた音がした後、閃光と破裂音がトレーニングルームを蹂躙した。




