表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

図書館

図書館なんて所に来るのは何年ぶりだろう。駅から少し離れた土地に建てられたそれは、随分と新しい。こんなところに神憑きが現れるのかと考えていると、九賀に手を引かれた。


「なんだ」


「ぼけっとし過ぎ。行くわよ」


「周囲の状況を確認していたんだ。標的がどちらに逃げるか事前に想定しておいた方がいい」


「あっ、それっぽいこと言うじゃない。私に尾行されてたくせに」


こっ、この女。地味に痛いところを突いてきやがる。


「あれは作戦だった」


「はい、嘘ー。あの時のハジメ君の焦った顔ったらなかったわよ」


"性悪の"が隠れて静かになると思ったらこれだ。いつまで経っても図書館に入ることにならない。


九賀を置いて早足で図書館の入り口に向かうが、あっさり追いつかれてしまった。残念だが歩幅が違う。


「もう、拗ねないでよ」


「拗ねてない。既に戦いは始まっている。気を抜くな」


はいはいと聞く耳を持たない九賀を睨みつけてから、いよいよ図書館に入った。



#



しんとした館内に響くのは司書が本を整理する音ばかりで、会話するのも憚られる雰囲気だ。


事前の情報の通り、トイレは閲覧席が並んでいるスペースのすぐ近くにある。都市伝説"消える音○"の元凶は閲覧席からスキルを使っているに違いない。


適当な本を棚から取り、九賀と隣り合って閲覧席に座る。周囲には本を読んでいるのが5人。もしかするとこの中に神憑きがいるかもしれない。


「えっ、料理本?」


何でこいつは話し掛けてくるんだ。空気が読めないのか。


「……悪いか?」


出来る限りの小声で返す。


「意外。料理なんてするの?」


「夕飯は大抵、俺が作る」


「お母さんは?」


「床で寝てる」


「えっ?」


「もういいだろ。集中しろ」


「なんで床?」


「本人に聞け」


「お家に招かれちゃった」


知らないというのは幸せなことだ。ウチの両親に会ってまともな会話になると思っているのだろうか。


「しかし、動きがないな」


人の入れ替わりはあるものの、閲覧席に怪しい奴はいない。皆、普通に本を読んでいるだけだ。


「なんか拍子抜けね」


「まだ初日だぞ」


「誰かトイレ行かないかしら」


「九賀が行ってこい」


「嫌よ。ハジメ君が女子トイレ行けば」


「……馬鹿だろ」


「ハジメ君は服を変えればノーメイクでも大丈夫よ」


「どういう意味──」


不意に若い女性が立ち上がり、トイレの方に身体を向けた。九賀も流石に黙って様子を伺う。


女性はタイルカーペットの上を音もなく歩き、トイレへと入っていった。もし仕掛けてくるならそろそろだ。


閲覧席の全てを視界に収め、集中する。


さぁ、神の残滓よ。


今がチャンスだ。逃すんじゃない。


そして曝け出せ。その正体を──。


視界の端に何かが飛び込んできた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ