池袋拠点
「あっ、愛田さん。お疲れ様です!」
「見慣れない顔だな。新入りか?」
「はい! 峯岸といいます!」
池袋拠点に戻るなり、少年が威勢よく声を掛けてきた。ちゃんと俺の名前を知っているのは感心だ。俺と会ったのは初めての筈だが、しっかりと教育が行われているのだろう。俺もサーカスでの地位が確立されたってことか。少し気分がいい。
「今日も渋谷に行ってたんですか?」
「おっ。よく知っているな」
「はい! 教育係の方に教えて貰いました」
よしよし。良い傾向だ。この調子で行けば俺も幹部の仲間入りだな。
「ところで、峯岸は神憑きなのか?」
「……いえ。無印です」
ふん。無印か。下働き要員として孤児院から調達されて来たか口だな。そういえばこの前、脱走した奴がいたな。その代員ってことか。せいぜい、こき使ってやろう。
「よし、峯岸。この看板、物置に仕舞っておいてくれ。大事な商売道具だ。丁寧に扱えよ」
「はい! 了解です!」
勢いよく立看板を受け取ると、新入りは行ってしまった。なかなか素直な奴だ。無印だから戦闘では使えないが、小間使いとしては良さそうだ。俺がもう少し偉くなったら専属にしてやってもいいな。そんなことを考えていると、聞き覚えのある声に呼ばれた。
「よう、愛田。逆に戻ったか」
「団長! いらしていたんですか!?」
カイゼル髭のダンディーな男が幹部室の方から歩いてきた。我らがサーカスのボス、韮崎団長だ。
「巡業のついでだ。愛田、"カチカチ腹筋"の噂は聞いているぞ。逆によくやっている」
「ありがとうございます!」
サーカスの表の顔、韮崎大サーカスの巡業がちょうど都内で行われている。とはいえ団長は忙しい。そんな忙しい中、わざわざ拠点に来てくれたのだ。有り難い。
「猛獣ハンター望月の件は逆に残念だったがな」
「も、申し訳ありません! 油断していたわけではないのですが……」
「顔を上げろ。奴にはしてやられたが、逆に知名度は上がった。これからやってくる挑戦者を退ければ、逆に神の残滓の力は増すことになるだろう」
「はい!」
「逆に期待しているぞ」
「ご期待に添えますよう、頑張ります!」
団長はガレージの方へ行ってしまった。韮崎大サーカスに戻るのだろう。もう少し話をしたかったが忙しいお方。声を掛けてもらっただけでも有り難い。
「よし、やるか」
韮崎団長の期待に応えて為にも、トレーニングは欠かせない。俺は地下のトレーニングルームへと向かった。