お説教
俺は今、緊張している。久しぶりに家に帰って来た父親に呼ばれたからだ。
滅多に3人揃うことのないダイニングテーブルは沈黙に支配され、身動きが取れない。金縛りにでもあっているようだ。
……誰でもいい。何か言ってくれ……。
"あれ? ハジメ、ビビってる?"
お前はしゃべるな。
父親はいつも通り目付きが鋭く、それでいて何を考えているのかは分からない。一方の母親は──。
「ふぁぁぁ」
あくびをした。そろそろ飽きてきたようだ。
「ハジメ」
「……何?」
「なぜ呼ばれたか分かっているな?」
「……分かってない」
「勘が悪い」
そう言って父親はスマホを取り出し、画面をこちらに見せてくる。
「スマホケースが新しい?」
「よく気が付いたな。だが、そこではない。画面を見ろ」
見せられたのは日本最大級の電子掲示板、都市伝説スレだ。
「ここで覆面親子って奴等が話題になっている」
「……」
「最近、都内に現れるそうだ」
「……へぇ」
「覆面を被った親子が夜の街を駆け抜け、墓を荒らしたり、野菜を収穫したり──」
「野菜の件は事実無根!」
「墓は荒らしたな」
「あれは相手がやったことで!」
「別にそこを責めるつもりはない」
「……はい」
「このスレでは覆面親子の母親の方が話題になっていたぞ」
「……はい?」
「せっかく都市伝説スレの仲間入りしておいて、恥ずかしくないのか?」
母親が急に目を覚まして、ウンウンと父親に同意している。
「母さんなんて若い頃はやばいエクスプローラースレで必ず10位以内に入っていたぞ」
「サブロー、違う。5位以内」
ど、どうでもいい……。そもそも誇れることなのか?
「ハジメ、なんでもいい。世間がひっくり返るようなことをやれ。しでかしてしまえ」
何故だか分からないが、悔しさが込み上げてきた。
「とーさんは何かやったの?」
「……そうだな。それは、"性悪の"にでも聞けばいい」
なんだよ。結局言わないのか。
"ハジメ! 上等な日本酒一本で話してやるぞ"
最近のネズミ野郎は日本酒にハマっている。一升瓶を捧げれば喜んで話すだろう。
「ところで、覆面親子の母親役はどんな奴だ」
父親の瞳に好奇の色が宿る。
「えっ、20代後半のただの神憑きの女だけど……」
「おねショタか」
「そーいうのではない! そもそもショタと呼ばれる歳じゃない!」
「覆面親子ではなく、おねショタ仮面で広めておこう」
「やめてくれ!」
父親は謎のネットワークを持っている。絶対に阻止しなければ……。
「はっはっはっ。冗談だ。そんなに怒るな」
翌日から、都市伝説スレ内では覆面親子はおねショタ仮面と呼ばれるようになった。




