トレーニング
肩に神の残滓を呼び出し、今日のトレーニングを開始する。
先ずは今日の1人目の挑戦者に【変身】で姿を変え、服を脱いで鏡の前に立つ。映るのは若々しい男の身体だ。ほほう。なかなかの筋肉。特に下半身がいい。サッカーでもやっていたのだろうか? その分、ボディーブローは全然効かなかったが。
一通り若い男の身体をチェックしてからスクワットを開始。呼吸を意識しながらゆっくりと。くはー。効く。【変身】中はただでさえ体力が奪われる。しかし、この状態で負荷をかけて筋トレを行うと非常に効果が高い。元の身体に戻った時もパンパンだ。
スクワットを終えて【変身】を解くと一気に力が抜けた。思わず膝が落ちる。今日はもう1人に【変身】するのが限界だな。
さて、息を整えてからもう一度【変身】。今日の2人目の挑戦者は40歳前後の弛んだ身体のサラリーマンだった。酔っ払って気を大きくし、挑戦してきたパターンだろう。念の為、裸になって身体をチェックするがやはり予想通りの醜悪な姿だ。見るに耐えないな。吐き気がする。
「うわっ! 変態!!」
突然開けられたドアの方から叫び声。こいつはさっきの新入り、確か峯岸と言ったか。
「騒ぐな。俺は愛田だ」
「ふざけるな! 愛田さんはお前みたいなオッサンじゃない。変態っぽいのは同じだけど」
「誰が変態だ! 無印の癖に調子にのるなよ」
「誰かー! 変態がいます!!」
小僧が調子に乗りやがって! 慌てて【変身】を解除する。
「……はぁはぁ、どうだ」
クソ。身体がキツい。1日に何回も【変身】したせいで体力がやばい。
「息が荒くて変態度が増した!」
「……そ、そうじゃなくて。お、俺が愛田だってわかっただろ?」
なんで俺が言い訳をしなきゃならないんだ。流れがおかしいぞ。
「変身できるなら、愛田さんに化ているだけかもしれないじゃないか! さっきの汚いおっさんが本当の姿かもしれない!!」
うん? どういうことだ? さっきのおっさんが本当の姿? 何を馬鹿なことを言っているんだ。
「毎日、別の人間に【変身】しているだろ? おっさんは」
……確かに毎日【変身】している。だが、俺は愛田の筈だ。俺は愛田だよな?
「自己同一性ってのは存在の連続性が前提だ。毎日、別の誰かになっている奴がどうやって本当の自分でいられる?」
急に胸が苦しくなる。
「なぁ、愛田よ」
峯岸の肩に黒いネズミのようなものが現れる。こいつ、無印じゃなかったのか!?
「お前は本当に愛田なのか?」
峯岸の身体が輝き、見た目が変わる。こいつ、何処かで見たことある。そうだ! 望月と同じ日に渋谷にいた少年!?
「もしかしたら、俺が愛田かも知れんぞ」
峯岸がもう一度、光に包まれる。そして現れたのは俺だった。




