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父親から引き継いだ神様がとにかく煩い

"ハジメ、急げ! 逃げられるぞ"


俺の肩にのった黒いネズミのようなモノが言う。


「わかってる。黙ってろ」


"おー怖。とーちゃんを見習ってもっと私に優しくしろー"


「地球に取り残された分際で俺に指図するな」


"うおおぉぉー心をえぐられたぁぉ! 謝罪を要求する!"


「ふん。事実だろ」


俺の視線の先ではスーツを着た男が夜の街を疾走している。最初に見た時はヨレヨレの冴えないオッサンだと思ったが、やはり神の残滓が憑いていると侮れない。


明らかに常人を超える身体能力。そしてスキルと呼ばれる特殊能力を操るのが、神憑きの特徴だ。


"おっ、この先は倉庫だな。そこでやっちまおう"


線路沿いに建てられた中規模の物流倉庫には人気がない。男は門を飛び越えてそこへ入って行った。誘っているのかもしれない。



"へへへ。袋のネズミだなー"


男は倉庫と倉庫の間で待ち構えるように立っていた。奥には高いフェンスがあって門のように一息で飛び越えることは出来ない。


「お前が都市伝説"終電ビショビショシート"の正体だな?」


「さあな」


男の声には余裕がある。こちらが小さいから舐めているのだろう。


「終電で眠りこけた女性を狙い、その座席を濡らす。スキル【水生成】あたりか」


「……」


男は答えない。


「冷たさで目を覚ました女性は自分が疲れのあまり失禁してしまったと勘違いし、取り乱す。どーせお前はその様子を見てニヤニヤしていたんだろ? 変態め」


「うるせえ! 変な覆面つけやがって。正義の味方のつもりか?」


「別に正義なんてものに興味はないな。用があるのはお前の肩にとまっているその虫だ」


男の肩には薄らと輝く虫がとまっている。元々はカナブンか何かだろう。光も弱く神威もそれほど感じない。


"ちぇ。食いでのなさそうな奴だぜ"


「いらないのか?」


"いやいやいや、もちろん頂きますよ! ハジメ坊ちゃん"


まったく調子のいい神の化身だ。


「何ぶつぶつ言ってやがる!」


「お前をどうやって調理しようか神様と相談してたのさ」


「くっ、死ね!!」


男から飛来したモノを躱すと、それは倉庫に当たって弾ける。水の弾丸だ。


「それだけか?」


「ふ、ふざけやがっ──」


ゲホッ。


一気に距離を詰め、掌底で鳩尾を撃ち抜く。男は間抜けな声を出して崩れ落ちた。


"一丁上がりー!"


「お前は何もしてないだろ」


"私がいるからハジメは強いんだろーが! もっと敬え"


「いいから、さっさと食え」


へいへーいと言いながら黒いネズミのようなモノ──神の化身──が俺の肩から降り、男にとまっていた虫に近づく。


"いっただっきまーす"


輝く虫──神の残滓──を食べると、神の化身は少し大きくなった気がした。


「どうだ、"性悪の"。美味かったか?」


"まあまあだな。この前食べたオムライスの方が味はよかった"


あれは冷凍食品だ。貧乏舌め。


「よし。標的は沈黙した。帰るぞ」


"うっわー、厨二っぽいセリフ! うける"


「うるさい! 俺はもう中三だし、卒業間近だ!」


"その割には小さいですねー? 父親はデカイのに"


「俺は母親似なんだよ! 知ってるだろ!」


本当にムカつく奴だ。なんでこんなのが神の化身なのか。


"さっ、ハジメ。早く帰って寝ないと身長が伸びないぞ!"


「余計なお世話だ! 今晩は酒を捧げないからな」


"は、ハジメ坊ちゃん! 少し身長が伸びたのでは?"


「絶対に酒はやんねー」


よよと泣く"性悪の"を無視して、俺は帰路へついた。

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